第五話:2010年9月19日(中編)
──そうこうして、周さんに連れてこられた所は、普通のアパートだった。
「ここが、沢登が教えた場所なんですか?」
「調べた限りそうだけど、正直僕にも何が起こるか分からないよ……まさかアパートの一室なんてね。ま、とりあえず入ろっか。」
俺と周さんは、メモに書かれた号室に向かい、そしてドアの前に立った。そして着くなり、周さんがインターホンを押す。……果たして、どんなやつが出てくるか。
──ピンポーン……
……
……
……ガチャッ。
「へーい……ん、誰じゃ?お前たちは。」
……出てきたのは、いかにもガキっぽい容姿のクセに、歳不相応な白衣をまとった少女だった。声もガキだ。
「警視庁調査一課の周……です。こっちは……」
「……岩藤昇……だ。」
「なんじゃお前。はじめましての相手に丁寧語ですら話せないのか?」
「そ、それはお前もだろ!このガキ!」
「お、おい……岩藤君……」
「……ふん。まあいい。大体要件は察している。上がりたまえ。」
「……ちなみに伺いますが、大人はいないの……ですか?」
「わざわざ敬語を使わんでいい。……あと、ワシはこれでも成人じゃ。そして、この部屋にはワシ一人しかいない。」
「……って、年上かよ!!」
「悪かったな少年、歳上で。」
コ、コイツ……クソッ、逆らえねぇ……。
「まあ、ワシも慣れっこじゃ。歳下に敬語を使われないことにも慣れている。好きにしたまえ。」
「そ、それじゃあそうするぞ。」
「じゃあ僕もそうさせてもらうね……まあ、それはさておき。本題に行かせてもらうけどいいかな?」
「構わんぞ。どうせ、沢登のやつの差し金じゃろ?」
「そうだね。で、聞きたいんだ。彼がなぜここ珠僕たちを導いたのか。」
「……おそらくここが、沢登の“計画”の中心地じゃからじゃ。そして、ここにそこの少年を招くことが、計画の一部なんじゃ。」
……計画!?それに、俺がここに来ることがその一部……一体どういう意味だ!?
「……それで、計画っていうものは何のことで、そしてなんでそれに岩藤君が関わっているの?」
「……疑われるのが嫌じゃから先に断っておくが、この計画の首謀にワシは関わっておらん……沢登が勝手に始めたことじゃ。その前提でいいなら話そう。」
「……了解。」
「よし、まずはこの部屋に入ってもらう。」
「この部屋に何かあるのか?」
「……見ればわかる。」
──そいつが扉を開けた瞬間、目に入ったものは……見ても分からない機械の塊だった。
「……なんだよ、これ。」
「ん、見てわからんか?これは……“T-メール送信機”、じゃ。」
……T-メール!!
「……やっぱり、そうなんじゃないかと思ってたよ。ここに、T-メールの何かがあるってね。」
「そ、それじゃあお前はT-メールが何か知っているのか!?」
「ワシの名前はお前じゃない。今宮陽寄里じゃ。」
「……今宮さん。あんたはT-メールの正体をしっているのか?」
「もちろんじゃ。聞きたいか?」
「聞きたいも何も、俺はそのために来たんだ!紘海を救うためにT-メールの手掛かりを……」
「……なるほどな。じゃあ教えてやる。T-メールとは、“過去メール”のことじゃ。」
「……過去メール?」
「岩藤君が例のメールを見せてくれた時、君はそれを“未来メール”って言ってたよね。今宮さん、過去メールと未来メールって、何が違うと思う?」
「未来メールってあれじゃろ、未来から予言とかが送られるという都市伝説のことじゃろ。対して過去メールっていうのは、つまり過去に送ることができるメールのことじゃ。
この違いというのは、ある人から見たそのメールに対する根本的な意識の違いがあるんじゃ。まあ、簡単に言えば未来メールは未来からメールが来たという受信者側の意識、過去メールは過去に送るメールという送信者側の意識という違いがあるんじゃ。
その意識の違いによって発生することは、つまりメールの見方の違いが出ることなんじゃ。過去メールは過去にあったことを述べていて、未来メールは未来に起こるであろう内容を述べている、あるいはそのように受け取ってしまう。
まあ要するにじゃ。ワシがT-メールを“未来メール”ではなく“過去メール”と呼んでいるのは、ワシから見たらこれは送信者側で、送ることといえば過去にあった事実じゃからじゃ。」
「なるほど。つまりT-メールは、送る側にとっては完全に過去の内容で信用に足るものだが、対し受け取る側にとっては全くの信用に足るものではない、ということだね。」
「周、そなたは飲み込みが早いな。少年、分かったか?」
「え、い、いやー……」
……全然聞いてなかった。悪いが。
「……まあとにかく、少年。過去を変えるほどの内容を持ち合わせ、それでいて受信者の未来を変える説得力が含まれる、そんな決定的なメールを過去のある時点の誰かに送って、最終的に角倉を救う。それが沢登の計画じゃ。」
「……それじゃあ、紘海を救うという行為自体が沢登の手の上の出来事ってことじゃないか!!」
「いや、救うこと自体に意味はないんじゃ。T-メールは人の命を救えるのか、それがおそらく重要なのじゃろう。なにせ、あやつこそがT-メールの開発者なのじゃからな。ワシはあやつの知人に過ぎん。」
「沢登がT-メールの開発者……じゃああいつはただの好奇心で紘海を殺したっていうのか……」
「でも、そうなると矛盾が出てくるよね……沢登の証言や、あと角倉さんの遺書にも。ちなみに、今宮さんは角倉さんのこと知っていたのかな?」
「ほとんど知らん。しかしこの前、沢登からメールを頂いたんじゃが、その時に計画とともに角倉紘海という人間を初めて知ったんじゃ。」
「……そのメールというのは?」
「これじゃ。9月6日に送られたものじゃが、内容はこれじゃ。」
『計画の準備が整った。角倉紘海を被害者とし、岩藤昇がT-メールで彼女を救う。T-メールはおそらく人の命さえ左右してしまうはずだ。計画のために、君にも協力して欲しい。以上。』
「……待って。この文章、かなりこの事件の根幹に迫っているよ。」
「どこがですか?」
「このメールが送られたのは先々週の月曜、事件のちょうど一週間前だ。なのに角倉さんどころか岩藤君の名前も出ている……ここから考えられることは一つしかないよ。」
「ま、まさか……一週間前から紘海と沢登は面識があった……つまり紘海は、自分が死ぬことを知っていたんだ……!!」
「それどころか、角倉さんが自殺ということになってしまうよ!だから彼女は、完全に沢登と共犯、という結果になってしまうね……」
紘海が自殺……?最後に会ったとき、紘海は笑ってたんだぞ……自分が死ぬと決まっていたのに……クソッ!
「……これも全部、沢登の仕業なのか、あるいは角倉さんの意志かは分からない。でも、このメールはその二つの可能性に絞ってしまうのも、また事実だよ。」
「いや、もう一つの可能性もあるじゃろ。」
「……!!もう一つの可能性って!?」
「T-メールで角倉と少年を知った、という可能性じゃ。」
……T-メールで、俺と紘海を知った!?しかし、あるいは……いや、その可能性も捨て難い……むしろ、そうであるなら──!!
続く




