第三話:2010年9月16日
……ピピピピピピッ
ああ、眠い。それでも、今日も学校に行くとするか。
──この何気ない通学路でも、やっぱり紘海を見ることは二度とないんだろうな。……なんか、だんだん分かってきたような気がする……失ってから気付く幸せというものが。
そういえば昨日、周さんから連絡があったな……メールの送信者、すなわち容疑者を捕まえた、って。たった一日であのメールの送信者を特定し、逮捕まで至るなんて、人は見かけによらないんだな。いかんせん、まだ証拠を掴んだ訳じゃないためにメディアには公表してないらしいが……その犯人って、どんなやつなんだろう。
──それにしても、教室は依然としてお通夜状態だ。無理はない、まだ三日しか経っていないんだから。クラスメイトが死んだという事実は、誰であっても受け入れ難いものだろう。……実際、俺もだ。
──今日も何気ない一日が終わろうとしている……紘海だけがいない、何気ない一日が。間もなく家に着くが……これで今日を終わらせて良かったのか……
「あれ、君は……」
俺の家の前にいたのは紘海の弟、弘土だった。
「どうしたんだ、何か用か?」
「あ、昇くん……ちょうど、昇くんに用があったんです。」
「俺に、用がある?どうして?」
「……帰って早々悪いですけど、一回うちに来てもらえますか?」
「あ、ああ。」──
──「お邪魔しまーす。……それにしても、いつぶりかな。」
「たしかに。最近は昇くん、うちに来ませんよね。」
「……ま、きっかけがないからな。」
「はは……それじゃあ、一回こっち来てください。」
「そっち、って……」
……紘海の部屋だ。最後に行ったのは、中二の頃だったっけな……その頃からこの部屋は、一切変わってない。
「それで、用って?」
「はい……これです。」
「これは……遺書!?」
「はい。ぜひ、昇くんにもこれを読んで欲しいんです……いや、むしろ昇くんが読むべきです。」
俺が読むべき……?じゃあ遠慮なしに読むが……なになに──
『昇、あなたがこれを読んでいるということは、私を救うことができなかったんでしょうね。あるいは、ただその気がなかっただけかも。でも、大丈夫。私達にはT-メールがあるから。
──だからお願い、私を救ってみせて。
倒れかけの十字架を、三つ添えて。角倉紘海より。』
……なんだこれ。まるで、紘海はあの日に死ぬことを知っていたみたいな……。それに“T-メール”とか“倒れかけの十字架”とか、まるで意味がわからない。
「ちなみに、他に遺書で書いていることはなかったのか?」
「それで言えばあったんですけど、そっちは俺ら家族へのものだったから、別にとってあるんです。でも、昇くんのものに比べて明らかに短かったんですよ。」
「短かった?一言だけとか?」
「その通りです。ただ一言、“ありがとうと言えなくてごめんなさい”、ってだけでした。」
「ますます意味が分からないな……そもそもなんで遺書なんか書いたんだ?普通、遺書って自分が死ぬ場合に書くものだろ?読む感じ、紘海はそうなることを知っていたようだが……待てよ、弘土。この遺書って、どこで見つかったんだ?」
「え?もちろんここ、紘海姉の部屋ですよ。」
「だよな……でも、それだとおかしくないか?だって、この事件って“誘拐事件”なわけだろ?でも、この遺書の存在が、誘拐事件ということを否定していないか?」
「た、たしかに……そうなると紘海姉と犯人は元から良からぬ関係があって、日曜日に会った時、ついにその人と何かトラブルが発生した、ということになりますね。」
「まあそうだよな……そうだ!このことをあの人に連絡すれば、何か役に立つかも……」
「え?あの人って……」
「刑事の人だよ。一昨日会って、この事件がきっかけで連絡先を交換したんだ。」
「そうなんですか……じゃあよろしく頼みます!……藁に縋ってでも俺は、紘海姉を殺した犯人を、絶対に許すわけにはいきませんから……。」──
──弘土と別れて、家に戻った。夕食までまだかかりそうだし、今のうちに連絡するか。
『トゥルルル……もしもし、周です。』
「もしもし、岩藤です。あの、今時間いいですか?」
『岩藤くんか、もちろん。どうしたの?』
「あの事件のことなんですが……紘海の遺書が、部屋で見つかったんです。」
『……え!?ほ、ほんとに!?』
「はい。まあ内容は割愛しますが……結論だけ言います。俺の推理だと、この事件はただの誘拐事件じゃないと思います。」
『……あ、そうだ。それで思い出したんだけど……君に、犯人と面会してほしいんだ。重要参考人として。』
……は!?随分といきなりだな。こっちは犯人の顔すら知らないんだぞ……そんな人と話すなんて……そいつと話せるなんて……むしろ、このチャンスは逃したら駄目だ。
「……はい。むしろこちらからお願いします。それで、さっきの話なんですが……」
『ああ。それなんだけど、それも君に言おうとしていたんだ。君の推理は、おそらく正しい。これはただの誘拐事件じゃない──“計画的殺人事件”だ。』
「計画殺人……その言い方と、俺の意見を否定しないということは、やっぱりあのメールの送信者が……」
『その通り。彼がこの事件の犯人だ……おそらく。』
あのメールの送信者が犯人だと……紘海を殺した犯人が……!
「その人は……そいつはどんなやつなんですか!!」
『多分、テレビに出てるんじゃないかな?』
……既に、メディアに公表されていたのか!慌てるな、じっくりそいつの顔と名前、拝んでやる……!──
──急いで向かったリビング。そこのテレビに映っていたのは、いかにもインテリな雰囲気を醸し出すメガネの青年の写真と、そして……
「……沢登響太郎。」
『そう。沢登が、この事件の容疑者なんだ。日曜、彼に会ってもらうけど、いいかな。』
「……はい、もちろんです。」
多分、俺が沢登響太郎と面会するのは何かしらのわけが……おそらく、沢登が俺に対して何かがあってだろう。
……でも、沢登響太郎が俺に何の用かは知る由もなければ、それもどうでもいい。ただ、俺は聞きたい……なぜ、紘海を殺したのか。
──沢登響、覚悟しておけ……俺はお前を絶対に許さないからな……!
続く




