第二話:2010年9月14日
……鳥の鳴き声が聞こえる。目覚ましより若干早く目が覚めてしまった。ああクソ、全然寝れなかった。原因は……紘海の死、だろうな。
一晩たっても、俺の決意が変わることはなかった。俺が未来メールの送信者となり、紘海が死ぬ前に助ける。そのために……何をすればいいか。まあ、手法は全く検討がつかないが。とにかく今日は、学校を休もう……捜査のために。とりあえず、珠桜公園に行ってみるか。
──というわけで珠桜公園に来てみたが……昨日の今日だ、警察官や刑事がそこらにいる。確か発見現場は川だったはずだような……
「ち、ちょっと!君!こんなとこで何やってるの!?」
「……え?」
唐突に語り掛けてきたのは、見るからに頼りなさそうな若い男の刑事だった。
「え、って。見た感じ、高校生でしょ?なんで学校に行ってないの。それに第一、公園のこの辺りは厳戒態勢で一般人は立ち入り禁止になっているんだけど……」
はァ、めんどくさいのに絡まれた。……逃げるか。
「……あ!!ちょっと待って!!」
待てと言われて待つかよ……って、速!?
「ッ!は、離してください!」
「あ、ご、ごめん……。ちなみに、一応聞くけどいいかな……君って、昨日の事件に関係してたりするの?」
「……関係してたらどうするんですか。」
「その言い方からして、何かあると見るけど……手荒な真似はしないけど、ちょっと話を を聞かせていただくよ。いいかな?」
……気は乗らないが、この人も警察の人間だ。何か、この事件で知っている話を聞き出せるはずだろう。それならば、協力するのもやぶさかではない。
「……はい。」
「あ、立ち話もなんだし、あのベンチに座ろうか。」──
──「へえ……つまり、岩藤くんは角倉さんの古くからの友人だったと。同じ高校で、角倉さんは昨日、学校に来てなかったんだね?」
「はい。そして、最後に会ったのは土曜日です。」
「その時、彼女に不自然なとこはなかった?」
「……はい。むしろ、笑っていました。」
「ふーん……ちなみにさ、岩藤くんと角倉さんって、付き合ってるの?」
な、なんてことを聞くんだ、コイツは……思わず罵詈雑言しそうになってしまった。むしろさせてくれ。
「付き合ってなんかないですよ……ただの幼馴染です。」
「なるほどね……ちなみに、興味で聞いてるんじゃないからね。」
コイツ……心を読んでるのか?
「じゃあ何のためなんですか?」
「単純だよ。角倉さんの死が、君にとって学校をサボるほどのものだということでしょ?なら、君と彼女は何かしら大きな関係を持っているはずだ。僕は、それを確かめたかったんだ。」
……そうか。この刑事の言うことも最もだ。それでも、俺にとって紘海は幼馴染の域を出ない……はずだ。いや、違う。俺がここに来た理由はただ一つだ。紘海が特別だからじゃない……決して。
「……俺は、紘海を助けたかったんです。もしかしたら、俺はあいつを助けられたかもしれないんです。紘海だから来たんじゃない……ただ、助けられたかもしれない人を助けられなかった、その贖罪がしたいんです。」
「……君が彼女を助けられた?贖罪?話が見えてこないな。まるで、彼女の死を知っていたみたいだ。そして贖罪だなんて、今から復讐でもするつもりかい?」
……ガワだけだと頼りないように感じたのに、なんだこの圧迫感は……俺はこの人を信用していいのか?未来メールのことを話してもいいのか?……いや、俺だって情報は欲しい。ならば、これをぶつけてやる。
「復讐だなんて……逆です。今から彼女を救うんです。」
「……は!?君は何を言っているの!?まさか、死んだ人を生き返らせるとか、そんな話をしたいの?」
「はい。そして、俺は紘海が死ぬことを知っていた、はずなんです。これを見てください。」
「これは……!“岩藤昇、君の幼馴染角倉紘海は本日2010/9/13に死亡する”、受信時刻は7時ジャスト……死亡推定時刻より数時間も前だ……これって、」
「未来メール、です。」
「は……え?未来メール?」
「都市伝説であるらしいんですよ……名の通り、未来から来るメールです。」
「え……えー?そんな馬鹿な……これは“犯行予告”だよ。」
「は、犯行予告……」
……俺はバカだ。冷静に考えれば、そう考えるのが当たり前だ。未来メールなんて都市伝説に本気になって……バカだ。
「そう……そうですよね。」
「……でも、そう考えるとおかしい点があるんだ。」
「え……それってなんですか!?」
「まあ一番変な点を挙げると、仮にこれが犯行予告だったら、何故君にだけ送られてきたのかということだ。そもそも犯行予告なら、メールを信じるかも分からない人物一人だけに送る意味が分からない。そこで考えられるのは、彼女にとって君は家族より大切で信頼している人間であるということだ。」
「紘海にとって、俺が……?」
「でね、何故大切な人の中でただ一人にメッセージを送ったか、そもそも我々警察はこの事件を誘拐事件と見ているんだ。つまり、このメールは犯人が彼女に対する慈悲か、あるいはただの自己満足だろう、ってこと……ただの犯行予告ならね。」
「その言い方、やっぱりこのメールは犯行予告じゃない可能性もあるんですか?」
「それはそうだよ。SOSかもしれないし、あるいは……未来メールかもしれないからね。とはいえ、文脈からしてSOSじゃないだろうし、普通に考えて後者はないとは思うけど。ちなみに、このメアドって知ってる人のかな?」
「いや、知らない人のものです。」
「ということは、だ。わざわざ犯行予告を、個人が特定されかねない自身のメアドを使って行ったんだ、彼女のじゃなくて。ちなみに彼女の遺体から本人のケータイは見つかっているから、犯人はあえて彼女のメアドじゃなくて、リスクを背負って本人のメアドを使ったんだ。」
「つまり、何らかの意図をもって犯人自身のメアドを使った、ってことですか?」
「そういうことだね。加えるなら、犯行予告とは別の意図をもってた、ってことだ。まあなんにせよ、君のおかげで犯人の正体に何歩も近づけたよ。ありがとう。」
「とんでもないですよ。むしろ邪魔だったですよね。」
「いやいや、そんなことないよ。ま、これから捜査の続きに向かうから、ここでお別れだね。じゃあね。」
……いやいや待て待て!俺がなんのために手伝ったと思ってんだよ!この事件の情報をくれよ!……仕方ねぇ。
「待ってください!……あの、俺も事件の調査の手伝いをしたいんです!」
「……へぇ。まあ君なら参考人になりうるか……じゃあ約束だ。くれぐれも世間に公表していないものを口外することを禁ずる。それを誓ってくれるなら、互いに情報交換をし合おう。それでいいかな?」
「……!はい!」
「じゃあこれ、僕のメアドと携帯番号だ。岩藤くんのも教えてくれるかな?」
「はい──ちなみに、なんてお名前なんですか?」
「あ、名乗ってなかったね。僕の名前は周研だよ。じゃあ改めて、以後よろしくね……そうだ、犯人が特定できたら、また連絡するね。それじゃ。」
「はい。ありがとうございます。」
──喉から飛び出るほど欲しい情報……まさか、あのメールから犯人が割り出せる可能性があるなんて……周さんと繋がれたのも大きいぞ。
でも、本格的にあのメールが未来メールか疑わしくなってきた……いや、あれは犯行予告でない可能性もあるんだ。本当に未来メールか、あるいは……ともかく、周さんの連絡を待つしかないな。連絡が来るまでは学校に行ってやるか。──
続く




