第十話:2010年9月13日/二回目(後編)
「そうか……君は角倉さんと幼なじみなんだね。」
「はい……でも、それだけです。」
「それだけって言っても……ちなみに君がここにいるのって、今回の事件と関係あったりするのかな?今、救えたはずって言ってたけど……」
そりゃあるけど、警察に紘海のことを話したって……
「……ないです。それとこれとは関係ありません。」
「ふーん。まあ偶然にしてはちょっと出来すぎてるけど……まあいいか。」
……こんな人と話し合っても意味なんてない。さっさと帰っ──
「──それで、なんで君が角倉さんの身に何かが起きたことを知っているのかな?」
「……は?そりゃだって、」
「そりゃだって?それはおかしいよ。だってこの件、まだメディアには報道されてないんだ。それに加えて、警察関係者以外は角倉紘海という人物に何が起きたのか知る人はいないはず。それなのに、なぜ君は知っているのかな?」
……!!う、迂闊だった。考えなしに喋ってたら……クソッ、
「ひ、人違いですよ!!俺の幼馴染のヒロミは事件の被害者のヒロミじゃないし、さっき言ったのはちょっとこの間なんかあって、その……」
「へえ、なんでこの事件の被害者がヒロミって名前なのを知っているのかな?」
「え、だって今……」
「被害者が角倉紘海だとは一言も言ってないよ。ただ君は、角倉紘海と幼馴染で、今ここで起きた殺人か誘拐か強盗か分からない、とりあえず何かの事件に君は関係ない、って話しかしてないよね。」
……は?そんなわけ……
「そんなわけない、って顔だね。ごめんね、カマかけて。まあそれはともかくだ。やっぱり話をする限り、君は角倉紘海を救うことが出来なかった……死、からね。つまり、君はこの事件のキーパーソンってことだね。」
……クソッ、人をバカにしやがって。最低なやつだ。
「……そうだったら、どうなるんですか。」
「もちろん、話を聞いてもらうよ……署でね。」
そんなの、時間のムダだ。でも逃げることは無理か……クソッ、こいつに従うしかないか……!!
「……わかりました。」
「ありがとう。でも大丈夫、君を責め立てるとかじゃないから……ちなみに、君の名前は?」
「……岩藤昇、です。」
「オーケー……僕は周研、刑事をやらせてもらっている。よろしくね。」
「はい……。」
何がよろしくね、だよ。このクソだる刑事が。──
──そうこうして警察署まで連れてかれたが、ここってこんな感じなんだな……一生この中に入らないと思っていたから、びっくりだ。
「岩藤くん、そこに座って。これから僕が質問していくから、はいかいいえか、正確な答えを教えてね。」
「……はい。」
「それじゃあまず……今回、亡くなった角倉紘海さんとは知人関係だったんだよね。」
「はい、厳密には幼馴染です。」
「うん、それでこの事件について、彼女から事前に聞いていたかな?」
「いいえ、今日はじめて知りました。」
「ふーん、それじゃあなんでこの事件が起きたことを、君は知っているのかな?」
……この、おそらく未来から来たメールのことを話しても、どうせ信じてくれないだろう。なら、嘘をつくまでだ。
「たまたま現場近くの川沿いを歩いてて、その時に見たんです……紘海が、川に溺れていくのを。」
「……被害者は溺死だった。君の言うことに嘘はないだろうね。でも、なんで君はそのことに気付いていたのに救急車、あるいは警察を呼ばなかったのかな?」
「そ、それは……」
「じゃあ質問を変えようか。その時、君は救急車を呼べたのかな?呼べなかったのかな?」
こ、この刑事……なんでこうも事件の核心に近づいてくるんだ?
「よ、呼べなかったです……」
「それはどうして?」
……確かに、俺は川に浮かぶ紘海を見て救急車か警察を呼べた。けど、紘海は自殺だから事件性はないし、もちろん死んでいるから救急車を呼んだところで意味なんかない。けど、そんなこと言えるわけ……
「……君って、気付いてるかな?結構顔に出やすいタイプなんだよね。だから、どこから嘘でどこまでが本当かなんて、君の反応を見れば丸わかりなんだよ。」
そ、そんな……この人には嘘は通じない、ってことかよ……
「で、その上で聞くけど、もしかして君は救急車も警察も呼ぶ必要ないと思っていたのかな?」
「……!!は、はい……。」
「大方予想はつくけど、どっちも呼ぶ必要ないと思っていたということは、つまり君は知っていたわけだ……君が被害者が溺れているのを見た時、既に被害者は死亡していて、なおかつ誰かに殺されたわけではなかった、ということが。違うかな?」
「……そうです。紘海が死んだのは……自殺です。俺は、紘海の自殺を止められなかったんです。」
「……そういうことか。逆に、君は被害者……いや、角倉さんの自殺を止めようとしたんだね。さっきの話だと、角倉さんが自殺することが分かったのは今日なんだよね?」
「はい、今朝に知りました。」
「まあどうやって知ったかはさておき、君は角倉さんに今日会ったのかな?」
「はい、ちょうど正午に会って話しました……でも、紘海はやっぱり自殺したんです。」
「なるほど、それでどうやって自決したの?」
……待てよ、俺は紘海が死ぬところを見ていない。でも、あの状況を見れば……
「……川に自ら潜ったんだと思います。」
「思います?分からないの?」
「……実は、その場面は見てないんです。」
「ふーん、それはなんでかな?」
「誰かに殴られて、気絶してたんです。気づいたら、ベンチに横たわっていて、その後紘海が川にいたのを見ました。」
「……ちょっと待って。誰かって、角倉さん以外の人に殴られたっていうのかい!?」
「はい。その時、俺の真正面に紘海がいて、殴られたのは後頭部なので、間違いないです。」
「……それじゃあ、角倉さんの自殺を援助した人がいるってことじゃないか!!何故それを先に言わなかった!!」
「わ、忘れてたんです……紘海が死んだことで頭がいっぱいで……」
「……まだ、君には聞くことが多そうだ。でももう遅いし、続きは明日の17時にでも聞くとしよう。待ってるからね。」
「……はい。」──
──今日は人生でも特に最悪の日だった……中学生最後の日以来だ。俺には確かに紘海を救えたはずなのに、どうしてこうなってしまったんだ……クソッ。
……いや、紘海は言っていた。今日じゃもう遅いって。つまり、どちらにしても救えなかったのか?……それじゃあ、なんでこの俺のメアドを装ったメールは今日知らせてきたんだ?未来から来たんじゃないのか……?いや、逆か?今日じゃ遅かったということを知らなかったのか?
……そうだとしたら、今の俺なら今度こそ正しい内容を送ることができる。どういうことか分からないが、現に未来から来たメールが送られてきたんだ……多分、未来の俺から。だったら、また俺はこの時を超えるメールを手にし、今度こそ紘海を救うことができるメールを送るんだ……。
……そうだ、今度こそ俺は紘海を救うんだ……この未来メールで!!
続く




