おバカでもわかる
「カーティス公爵令嬢とあなたの婚約は無効になりました。
どうして『無効』になったか、わかりますか?」
無効化された婚約契約書を手にするアルフレッドに、教皇は問いかけた。
「私が伝える悲しい話の答えですよ」
「?」
無効の理由?
もっと良い縁談でもあって、俺の経歴にキズをつけたくなかった、とか?
でも、悲しい?
金とかはあっても、凄い醜女か問題のある女とか?
考えていると、カーティス公爵が冷たく笑うのが見えた。
「悲しいなんてかわいい言い方だ」
楽しそうな公爵の様子に不安になる。
「公爵、不安を煽るような言い方はおやめ下さい」
軽くたしなめる教皇に、肩をすくめるカーティス公爵は悪いことをしたとは思っていないようだ。
「まあ、でも、悲しいというと、ちょっと違いますね。
陛下にとっては悲しいことでしょうが」
教皇はうなだれる国王に目をやった。
「思わせぶりなことは止めましょうか。
アルフレッド殿下、聞く覚悟はよろしいですか?」
真剣な顔をした教皇に、背筋が伸びる。
「殿下。昨日の庭園からの生中継を、我々教会の者は見ていました」
教皇の言葉に、国王と貴族たちが目を逸らす。
「殿下も、聖書をお読みになったことはございますよね?
幼い頃より教義は学んでいらっしゃますよね?」
この国の国民であれば、生まれた時から聖書に親しみ、教義を学ぶ。
「殿下、同性との恋愛はご法度てすよ」
静かに告げる教皇の声には怒りが混じっている。
教皇という立場上、教義を守らない者は、許せない。
「教会は、アルフレッド・シェラリア、あなたを破門いたします」
用意してきた破門宣言書に、教皇は自分の名前を書き入れ、魔力を流す。
用紙が淡く光り、宣言が成立したことを全員が知る。
破門。
勉強嫌いで常識のないおバカなアルフレッドでも、その重みは分かっている。
「嘘だ⋯⋯」
教皇が、まだ光り続ける用紙をアルフレッドと国王に、しっかりと見せつける。
膝から崩れ落ちたアルフレッドは、呆然と教皇が誇らしげに掲げる用紙を見つめた。
「陛下、教会からの沙汰は以上です。
戻り次第、正式に布告致します」
お先に失礼致します、と国王に挨拶し、去っていく。
「お送り致します」
カーティス公爵が教皇と共に退室する。
おバカでも王太子、王太子派と呼ばれる派閥がある。
アルフレッドを破滅させた、と逆恨みされる恐れがある。
高い戦闘力を誇るカーティス公爵が、完全防御の姿勢で教皇を守りながら帰る。
カーティス公爵が教皇の守護者になると知らしめながら帰る。
もう誰も教皇を襲うことも、破門宣言書を奪うこともできない。
「父上」
国王に助けを求めるが、国王は俯いたまま頭を振る。
「アルフレッド。おまえを王族籍から廃し、北の塔にて幽閉とする。
幽閉の準備が整うまで自室で待機。
衛兵、アルフレッドを連れていけ」
壁際で待機していた衛兵がアルフレッドの下に向かう。
その頃、先に帰ろうと馬車乗り場に向かっているカーティス公爵と教皇は、アルフレッドの行く末を話していた。
「陛下はひどく楽しい幽閉生活の準備をするでしょうね」
教皇がひどく嫌そうな声でつぶやく。
親バカな陛下が、普通の幽閉を息子にさせるわけない。
「でしょうね。
外から掛ける鍵のスペアキーが室内にあり、自由に遊びに行ったり人を呼べる転移魔法陣もある。豪華な家具を揃え、広い風呂の設置。食事は王城からフルコースを運ぶ。
塔での幽閉と離宮での静養の違いが分からない状態になるでしょう」
バカ息子のためにどれだけ掛けて、改装するのか。
公爵は、王城を見上げてため息をついた。
「外観は懲罰用の塔、内装はバカンス用の離宮というわけですか」
教皇も王城を見上げる。
「まあ、そんな工事はさせませんけどね」
カーティス公爵の含みのある笑顔に、教皇も微笑みながら頷く。
教皇とカーティス公爵はひどく満足した顔で、仲良く馬車に同乗して帰っていった。




