謁見室にて
アルフレッドが謁見室の扉の前まで来ると、その異変に息を飲む。
頑丈で剛健な扉に大きなヒビが入っているのだ。
歩いてきた廊下を振り返ると、細かい石の破片やホコリが目につく。
どう見ても普通じゃない。
この光景を見ても、侍従は何も言わない。
アルフレッドを振り返り、扉のヒビを避けた場所をノックした。
「失礼致します。アルフレッド殿下をお連れしました」
侍従が開けた扉の向こう側は、想像を絶する世界が広がっていた。
「なっ⋯⋯」
何がどうなれば、こうなる?
部屋の大理石の床は、全て粉々になっている。
天井から吊るしてあった大きく豪華なシャンデリアは落ち、こちらも粉々になっている。
奥の玉座が置いてあった場所には、玉座の残骸らしきものがある。
テロでもあったのか?
あまりの惨状に気を取られていると、視線を感じ、そちらを見ると、10数人の男性が集まっている。
国王と国の重鎮たる高位貴族たちだ。
「来たか」
国王がまっすぐアルフレッドを見つめる。
「アルフレッド参りました」
国王の前で、手を胸に当て、礼をする。
視線が突き刺さる。
一体何なんだ?
昨日から監禁されてるから、キスマークがついてるとかないと思うけど? (謹慎の間違い。自覚なし)
服だって乱れてないはずだ。
「アルフレッド、おまえに伝えなければならないことがある」
国王が悲しそうな顔で、アルフレッドを見ている。
「はい」
何が何だかわからないが、とりあえず頷いておこう。
周りの空気に飲まれたアルフレッドは、殊勝な態度になる。
昨日の件で口うるさい連中から苦言を言われるとは思っていたが、何か様子がおかしい。
カーティス公爵と(たぶん)教皇(だと思う人)以外からは、憐れまれている気がする。
「アルフレッド」
「はい」
国王は絶望的な顔をしている。
「アルフレッド」
「⋯⋯はい」
早く言ってほしい。
「アルフレッド」
「⋯⋯⋯」
だから、何?!
カーティス公爵と教皇も苛ついている。
もう用事は済んだのだから帰りたいのだ。
「陛下。詳しいことは私から」
教皇が国王に申し出る。
「『私の宣言』ですから、私から伝えるべきかと思われます」
「⋯⋯頼む」
「はい」
重いため息を吐きながら俯く国王は、暗く沈んだ表情をしていた。
「私から伝えることは2つあります。
嬉しいことと、悲しいこと、どちらから聞きたいですか?」
穏やかな声で、アルフレッドに二択を迫る。
教皇の隣に立つカーティス公爵は、満足気な顔をして教皇とアルフレッドを見ていた。
どちらも良い話ではないような気がする。
「じゃあ、嬉しい方から」
マシな方を選ぼう。
「わかりました。では嬉しい方から。
こちらをご覧下さい」
教会の紋章だけが記された羊皮紙を掲げる。
「それは?」
教会で何らかの契約や誓約で使う紙であることはわかる。
だが、何も書いていない。
どんなに見ても、何も見えない。
「これは、アルフレッド・シェラリアとユーリ・カーティス嬢との婚約契約書です」
教皇が魔力を流すと、婚約契約書の文字が浮かび上がり、大きなバツ印が文字を覆う。
「お二人の婚約は無効になりました。
本来、無効になった契約はただ消えるだけなのですが、希望者には、無効化されたことが分かるように加工された用紙をお渡ししているんです」
どうぞ、と教皇は元婚約契約書をアルフレッドに手渡した。
無効?
正直、婚約はどうでもいい。
今までだって、特に何の交流もしていないのだから。
でも、婚約者がいなければ、不貞にならなくなるのだから、良いのかも知れない。
「わかりました」
深く考えず、アルフレッドは受け入れた。




