それぞれの翌日3
トラブルは突然起きるものである。
貴族の子息令嬢や、裕福な平民の子らが通う学院ば、その日、招かれざる客の対応を強いられていた。
「離せっ、俺はここの学生だ。リグルド・ヴェント侯爵令息だ。
止められるのはおかしい。
この事はヴェント家から抗議するぞ」
学院の正門で、1人の男が門を守る3人の警備員と揉めていた。
「リグルド・ヴェント様には、既に退学処分が出ています。
もう学生ではありません」
リグルドは、昨日の生中継で王太子の恋人の1人だった男だ。
格式と品格を大切にする学院は、リグルドの在籍を許さなかった。もちろん、王太子もお断りした。
「は? 何で退学? しかも処分て?
私は名門ヴェント家の次男で、王太子の側近なんだぞ。
私を処分するってことは、ヴェント家と王家を敵に回すことになることが分かってるのか?!」
警備員の言うことが信じられず、叫びながら抗議する。
「先ほど、ヴェント家から緊急の連絡は受けております。
『謹慎中の愚息が制服を着て出ていったようだ。そちらに迷惑をかけるようなら、拘束して牢に入れて置いてくれ。至急、迎えに行く』とのことです」
警備員は、ヴェント家からのメッセージを読み上げた。
「牢って⋯⋯、その連絡は偽物だ」
ありえない。
迷惑をかけるとか、拘束して牢とか、私のことをそんな風に言うなんて、ありえない。
「今すぐお帰りになるか、ヴェント家から迎えが来るまで牢で待つか、どう致しますか?」
リグルドが門前で騒ぎ始めて直ぐに、ヴェント家に連絡を取っていた。
警備員たちにとって、いくら当主自ら「捕まえていい」と言っているとはいえ、高位貴族を捕縛はしたくない。
近いうちに貴族でなくなるかも知れないが、今はまだ、高位貴族だ。
そろそろ迎えが到着するだろう。早く来てほしい。
「ユーリ・カーティス嬢を呼んでくれ。彼女と話がしたい」
彼女なら、偽の連絡であることを証明できるはずだ。
私の価値を、彼女なら理解しているはずだ。
「ユーリ・カーティス様ですか?
お伺いは致しますが⋯⋯、少々お待ち下さい」
警備員の1人が、リグルドの要求を伝えるため学院の職員室へ向かった。
「おい、私をこんな所で待たせる気か?」
路上で待たされるなんて屈辱だ。
「申し訳ございません」
謝るが、中へは入れない。
危険を遠ざけるのが彼の仕事なのだ。
「リグルド様ですか⋯⋯」
授業の間の休憩時間であった為、リグルドの要求は担任教師により、ユーリに伝えられた。
「まあ、リグルド様。どういうつもりでユーリ様をお呼びになるのかしら」
「リグルド様、ご自分の立場がお分かりにならないのかしら」
ユーリと休憩時間を楽しんでいた令嬢たちが嫌悪感を表わす。
「もしかして、私に勝利宣言でもしたいのかしら?
俗な言い方になってしまうけれど、『おまえの婚約者を奪ってやったぜ』となるでしょう?」
貴族令嬢らしからぬことを言っているが、最高の淑女であるユーリにかかると下品に聞こえない。
「なら、リグルド様には『人生の敗北宣言』をしてあげなくてはいけないわね」
所用でユーリ達から離れていたエリザベスが戻り、話に加わる。
くすくす、楽しげに笑う少女たちは、敗北人生を送るしかないリグルドに対する同情や憐れみはない。
リグルドにも婚約者はいたのだ。
王太子同様、婚約者を冷遇し続け、婚約破棄の話し合いが始まっていると噂だ。
リグルドに好感を持つ理由はなかった。
「カーティス嬢、私たち教師としては、面会要求は受け入れないことをお勧めします。
ただ、ここでつけたいというなら、門越しに、今日来ているカーティス家の騎士、学院の警備員を側に置いて話をすることもできます。
どうしますか?」
教師の問いかけに、ユーリは迷わず返事を返した。
「会う理由がありませんわ。
今までリグルド様と言葉を交わしたこともありませんもの。
話すこともありません」
「わかりました。
そのように伝えましょう」
数分後。
門前のリグルドは、ユーリの返答に異議を申し立てたが、誰も相手にしなかった。
そして、迎えに来たヴェント家の騎士に馬車に押し込まれた。




