やれやれ、まだ騒がしい。
「何だったんでしょうね」
不埒な行いにより退学になったリグルド様は、なぜか、私に会おうとした。
自邸で謹慎中だったのに、なぜか学院までやって来たそうだ。
ヴェント家の警備体制なら、リグルド様の脱出を防げないとは思えないが。
防ぐつもりがなかった?
リグルド様は単純な方なので、深い意図はなかったと思う。
たぶん、我が家の力で、自分の謹慎を解いてもらおうとしたのだろう。
リグルド様を私に会わせようとしたのは、侯爵様か夫人。ううん、侯爵様じゃないわね。あの方は教会の熱心な信者だもの。リグルド様を追い出す準備をしているだろう。なら、夫人ね。
将来の希望の無くなった息子を助けてほしい、というところかしら。
なぜ、私が助けると思ったの?
まさか、私の婚約者の座を狙ってる?
顔が良いだけの子息なんて受け入れるわけないじゃない。
人間的に問題しかない男との縁なんて、誰も結びたくないわ。
「ユーリ様も災難ですわね」
リグルドの面会要求により危険を感じたカーティス家の騎士たちは、ユーリの近くに待機場所を変更した。
ユーリ、そしてカーティス家の力があれば、昨日の生中継で映ってしまった「アレ」を無かったことに出来るのでは?と考える危険人物その1が現れた、という認識なのだ。
教室の入り口と窓の外に立ち、ユーリに近づく者へ目を光らせる。
昼休みの「カーティス家は王家と離れる」宣言を聞いた生徒たちが早退し、家族の下へ向かった為、今は生徒数が少ない。
見晴らしが良くなり、警備がしやすい。
「学院はしばらくお休みした方がよろしいんじゃなくて?
お屋敷の中にいた方が、安心でしょう?」
「王太子派の中には過激派もいましたわよね。
カーティス家なら充分な護衛を付けて移動もできるでしょうけど、外に出ない方がよろしいわ」
カーティス家の大邸宅は、要塞のように堅牢な造りをしている。家だけでなく、周囲まで騎士を配し、守りを固めている。
友達が自邸に籠ることを勧めるのも当然だった。
彼女たちは、ユーリやエリザベスに個人的にも家的にも近い存在であるため、カーティス家と王家の距離の遠さを知っていた。
まから、今さら焦らない。
ただ、ユーリが明日去ることは知らない。
明日、この国を去ることは、まだ公にしていない。
事前に知らせて、余計な横槍を入れられるのを防ぐためだ。
友達には、向こうに着いたら手紙を出すつもりだった。
ふいに教室の入り口が騒がしくなる。
カーティス家の騎士が、男性の入室を止めている。
野次馬がやり取りを見守っている。
また、何かあったのかしら?
もう次の授業が始まるのに、今度は誰?
そちらに顔を向けると、止められている男性と目が合う。
「あら、ロビン様」
王家の第一王女ラディ様の婚約者であるロビン・チェインズ伯爵令息が、軽くお辞儀する。
ユーリは席を立つと、ロビンの下へと歩いていった。
ユーリの様子に危険はないと判断した騎士は、元の配置に戻る。
「ユーリ様、突然押しかけてしまい、申し訳ありません」
礼儀正しく、再びお辞儀するロビンに、内心ため息がこぼれる。
アルフレッド殿下と仲間たちと違って、なんて違うんだろう。
殿下たちと比べて、何億倍も貴公子だわ。比べるのが失礼なくらい、好男子だわ。
「いいのよ。何か私に用があるのかしら?」
礼儀正しい人は好きだわ。私も丁寧な対応を返すわ。
「リグルド・ヴェントが校門までやって来て、あなたたとの面会を求めたと聞きました」
「ええ。私には話はありませんからお断り致しましたけど」
「情など必要ありませんから、当然です。
ユーリ様だけでなく、他の皆様もリグルドに対して、好意などないようで安堵致しました」
ロビンは教室内を見渡した。
教室にいた生徒たちは、今のロビンの言葉に頷いていた。
なるほど。
リグルド様、顔だけは良かったものね。中身はどうであれ、顔さえ良ければ恋してしまうこともあるだろう。
でも、顔だけで全て許せるわけないわ。
リグルド様は、きっとヴェント家から出される。
家、権力、金を失った、性格が最悪な同性愛者を、ただのスポンサーとして、愛されずとも養う奇特な人なんていないわ。
それに、リグルド様を選べば自分も家から出される。
「リグルド様の味方をすることは、自滅行為でしかありませんから」
男性は、女性以上にリグルドの味方はできない。
おまえも男色家だったのか、と疑われる。
全て失う覚悟を持って、リグルドを庇う者はいない。




