幸せのために
「静かになったわね」
2人以外誰もいなくなった中庭ば、小鳥の鳴き声が響いていた。
優しい風が2人を包む。
「今頃動くなんて、遅すぎるわ」
「エリザベスの家は、昨日のうちに対策してるんでしょう?」
「当然」
くすくす、ふふっと笑い合う少女たちは、傍目には無邪気に流行りのスイーツの話でもしているようだ。
実際は、あまり明るくないだろう国の未来の話をしている。
最悪、国が滅ぶ。
「ユーリこそ、今後のことって決まってるの?
国外に出るんだろうなとは思ってるけど。
どこにするのかな、いつから行くのかな、って考えてたのよ」
マドレーヌを半分に割りながら、エリザベスは尋ねた。
「ロジャー国。お母様の姉が嫁いでいる国なのよ。
ここシェラリア王国の西側の国だから、エリザベスとも会いやすくていいでしょ?
明日には旅立つつもりよ」
ユーリはジャムクッキーを手に取り、エリザベスに伝えた。
「急ね。でも、その方が良いかもね。
混乱しているうちに逃げちゃわないと、面倒なことになりそうだもの」
「エリザベスもそう思う?
最後に思い出の場所を見ておこうと思って、今日は学院に来たのよ」
3年近く通った学び舎を見上げる。
エリザベスだけでなく、多くの友達と過ごした。
いろいろな経験をした。
たくさんの思い出を作った。
卒業資格は得ているから、今、国を出ても卒業できる。
卒業式も卒業パーティーも参加できる。
でも、当分は帰国できない。
王家はカーティス家の力も、私の能力も高く買っている。
そう簡単にあきらめない。
愛国心を煽り、粘り強く交渉すれば落ちると思っているフシがある。
私も我が家も落ちないけどね。
「結婚式は夏だから、新しい婚約者と一緒に来てね。
辺境で挙げるから、来やすいはずよ」
エリザベスの結婚式は、もともとは王都の中央教会で予定されていた。
今回の騒動で、王族を呼ぶことが躊躇われ、変更したのだ。
王都から遠く離れた辺境なら、呼ばなくても不敬にあたらない。
ユーリも、向こうで「正式に」新しい婚約者を作ってしまえば、帰国も問題なくできる。
「絶対に行くわ。新しい婚約者と」
今頃、お父様は王城を半壊してでも、多くの騎士を半殺しにしてでも、婚約破棄の書類にサインさせているだろう。
でも、その前に教皇様が平和的に解決させているかもしれないが。
ロジャー国の伯母も、新しい婚約者候補を探しているだろう。
伯母の厳しい審査をクリアした人なら、何の心配もない。
「エリザベスに新しい婚約者を紹介するのが楽しみだわ」
学生最後のランチを食べ終え、新しい未来に心を弾ませる。
昨日から、一気に運命が変わった。
国の為と我慢していた私も我が家も、「我慢できないほどの瑕疵」の為、婚約の継続はできない、と主張できるようになった。
生まれて初めて言えるわ。
アルフレッド殿下、ありがとう!!
あなたの幸せを遠くから祈ってるわ。
一度は、いえ、何千回も死を願ったけど!!
私とは全く関係ない場所なら、いくらでも幸せになってもいいわ。
自分に余裕ができると他人に優しくできるって本当なのね。
でも、世間はあなたに優しくしないだろうけど!
「⋯⋯ユーリ。その顔は、この国に置いていってね。新天地には似合わないわよ」
若干ではなく、かなりひいた顔をしたエリザベスに注意される。
「あら、また出ちゃった。
うちの侍女にも言われたのよ。外ではするなって」
昨日、悪魔の笑みと言われたっけ。
おかしいわね。
殿下の幸せを祈っていただけなのに。
「いい指摘ね。
お嬢様の評判が台無しになるもの。今まで積み上げてきたものが、全部なくなるわよ」
思いっきりひいたエリザベスに、気をつけてね、と真顔で言われる。
そんなに酷い顔してたかしら?
「大丈夫よ。
あちらにはアルフレッド殿下はいないから」
ユーリは、今までで一番の、心からの笑顔をエリザベスに向けた。
「ロジャー国で、私は幸せになる」
そう決めた。
「うん。幸せになろうね」
お互いに。
しばしの別れの後に、幸せの報告をしよう。
「いい旅を」




