ランチタイムは情報収集タイム
学院の中庭のベンチで、2人の少女がランチタイムを楽しんでいた。
木漏れ日が優しく差し込む木陰のベンチは、2人だけの時間を過ごすのに最適な場所だ。
「カフェのランチボックス、少し内容が変わったわね」
「サラダが華やかになったわ。サンドイッチも、断面が美しいわ」
楽しく笑い合う美しく高貴な少女たちは、中庭で過ごす他の生徒たちの目を引く。
ユーリ・カーティス公爵令嬢とエリザベス・アロウ侯爵令嬢は、他の生徒たちの羨望を集める存在だった。
「内緒話をするには、ここは明るすぎるかしら?」
エリザベスは周りを見ながら、首を傾げた。
昼休みの中庭は、木々や花が心地よく風になびいていた。
居心地の良い空間の為、多数の生徒が出入りしている。
「内緒にする必要がない話だから大丈夫よ」
卵のサンドイッチを一口食べたユーリは、にっこりと「黒い」笑みを浮かべた。
「カーティス家は正式に見捨てることを決めた、というわけね」
長い付き合いであり、勘の鋭いエリザベスは、少ない言葉から状況を正確に理解した。
「見捨てる機会をずっと待っていたからね」
「あの王太子との結婚なんて、罰ゲームでしかないものね」
しみじみと言うエリザベスに、話を(こっそり)聞いていた周囲の生徒は深く頷いた。
「で? 殿下って何人と付き合ってるの?
調べてあるんでしょう?」
知りたい。すごく知りたいっ。
生徒たちの心は一つになった。
「先週の報告では10人。ちょっと前までは、もう1人いたんだけど、太っちゃって殿下の好みから外れちゃったの」
殿下が恋人を甘やかして、食事やらスイーツやらをご馳走しまくった結果らしい。
「すごいわね。
同性愛って、倫理的、宗教的にタブーだっていうのに、そんなにいるなんて。
しかも、みんなイケメンなんでしょう?」
王太子殿下って女の敵なの?
呆れたように呟き、エリザベスはグラッセを口にした。
「敵は殿下だけじゃないのよ。
殿下は恋人たちに無理強いはしてないのよ。
傲慢な奴だけど、恋愛に関してはロマンチストで、普通に口説いたり口説かれたりして恋人になってるの」
同性愛嗜好の男は、実は、たくさんいるらしい。
「私の婚約者は大丈夫かしら?」
エリザベスの婚約者は、5歳ほど年上で辺境伯として国の西方の領地を治めている。
がっちりとした体格の、たくましい、頼れる男だ。
エリザベスとの仲は良好で、実はまったく疑っていない。
「さあ?」
どうでしょう、と悪戯っぽく笑うユーリもエリザベスの婚約者を疑っていない。
「王家はどう動くの?」
王家の支持率は壊滅的だ。貴族も平民も、他国の上層部も、次の国王をあの色欲魔に任せるなら、離反するだろう。
アルフレッド国王を誕生させるなら、カーティス家が大きな鍵になる。
ユーリがアルフレッドに嫁ぎ、カーティス家が全面的に王家を支持すれば、反発を抑えることができる、かも知れない。
だが、カーティス家はアルフレッドを見限った。
アルフレッドを溺愛する国王が、カーティス家もユーリも手放すわけがない。
「今日、お父様が婚約破棄の話で登城しているの。
お父様は婚約をすごく嫌がってるのよ。
すごく、すごーくね
理性で抑えきれないくらい怒ってるの」
くすくす冷たく笑うユーリの姿から、今現在の王家の様子が想像できる。
カーティス公爵が本気で怒ったら国が滅びると言われている。
軽く怒るだけで、王城を壊滅させるだろう。
「陛下も父の恐ろしさは知っているから、諦めるしかないでしょうね。
国内の平和のために、王家を立ててきたけど、もう無理だもの。
我が家は王家とは距離を置く」
距離を置く。
カーティス公爵令嬢の宣言に、中庭の生徒たちが息を飲む。
王家が瓦解するかもしれない。
この情報は他の者と共有しなければいけない。
家族に伝え、対策を考えなければ、家が無くなるかも知れない。貴族でも商家でも「家」は大切だ。
中庭にいて、とんでもない情報を得た生徒たちは、全員が早退した。




