それぞれの翌日
朝の馬車乗り場には、様々な馬車がやって来る。
家紋を誇らしく付けた高位貴族の豪華な馬車や、個性的な装飾の馬車が目を引くが、ほとんどは一般的なものだ。
「お嬢様、いってらっしゃいませ。
今日はこのまま待機しておりますので、早退の際にはこちらにおいで下さい」
馬車乗り場の中で一番豪華な馬車を降りたユーリに、御者は告げた。
「あら、お父様の指示?」
にっこりと微笑んだユーリに、忠誠心の強い御者は真剣な顔で頷いた。
「はい。
今日は学院のほうにも話をつけており、当家の騎士も数人、学院内に配置しているそうです」
あらあら。
お父様ったら過保護ね。でも、追い詰められたら何をしでかすか分からないから、当然ね。
今日、お父様は国王陛下たちに婚約破棄の
話をしに行っている。
お父様は昨日の生中継の録画映像、王太子と私の交流記録、贈り物記録を持ち、「お友達」の中央教会の教皇様と共に登城している。
わが国は同性愛には否定的だ。
女性である私に興味を持たず、婚約者として当然の交流もない。
同性の恋人とふしだらな触れ合いをしている。
教皇様はどう思っていらっしゃるのかしら?
「それじゃ、もう行くわ」
御者は、歩き出したユーリの後ろ姿を、見えなくなるまで見送った。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
登校する学生たちの声が飛び交う朝の学院の風景。
今日はやけに視線を感じるわね。
あちこちから、さりげなさを装いながら、私のことを観察し、噂している。
昨日の生中継のせいで、注目を集めている私。
正確には、注目を集める男の婚約者である私。
私も、他人なら面白がって見ている。
わが国の王太子が、実は「複数の同性の恋人たちと体の関係をもつ男」だと知られてしまったのだ。
面白すぎるわ。
「ごきげんよう、ユーリ様」
友達の、いえ親友のエリザベス・アロウ侯爵令嬢が声をかけてきた。
エリザベスは何か含みのある笑みを浮かべていた。
「ごきげんよう、エリザベス様」
〝面白いことになっているわね〟
〝後で話すわ〟
視線で会話した私たちは、並んで教室へ向かった。
教室に入っても、好奇心の視線は続いた。
距離が近い分、噂話はしないが視線は向ける。
始業のベルが鳴るまで、視線は止まらなかった。
そして、授業のためにやって来た教室まで、ユーリのことをかなり意識していた。
その頃、噂の現場となった王城では激震が走っていた。
物理的にも精神的にも、激しく揺れていた。
「カーティス公爵、落ち着いて下さいーーー!!」
「うわーっ、城が壊れるーーー!!」
別にカーティス公爵は暴れているわけではない。
ただ、激しく怒っているだけだ。
魔力量の多い彼は、負の感情が高まると魔力が大きく震えてしまうのだ。
謁見室の重厚な大理石の床が粉々になる。壁にヒビが入る。シャンデリアが大きく揺れ、今にも落ちそうだ。
玉座が半分に割れ、国王が床に倒れる。
「陛下ーーーっ」
ガシャーン!!
シャンデリアか床に落ちる。
割れたガラス製のシャンデリアの破片が、部屋中に散らばる。
室内にいた人間は、激しい揺れのため立ち上がれない。カーティス公爵は、ただ1人立ったまま、元玉座の前に座り込む国王を睨んだ。
「申し訳ありませんが、もう一度おっしゃっていただけませんか?
どうも耳が遠くなったのか、今、陛下がおっしゃったことが分からなかったようです」
「⋯⋯あ、その⋯⋯、だから、そなたの娘と王太子の婚姻の日取りを⋯⋯」
国王壊れた元玉座の影に隠れながら、しどろもどろに答えた。
ドゴーン!!
元玉座が粉々になる。
「申し訳ありませんが、もう一度おっしゃっていただけませんか?」
カーティス公爵の周囲の空気が重く濁る。
「そなたの娘とうちの息子の婚姻⋯⋯」
ドーン!
ガタガタ!
バリンッ!
「うわーー!!」
「屋根がなくなったーーーっ」
外から聞こえる騒音が、物騒だ。
「公爵、ユーリ嬢と殿下の婚約は無効ですよ」
教皇の言葉に、カーティス公爵の「攻撃」が止まる。




