愚かな恋人たちの行く末は他人任せ
「ショーン・フリーゼといいます。ユーリ・カーティス嬢に取り次いで頂きたい。王太子殿下のことで話があると伝えてほしい」
カーティス家の門番に、やたらキラキラオーラを振りまくイケメンがやって来た。
という報告が、家宰によって、ユーリに伝えられた。
一緒にティータイムをしていた両親にも伝えられた。
「ショーン?
元王太子の恋人の俳優の名前、だったかしら」
あの生中継で、王太子(当時)と、ぴったりくっついて歩いていた男だ。
人気俳優らしいけれど、私の好みではないのよね。
「ショーンくんねぇ。
なよなよしてて、自意識過剰なナルシストって感じの子だったわ。
あの劇団、脚本は良いのに俳優はいまいちなのよねぇ」
お母様も苦手なタイプだったのね。
「そのショーン某は、ユーリに何の用なんだ?」
不機嫌に唸りながら言うお父様は、ショーンを敵認定したようだ。
可愛い娘に近づけたくない男よね。ああいうのは。
「王太子殿下のことで話がある、とのことです。
私が確認に伺ったところ、王太子の恋人ということを鼻にかけている印象でした。仕事も住まいも失ったご様子で、ユーリお嬢様にたかろうとしているご様子でした」
嫌なものと遭遇してしまった家宰は、通常通りの丁寧な仕草でありながらも、言葉の端々に刺がある。
「何故ユーリにたかる?」
お父様の怒りに満ちた目に睨まれた家宰は、狼狽えることなく答える。
「元王太子殿下を笠に着ているようです。
『王太子殿下の最愛である自分を大切にしないと、王太子殿下に捨てられるぞ』と仰っていました」
「バカか」
「おバカさんねぇ」
まぁ、仲の良いことね。
夫婦で同じことを同時に言うなんて。
できれば、私もこういう夫婦になりたいわ。
「もう追い払ったのよね?」
カーティス家の家宰は有能だ。常に先を見据え行動している。
「もちろんでございます。
アルフレッド元王太子は既に王族籍を抜けており、ユーリお嬢様とは無関係であると、懇切丁寧に説明致しました」
懇切丁寧に、を強調する家宰の様子に、ショーン元人気俳優は理解力のないバカ男であったことが想像できた。
そんな頭でシナリオ、きちんと読めたのかしら?
物語の内容、きっと分かってないわよね。
「リグルド様といい、ショーンといい、何で私に自分たちの尻ぬぐい頼もうとするのかしら?
私、今まで婚約者の為に便宜なんか図ったことないわよ」
公の場で隣に居ただけの付き合いだもの。
「ユーリちゃんに任せれば、何でも解決してくれる。
そんな風に思われてるのよ。ヴェント家の坊やは貴族だから、ユーリちゃんの優秀さはよく知っていたはずだから。
ショーンくんはうぬぼれの強いただのバカだから、ユーリちゃんにマウント取るついでに利用しようとしたんじゃないかしら」
ショーンくんは地獄行き決定よねぇ、とお母様は呟きながら、自分の夫に視線を向けた。
「ヴェント家の方は、向こうに任せておけばいい。
侯爵は、息子を隣国の商会に送り込んだそうだ。役に立たなければ奴隷にして構わないと契約も交わしているらしい」
あらあら、侯爵様ったら思い切ったわね。
自分の息子を奴隷にしてもいいだなんて。
でも、家を守るためには厳しすぎる処分は必要ね。
「俳優は、私たちが好きに処分しても構わないだろう。
ユーリ、おまえはどうしたい?」
お父様に笑顔(かなり黒い。かなり極悪な顔)で問われた私は、少し考えてから答える。
「私としては、元王太子の恋人の方々には感謝しているんです。アレと縁を切ることができたんですもの。
だから、『私』から何かするつもりはありません」
そう、私は何もしない。
私の意図を理解した、両親と家宰は顔を見合わせ頷いた。
「それでは、私は失礼致します」
家宰は、礼儀正しく礼をして部屋を出ていった。
そして、自分の執務室へと急いだ。
ショーン・フリーゼへ深く屈折した愛を持つ女たちに、事実を告げる手紙を書くために。
この王都に居場所はないと考えたショーンが、金目の物を鞄に詰めて出ていくだろうと読んだ家宰は、女たちをショーンの家に集合させることにした。
愚かな男に恋した哀しい女たちに、ショーンの処分も処刑も任せることは、ユーリお嬢様の希望なのだから。
家宰は、迷わず任務を遂行した。




