思い上がりの俳優
ショーン・フリーゼは困惑していた。
誰よりも美しい顔と、人々を魅了する声を駆使し、王都で一番と評判の劇団で、トップの地位にいた。
芝居を見に来る女性客の半数は、自分のファンだった。
このシェラリア王国で、自分のことを知らない者はいないだろう。
それぐらい、圧倒的な人気を誇っていた。
なのに。
今日、解雇された。
どうやら、昨日から苦情が殺到しているらしいのだ。
団長だけでなく、劇団のスポンサー、王都演劇協会の重鎮が揃って、解雇を言い渡してきた。
昨日、王太子殿下との「散歩」が生中継されたことを叱責されているのだが。
叱られる理由が分からない。
ただ歩いていただけなのに。
ちょっと、くっついていたけど。
でも、殿下の他のデートと違って、決定的なシーンは映されていない。
「なのに、何で⋯⋯」
ただのファンではなく、様々な支援をしてくれる夫人や令嬢からの縁切り状が相次いで届く。
今住んでいるこの邸宅も、今日中に出ていけと言われている。
裕福なマダムから「あなたの為の家よ。内装もあなたをイメージして選んだのよ」と鍵を渡されたのに。
何人もの支援者たちと関係を持っていることは、みんな知っていたのに。
同性の殿下とちょっと親しくしただけで、何でみんな離れていく?
嘆いていても仕方ない。
早く引越先を探して、荷造りしないと。
明日になっても居座っていたら、何も持たせて貰えずに、追い出されそうだ。
と、思っていたのに。
「お客様に紹介できる物件はありません」
「お客様のご希望にあう物件はございません」
「申し訳ございません。当ホテルは、満室でして⋯⋯」
家1軒、借りることも買うこともできない。
ならばと、ホテルに泊まろうとすれば、断られる。
まずい。
本当にまずい。
女たちは、頼れない。
縁切り状を出していないだけで、俺を切り捨てている奴もいるはずだ。
誰が残っているか分からない。
殿下なら、俺を見捨てることはないだろう。
でも、昨日の今日で殿下と連絡は取れないだろう。
そういえば、殿下には婚約者がいた。
「王家に媚び売るしかない、つまらない女だよ。
あいつが俺に惚れたからって、強引に婚約させられたんだ」
と言っていた。
殿下の婚約者になりたくて、なりふり構わない女。
俺に嫉妬はするだろうが、俺を虐げれば、殿下の婚約者を降ろされると言えば、俺を受け入れるしかない。
たしか、ユーリ・カーティス公爵令嬢だったっけ。
カーティス家は、名門中の名門。
「俺の運は尽きていない」
カーティス家を後ろ盾にすれば、またトップに戻れる。
いや、俺の劇団を作って大々的に復活してみせる。
ショーンは、意気揚々とカーティス家へと歩き出した。
思いきり勘違いをしたショーン・フリーゼが、全てを失うまで、後少し。




