カーティス家の夕暮れ
「お嬢様、旦那様と奥様が応接間でお待ちです」
ユーリは私物の減った自室で、残った物の確認をしていた。
もう二度と戻ってこないわけじゃないけれど、しばらくは帰れないから、大切な物は全部持っていきたい。
「お父様、もう帰ってるの?」
ずいぶんと早い。今日は普通の仕事ができる日じゃないから当然か。
それに、私の出発前日だしね。
応接間へと、ユーリは軽い足取りで向かった。
「お父様、お母様。お呼びと伺いましたが⋯⋯」
室内では、お父様とお母様が仲良く並んで座り、2枚の紙を楽しそうに見ていた。
「それは?」
「ユーリ、おまえも見なさい。愉快だぞ」
「そうよ。ユーリちゃん、なかなか見れない物だから面白いわよぉ」
2人の向かいの席に座ると、何やら立派な羊皮紙を渡された。
「これは⋯⋯。バツ印付きの婚約契約書と、破門宣言書の写し。
たしかにレアで愉快な物ですね」
お父様ったら、私とお母様に見せる為に、教皇様にわざわざ用意してもらったのかしら。
家族思いのお父様ね。
「破門されたアルフレッド様は、もう?」
様は要らなかったわね。
もう王族ではないし、肩書きは平民だ。しかも、生涯幽閉が決まっている犯罪者のようなものだ。
「いや、まだ自室で待機だ」
「待機?」
何を待つていうの?
私とお母様は顔を見合わせた。
「幽閉の準備が整うまでだ」
は?
幽閉の準備って?
そんなもの、とりあえずバカを押し込んでからでいいんじゃないの?
「まあまあ、陛下ったら。幽閉場所の改築工事するのかしらねぇ。
北の離宮じゃなくて、北の離宮に変えるのかしら?」
ユーリの母親は、くすくすと笑い夫を見つめた。恐ろしく冷たい目をしながら。
「お父様、北の塔って王城の敷地の端っこの森の中でしたよね。
居なくても分からないんじゃないですか?
影武者置いておいてもいいし。
転移魔法陣さえ用意しておけば、面会者が来た時に直ぐに戻れるでしょう?」
息子可愛さに、国王陛下は別邸ぐらい用意するでしょうから。
ユーリも、父親を冷たい目で見た。
「2人とも、私が悪いみたいな目をしないでくれ。
そんな工事はさせないし、影武者は、たてさせない」
本当に?
ユーリも母親も、信じられないわと目が疑っていた。
2人は、ユーリと「当時の」王太子との婚約を断り切れなかった有力公爵の事を恨んでいたのだ。
「本当だ。
工事の予算も建築許可も下りないように手配してきた。
北の塔の内部は、魔道カメラに監視させるから、影武者も遊びも出来ない」
「まぁ、魔道カメラ!」
「さすがはお父様ですわ」
「監視モニターを管理するのは、王弟殿下に任せてある」
胸を張って答える男の姿に、母娘は顔を見合わせ笑った。
魔道カメラによって破滅したアルフレッドは、その生涯を魔道カメラによって監視され続ける。
いい趣向ね。
「そういえばお父様。
主犯の元王族は破門でも、恋人の方々はどうなったんですか? 皆様も破門ですか?」
「まだ正式には決まっていない。
元王太子と違って、恋人は1人しか確認されていないからな。
破門まではいかないだろう」
お布施と反省と懺悔で、罪を赦してもらうのね。
でも、貴族としても俳優としても再起は難しいだろうけどね。
俳優といえば、恋人の1人は女性からの人気が高い人気ものだったわね。
支援者は、幻滅するだけで済むかしら?
愛情を裏切られた女は怖いわよ?




