放課後は、まだ平和だった
なんとか無事に放課後になった。
リグルド様が校門で騒いで私を呼ぶというトラブルはあったけれど、他には何もなかった。
まあ、でも、あのバカ王太子(元。)の婚約者ということで、朝から注目されて。
落ち着かない1日だった。
「ユーリ様、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
帰りの挨拶を受けながら、馬車乗り場へと急ぐ。
私の前後には、護衛の騎士がついている。ただでさえ目立っていた私だが、周りを威嚇する騎士を連れている為、ますます目立っていた。
さっさと帰って、出国の準備をしよう。
と言っても、必要な荷物は、侍女やメイドたちが纏め終えてるだろうけど。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
朝と同じ御者が出迎える。
「ご苦労様。帰りもよろしくね」
「はい。おまかせください」
はきはき答える御者に好感を持つ。
本当に、我が家の商人はみんな働き者ね。
「ところで、お嬢様⋯⋯、その⋯⋯」
御者が言いづらそうに、口ごもる。
「どうしたの?」
「はい⋯⋯。
先ほどラディ第一王女殿下の使いの方が来て、お菓子と手紙をお持ちになりました。帰りの馬車の中でお読み下さい、とのことです。馬車の中に置いてあります」
ああ、そういうこと。
王家からの接触だから気を使ってるのね。あのバカの身内だものね。
「分かったわ。
ラディ様は『あの方』と違って良い方だから、心配いらないわ」
あの方と書いてバカと呼ぶ、なんてね。
馬車の扉を開けると、薄ピンク色の封筒と王都で話題の菓子店の箱が置いてある。
「王女殿下の言いつけどおりに、読みながら帰るけど、遠回りとかはいらないわ」
「かしこまりました」
薄ピンク色の封筒を手に取ると、花の香りがする。
ジャスミンと鈴蘭ね。
「いい香り。ロビン様のお家の物かしら?」
上品で甘い、優しい香り。「王女」らしい優雅さを感じる香り。
年は若くても、立場にあった行動ができる、立派な方だ。アレの妹とは信じられない。
「さて、と。
ラディ様は何を書いてきたのかな?」
丁寧に折りたたまれた便せんを開くと、ラディ様らしい綺麗で可愛い文字が並んでいた。
「あら、ラディ様ったら」
内容を要約すると。
婚約の無効おめでとう
バカ兄は教会から破門され、北の塔に幽閉
王位継承権1位になったこと
国王は腑抜けて役立たずなこと
こういう内容だった。
少しでも早く知らせてくれようとしたんだろう。
早く知らせなくては、と思われたんだろう。
ラディ様は聡明な方だ。
手紙を読み進めると、はっきり分かる。
『ユーリ様。今後のご健勝を、遠くよりお祈り申し上げます』
手紙の結びの言葉は、私の外国行きを見越しているものだろう。
「帰ったら、まずはラディ様に手紙を書かなくては」
書いて、ロジャー国に到着する頃に届けてもらおう。
そして、国王陛下が正気を取り戻す前に出国ね。
その時、私はまだ分かっていなかった。
いや、甘くみていた。
この件に関わっている男たちの愚かさを。
長い夜が始まろうとしている。




