13:初めての友達
ヴィリアーチェ視点です。今度こそ本当です。
「これイルカって言うの! 知ってる?」
「ここ、ボクが並べたんだよ!」
「さっきすごかったね! パタパタぎゅーんって!」
子供たちはいまだ興奮冷めやらぬといった様子で、迎えに来た母親に自分たちの仕事の成果を報告している。お茶会が始まった頃は萎縮したように見える子も多かったけど、今は皆緊張が解けたご様子。無邪気にはしゃぐ姿が微笑ましい。気の合う友達を見つけた子もいるようだ。良き良き。
そんな風に生暖かく後方見守り隊を結成していた私に、マデリン嬢が姿勢を正して話しかけてきた。
「ヴィリアーチェ様、先ほどの采配、実にお見事でした! さすがは建国英雄の一柱、知略で名高いラングシュタイン将軍の血を引く方でいらっしゃいますわ!」
将軍? はて、なんのことだろう。というか、この子の口調、なんだか変わってる? お嬢様っぽい? いや、実際お嬢様なんだけど。それに、他の子に対する態度となんか違くない?
「ううん、私一人だったら、きっと上手くいかなかったと思う。みんなが協力してくれたのも、マデリンが力を貸してくれたからだよ。ありがとうマデリン」
気になるワードにはあえて触れず、素直に感謝の意を伝える。なんとなく聞くとめんどうなことになりそうな気がしたのだ。
「まあ! 知的であるばかりか奥ゆかしさも兼ね備えていらっしゃる! ますます敬服の念を禁じ得ませんわ!」
「ちょ、ちょっと待って。私、そんなじゃないから」
あきらかにマデリンの私に対する評価が過剰だ。
とはいえ、マデリンがこんな風に前のめりになる原因に心当たりが無いこともない。彼女は年齢に比べていくらか、いや、かなり大人びたところがある。他の子供に絵の遊びを教える姿も、同年代では無く年の離れた弟や妹に接するものに見えた。そんな彼女にとって同年代の子供というものは、どうしようも無く隔たりのある存在として感じられるのだろう。そんな彼女の前に現れたのが私だ。
私は今日この場で、4歳の子供に似つかわしくない言動をしてしまった自覚がある。おそらくそんな私にシンパシーを感じてしまったのだろう。私、ヴィリアーチェなら自分と対等に話が出来るのでは無いか。マデリンはそう思ったに違いない。
だが実際の私は、前世の記憶のおかげで多少精神的に下駄を履いてるだけの凡人である。なんだか騙してるようで申し訳ない。
「あのねマデリン、私はあなたが思ってるような人間じゃ無いと思うよ? まだ読み書きも出来ないし、この国のことだって全然知らないし」
彼女が期待するような何かを返してあげられるとは思えないので、あとでガッカリさせないためにも現状のスペックを自己申告しておく。
「それなら、私がいくらでも教えて差し上げますわ! これからは一緒にお勉強いたしましょう!」
あれ? 話が何か変な方向に向かってないかこれ。それに心なしか嬉しそう。
「ごめんマデリン、私が王都にいるのは、このお茶会に参加するための少しの間なの。1週間ほどでスピニグラードに帰ることになると思う」
ママさんからは、そんな話を聞かされていた。明日以降もいくつかのイベントがあるので王都のお屋敷に滞在するのだ。
「なら、王都に滞在する間だけでもわたくしと遊んでくださる? いいえ、スピニグラードへ帰られても手紙を書きますわ。ですので、どうかわたくしとお友達になってくださいまし!」
その言葉に私は頭を揺さぶられたように感じた。
そうか。いくら大人びていると言っても、マデリンは幼い女の子だ。彼女は、ただ純粋に友達が欲しいだけなのだ。そんな彼女が勇気を振り絞って私と友達になることを願った。
何を迷うことがあるだろう。
私は一歩歩を進めるとマデリンの手を取った。
「私で良ければ、喜んで」
マデリンの表情がパァッと明るくなる。
「ありがとうございます、ヴィリアーチェ様!」
「その呼び方、ちょっと慣れないかな。せっかくだし、もっと友達っぽく…」
「では、ヴィーチェと呼ばせていただいても!?」
どうやらトマスくんとのやり取りを聞いていたらしい。
「うん、それでお願い。これからよろしくね、マデリン」
「よろしくお願いします、ヴィーチェ!」
こうして私に初めての友達が出来たのだ。
◇◇◇
楽しい時間の最後に待っているもの。そう、それはお片付けだ。
遊んだおもちゃはきちんと片付ける。名残惜しいけど積み木のイルカさんとはお別れだ。
「それ、ボクの積み木だよ!」「えぇ? どれもおんなじだよ?」
自分が置いた積み木をきちんと把握している子もいれば、特にこだわりなく目に付いた積み木を自分の箱に詰めていく子もいる。
「元の積み木と違っても大丈夫だから、箱に入る数を取っていってね」
几帳面な子には申し訳ないが、ここは妥協してもらおう。
そのようにお片付けにいそしんでいたところ、視界の横に男の子が立っていることに気づく。片付けでなにか解らないことがあるのかと仰ぎ見ると、そこにいたのは王子サミュエルだった。
「王子殿下? 何かご用でしょうか?」
私は片付け中だった積み木の箱を床に置くと、サミュエル殿下に向き直る。
午後からずっと他の子供たちから離れ大人たちと一緒にいたため、今になって遊びたい気持ちがこみ上げてきたのだろうか。だけど、残念ながら今日はもう店じまいなのである。
「ヴィリアーチェ嬢、きみに聞きたいことがあるんだ」
「はい、なんでしょう」
「きみはどうして、これを…いや、どうやって正解がわかったの?」
「え?」
質問の意図がわからなかった。私は知らずに何かの謎解きをしたのだろうか。
「子爵夫人の様子から、きみのしたことが正しかったのはわかる。けれどわからないんだ。きみはどうして答えを見つけることが出来たの?」
そのまなざしはまっすぐに私を見据えていた。
だんだんとサミュエル殿下の言いたいことがわかってきた。彼は、私が積み木を使ってイルカさんを描くに至った理由を知りたいのだ。
「母上に尋ねたところ、きみに教えてもらいなさいと言われたんだ」
王妃様からのロングパスでしたか! して、その王妃様はと姿を探せば、階段の上からニコニコと私たちの様子を眺めていた。さらに、その横には私のママさんの姿も。
二人はどうやら、私がサミュエル殿下にどんな答えを返すのか興味があるらしい。突如与えられた試練。ゲームのクエストの終盤で追加ミッションを課せられた気分である。
少しの思案の後、私はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「人の心の問題には、試験のように答えがあるわけではありません。相手の話をよく聞いて、何を考えているのか、何を求めているのかを理解する。そこから自分に出来ることを考えるのです」
「うん」
「私はトマスくんから、バートリー夫人を元気づけるために大きなイルカを見せてあげたいという話を聞きました。その思いを伝えるためにはどうすれば良いか、考えた結果が積み木を使って描くことでした」
「きみはきみに出来ることをやった。それだけだと言うんだね」
「はい。それにみんなに力を貸してもらいました。私一人では出来なかったことです」
そこに、片付けを終えたトマスくんがやってくる。
「ヴィチェ! イルカさんありがとう! ママすっごく喜んでたよ!」
トマスくんはすぐ近くに王子殿下がいるのもお構いなしで、ニコニコと私に報告する。
サミュエル殿下は、そんなトマスくんを感じ入った様子で見つめる。
「ヴィリアーチェ嬢、きみは…」
サミュエルの言葉はそこで中断する。いや、中断させられた。
「ああーーーーっ!!」
その声は、突如階段上のフロアに現れた人物から発せられた。
「母上、どうして私を呼んでくれないんですか! サミュエルだけズルいです! こんな可愛い妖精ちゃんがいっぱいだなんて、聞いてません!」
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