3.騎士昇格試験3
筆記試験を行うための教室に向かう最中も着いてからもバリはずっとレオンに話しかけていた。
「父は僕に文官になってほしいようだったんだけどね、興味がでなくてねぇ~。まぁ、と言っても僕は基本万能だから、やろうと思えば何でも出来ちゃうんだよ。いやぁ~多彩な自分が恨めしいねぇ~‼」
「それにしても君いくつだい?僕と同じくらいかなぁって思ってたんだけど顔だけ見ると幼いよね。僕よりも五つぐらいしたと言われても全然違和感ないよ。あっ、もしかして気にしてた?童顔のこと気にしてた?ははははは、ごめんよ、僕は基本的に他人のことを気にかけないどうしようもない人間でね、他人のいやな顔をするところが好きなんだ!因みに僕の歳はねぇ~・・・ひ・み・つ!」
「そういえば町のはずれにとってもいい店を知っていてね!そこにはクモのから揚げがあってね、ぜひとも君には食べてほしいね。とってもまずいよ!ああっと間違えた、とっても体にいいよが正しいね。にがいものほど体にとって良いものの方が多いしね」
このようにこちらは何も言い返さないのにひたすら喋り続ける。それも全然止まらない噛まずに喋り続ける。
この人は喋ってないと死んでしまう病気でも持っているのだろうかと思えてしまうほどだ。ひたすらにウザいうえにうるさいのだが、こちらが無視していると
「ねぇねぇ、レオン。さすがにずっと無視するのは悲しくなるからせめて相槌だけでも返してくれないかな?君が何も答えてくれないせいで今の僕の精神力は無くなりそうになっている。このままでは試験前に心が折れてしまうのでお願いだから無視だけは勘弁してくれないかなぁ~‼」
と懇願してきたので多少なりとも返答する。
だが、彼との会話は非常に苦労する。話の話題が突如と変わるのだ。自分のことを話していたかと思えば武器の話になり、と思えばそこら辺にいる野良の動物の話に変わる。
よくもまぁそこまで話題を出し続けられるなぁと少し感心しながら話半分に聞く程度でバリの言葉を受け流す。
「そういえばさ、君なんで剣を背負ってんだい?試験で使う武器は不正はないようにあちらで用意されているのに。もしかしてうっかりさん?」
今度の話のネタはレオン背中にある剣へと移り変わった。絶対に気付いてたはずなのにさも今気づいたかのように話している。
「先生が剣は肌身離さず持っておけと言っているので持ってきているんです。剣を試験で使うことは出来ませんが持ってくる分に問題ないので」
その昔、どこかの貴族が自分の息子を騎士にするべく魔法が付加されている武器を試験で使わせたことがあり、それでは試験として成立しないということであちらで武器が用意されるようになったのだとか。
「先生は武器をただの道具と思わず自分の体の一部と思えっと言っていたので風呂の時以外は持っているか近くに置いておきますね」
「ご飯の時も?」
「はい、僕の座っている椅子に立ててますね」
「寝るときも?」
「抱いて寝てますね」
「はぁ~本当かい、それ。だとしたら結構大変だね」
「慣れてくると案外楽ですよ。騎士になれば野営とかもあるでしょうし」
実際、最初の方こそはレオンも邪魔に思っていたが今は持ってないと安心できなくなるほどだ。逆に持っていないほうが違和感を感じる。
「随分余裕そうね」
また別の話題になりそうになった時、声をかけられた。
「いやぁ~、ベルディじゃないか。相変わらずきれいな顔してるねぇ」
声の方向を見ると会場前で見かけた女性だった。
「あなたにベルディと呼ぶことを許可した覚えはないわ。私のことをベルディと呼んでいいのは家族と親しい者だけよ」
「ひどいなぁ~僕と君の仲じゃないか」
「あなたと仲良くなった覚えはないわ」
バリは相変わらずおちゃらけた雰囲気で話しかけるが、彼女はその言葉をバッサリと切り捨てる。
「レオン、彼女は先ほど説明したベリアルディ。気軽にベルディと呼んでいいよ」
「何勝手なこと言ってるのかしら」
「彼はレオン、僕のマブダチさ!」
「さっき会ったばかりだよね?」
バリの言葉を聞き、冷えた目でこちらを見てくる。
「あなた、ずいぶん楽しそうに話しているようだけど、これから騎士になろうって人が試験前にちょっと弛んでるんじゃないの?」
楽しそうにの部分に関しては反論したい。
「いいじゃないか、君みたいにずっと張りつめていちゃあ、いざって時に疲れて力が出ないよ?」
「騎士たるもの常に気を緩めず心身ともに健全であることが大切よ」
「おぉ~立派な騎士道だねぇ」
パチパチと拍手しているが、相手の雰囲気は芳しくない。
それをわかっていないのか、それともわかってるのにあえてなのかわからないがバリは普段通り喋り続ける。
「そんな眉間にしわ寄せた顔しないしない。美人が台無しだよ?」
「バリ、お願いだから少しだけ静かにして」
彼女からとてもいやな気配を感じるのでバリを止める。
だが、声をかけたことによってむしろ拍車がかかった。
「バリ!?それは僕のことでいいんだよね!?遂に呼んでくれたね‼いやぁ~全然呼んでくれないから悲しかったんだよ!嬉しいなぁ~」
「バリ、お願いだから少し黙って、少しだけでいいから」
どんどん目の前の人からの雰囲気が怪しくなる。それを察してなのか周りの人も徐々にレオンたちから距離をとり始める。
お願いだから誰か助けてくれないだろうか。
「パサルディさん?少しあなたに騎士とは何たるかを教えてあげる必要がありそうね」
「やめてよ、そんな他人行儀みたいな呼び方して。バリと呼んでって言わなかったっけ?」
(バリ、お願いだから空気を少し察してほしい。能天気な顔をしないでいったん喋るのをやめてほしい)
レオンは心の底から願うが当然バリに届くわけがない。
「君はもう少しユーモアを学んだ方がいいよ?柔軟に物事に対応できないと大変な目に遭うからね。つまり何がいいかというとまずは笑顔になってみようか!凛とした表情もいいけどたまに笑顔を見てみたいしね。それに美人の笑顔は目の保養にもいいからね。そう思うだろレオン?」
どうしてここでこちらに話を振るのだろうか。そして彼には現状の危うさがわからないのか。
(誰か助けてください‼)
心の中で願うが誰もが被害を食らわないように遠巻きに見ているだけだ。
だが、神はレオンの願いを聞き届けてくれた。
ガラっと扉が開くと試験官の人が入ってきた。
「全員、席に着いてください。そろそろ試験を始めたいと思います」
レオンだけでなく、おそらくこの部屋のほとんどの人が感謝したことだろう。
バリもベリアルディさんも自分の席に戻ってくれたことに心の底からホッとする。
試験官はテスト用紙を配り、注意事項を説明する。
注意事項と言っても簡単なことでカンニングしたら不合格にするとかだ。
「それでは試験開始!」




