2.騎士昇格試験2
騎士。それは国に仕え、国に剣を捧げ、国に忠誠を誓う者。
なるためには文武ともに高い水準が求められ、毎年数えるほどしか受からない狭き門を突破しなければならない。それ故に騎士を志すも道半ばで諦める者が多い。
「ついにここまで来た‼」
レオンは試験会場である訓練場の前で両手を握りしめ、感動で震えていた。
(諦めずに頑張ってきてよかったぁ~‼)
嬉しさで叫びたくなるほどの衝動に駆られるがさすがに人前でそれを行うと変な目で見られるので自重する。そもそもまだ試験を受けれるだけで騎士になれるかどうか決まったわけではないので喜ぶのもまだ早い。
改めてレオンは試験会場である訓練場を見る。
普段、学校の訓練で使用してはいるがここで騎士になれるかどうか決まるのかと考えると唐突に緊張してくる。
「邪魔よ、入らないならどいて」
レオンが入るのを躊躇っていると後ろから声が掛かった。
慌てて横によけると女性が通り過ぎていく。
凛とした表情で背中ほどまで伸ばされた青い髪ををなびかせながら真っ直ぐ訓練場へと歩を進めていく。その姿にはどこか気品があり、周りにいる男女関係なく視線が釘づけにされる。
女性がいなくなった後もまるで時間が凍り付いたかのようにレオンは動きを止めていた。
「見惚れちゃった?」
「ヒァッ!!?」
硬直している僕の耳元にそんな声が聞こえて思わず変な声が出る。
「はははははは‼ヒァッだって!いい反応するねぇ!君!」
そこにはお腹に手を当てて楽しそうに笑っている男がいた。
「そこまで笑わなくたっていいじゃないですか!」
「いやぁ~ごめんごめん!君があまりにもいい反応だったからさ~笑いが止まらなかったよ。だってヒァッだよ、ヒァッ。これはもう笑うしかないよねぇ~くくくく!」
思い出しているのかまた笑っている.
「あぁ、名乗りもせずにすまなかったね。僕の名前はバーバリックソン・パサルディ。一応それなりに爵位の高い貴族ではあるんだけど、それはあくまで父がすごいだけで僕はあまり関係ないからね。身分差とか気にせず気軽にバリと呼んで仲良くしてくれると嬉しいな」
「レオンです。こちらこそよろしくお願いします」
バーバリックソンと名乗った男は手を出してくる。レオンも手を出して握手したところ、手のひらにいきなり痛みがはしった。
驚いて手を放すと目の前の男は楽しそうに笑っている。
「ははは、痛かったかい?これはね痛覚を刺激する魔道具でね、触れるととっても痛いんだよ!本来はマッサージ用に作られた魔道具なんだけどいたずらに使えそうだって思って家から持ってきたのさ。え?何でそんなことするのかって?そんなの楽しいからに決まってるじゃないか!」
手の上にある魔道具を説明しながら愉快そうに笑っている。
(・・・多分、いや確実に苦手なタイプだ)
「それよりもさぁ~、彼女、美人だよねぇ~」
こちらとしては文句を言いたいところだが、先ほどのことなどなかったかのように別の話題を口にする。
彼女とは入り口で立ち止まっていたレオンに文句を言った女性のことだろう。
「まぁ、そうですね。とてもきれいな方でしたね」
「ちょっとちょっと、他人事のように言ってるけど君さ目で追ってたよね?がっつり目で追いかけていたよね?というかあまりの美しさに呆けていたよね?」
「違いますよ!別に呆けてません!」
「じゃあ、なんで固まってたのさ。素直に白状しなよ~、呆けてただろ?好きになっちゃったんだろ?惚れちゃったんだろ?良いね良いね!青春って良いね!でも諦めた方がいいよ?彼女のことを好きな人なんて星の数ほどいるからね。なんたってファンクラブが出来てるほどだったしね~。あぁ、それとも君はそういう障害があったほうが燃えるタイプかい?だったら止めはしない、当たって塵となれ!」
「それを言うなら当たって砕けろですよね!?というか別に好きになってませんから!」
「またまた~、そうやって否定するのがますます怪しいねぇ~」
にやにやして肘でわき腹を突きながらこちらに詰め寄ってくる。表情と言い話し方と言いとてもウザい。これが彼の地なのか、それともわざとやってるのか。どちらにしても厄介としか言いようがない。
試験はまだ始まっていない、どころか試験会場にすら入っていないのになんだろうかこの疲労感は。
「そんな青春真っ盛りな少年に僕から彼女のことを少し教えてあげよう!」
「少年ってあなたと僕、そこまで歳に差があると思えないんですけど」
「まずはね~」
「話を聞け!」
こちらの言葉をすべて無視して喋り続ける。思わず、ぞんざいな口調になったがそれすらも彼は無視して喋り続ける。
「彼女の名前はベリアルディ・クランシス。爵位で言うと僕の父よりも少しだけ力は強いかなぁ。剣技・座学・魔法全てにおいてトップの成績を叩き出していて、正直何かの間違いがない限り彼女の合格は当然の結果と言えるだろうね。得意武器は槍、魔法属性は水で基本的に中距離が彼女の最も得意な間合いだね。と言っても戦いにおいて彼女の右に出るものはいないからね、近接戦に持ち込んだからと言って勝てる保証は全然ないんだけど」
レオンからすれば聞いてもいないのにペラペラと他人の個人情報をどんどん喋っているがいいのだろうかと思わなくもないがありがたい情報なのは間違いないのでしっかりと覚えておこうと思った。
「好きなものはあの凛とした表情からは想像できないが意外と少女趣味で彼女の家に行けばデッカイくまさんのぬいぐるみが置いてあるよ。毎日鍛錬が終わってシャワー浴びて汗を流した後に抱き着くのが彼女の日課さ。裁縫や料理、掃除といった生活能力に関しては皆無と言っていいほどない。下着は平日は白いものが多くて・・・」
「セイッ‼」
「ほがぁ!?」
聞いてはいけないようなことまで喋っているので頭を思いっきり殴って止める。
後半の情報に関しては即刻忘れるとして、何故彼はそこまで知っているのか疑問に思う。ドン引きするほど情報が次々と出てくるのでストーカーか何かと疑うレベルだ。
「なんでいきなり殴るのさぁ!君も気になるだろ?下着の色」
「なりませんよ‼てか、なんでそんなこと知ってるんですか!?場合によっては騎士団に連行しますよ!」
「それは困る!それじゃあ、試験を受けれないじゃないか!?」
「あなたが騎士として色々と間違ってることしてるからでしょ‼」
なぜ自分は今日で会ったばかりの人、それも貴族と口喧嘩をしているのだろうか。げんなりとする気持ちを抱える。
「いやぁ~、やっといい感じにほぐれてきたね。気軽に話してほしいっていたのに君ってば言葉遣いとか表情が固いからさ」
もしかして彼なりに気を使ってくれたのだろうかと思う。だとしたらちょっと言いすぎたかもしれない。
「因みに下着の色は本当だから」
「ふん!」
「ゲホァ!?」
前言撤回。ただただ他人のこと顧みない無礼な人だった。
「全くひどいなぁ~、もう少し手加減してくれない?内臓が飛び出るかと思ったよ」
「これでも十分手加減してます。というか殴られないように発言に気を付ければいいじゃないですか」
「はっはっは、全くもって正論だね。正論過ぎて胸に突き刺さるなぁ」
そう言いながら傷ついた表情で胸を押さえているが演技臭さがにじみ出ている。
いつまでもここで話してても意味がないのでレオンは試験会場に入ろうと歩き始める。




