2.事情聴取
マコトの言葉に聞いても皆に動揺などは生まれない。
魔法陣を見つけた時点でそのことが決定したようなものだから当然だが。
「わざわざ魔法を使ってまで散歩するわけねぇし、百歩譲って使うにしても偽物を置くみたいなこの場所に自分がいる偽装をするはずだからな。間違っても部屋の痕跡を消すなんてことはしない」
「・・・でも、それがわかってもどうしようもないわ。魔法陣を破壊しても何も出ないのだもの」
「そうですね、先ほどの魔法が幻術の類ならば魔法陣を壊した時点でその効果が消える。なのに何も出てこないのはそもそも痕跡がなかったということになります」
「つまり、成果なしってことですか?」
ティナの言葉に重たい雰囲気が漂う。
元々誘拐事件を前提に調査をしているのだから何も出ないってことは手掛かりゼロに戻るのだ。
「まぁ、成果がないってわけじゃねぇけど・・・」
「というと?」
「何も出てこないことが成果だな」
マコトの言葉にその場にいる皆は疑問符を浮かべる。
「争った痕跡がないってことは抵抗してないってこと。それはつまり王子が警戒しない人物の可能性が高い」
「王子が警戒しない人物・・・もしかして君はこの屋敷に犯人がいると考えているのか」
「少なくとも誘拐事件の関係者ではあるんじゃないか?ここに来るまでに長い廊下だとかたくさんの部屋があったのに一般人が知らない王子の私室の場所はわかってたんだ。誰かがここまでアサシンとかを手引きしたかこの屋敷の誰かが実行犯か、そのどっちかだろ」
シェリーは何やら考え込んでいる。
おそらくは今言った考えがあり得るのかを検討しているのだろう。
「バトラー殿、この屋敷の者と話をしたいのだがよろしいか?」
「問題ございません。集めますか?」
「いや、結構。仕事の邪魔をするわけにもいくまい。私自らそこに向かう、まずはメイド長のもとへ案内してほしい」
何やら考え込んだ後、すぐに屋敷の人と話す許可を得てバトラーを先頭にしてすぐに廊下に出てしまう。
マコトたちもそれについていく。
その時、視界の端にかすかに魔力の残滓が見えた。
(なんだ?あれは?)
どうやら魔道具の一つが起動しているらしい。その形は金庫に見える。
「マコト!早くいくよ!」
その魔道具を調べようかと思ったがクオリアに呼ばれたのでとりあえず頭の片隅に魔道具のことを置いてその部屋を出た。
メイド長の居場所はメイドルームと呼ばれるメイド専用の部屋だそうだ。
運がいいことに現在は休憩時間でメイド長だけでなく他のメイドもそこにいるようだ。
マコトとしてはメイド長よりも事件の発覚の第一発見者であるメイドに話を聞いてみたかったのでちょうどいいと思っていた。
「突然申し訳ない、私はラインハルト王国王女のシェリーだ。メイド長に用があるのだが、どなたかな?」
ドアを開けるとともにいきなりこんなことを呼びかける。
メイドたちは飯を食っていたらしく、サンドイッチなどを手に持ちながらその場で固まっている。
いきなりドアが開かれ自分は王女だと名乗るやつが入ってきたので驚いて硬直しているのだろう。
そんな中、一人のメイドが手を挙げる。
「私がこの屋敷のメイド長を務めているアリッサです。私にご用とはどういった要件でしょうか」
「今回の王子誘拐事件で何か知っていることはないか?」
「いえ、特に何も。事件でしたらここにいるトラベが昼食を部屋に運んだ際に発覚したと聞きました。話を聞くならばこの子に聞くべきでしょう」
アリッサはトラベと呼ばれるメイドを目を向けながら言ってくる。
「あなたやその方だけでなくこの場にいる全員から話を聞きたいので初めにあなたからお話を伺おうと思ったのです」
「おいおい王女さんよ、そんな詰問するような聞き方じゃ誰も話してくれねぇよ。それにもしかしたら他の人には聞かれたくないこととかもあるかもしれねぇだろ?」
明らかに不安そうな顔をしている奴が増えたので砕けた感じで話して、張りつめた空気をかえる。
「それならば、隣の別室をお使いください」
バトラーが勧めで別室に一人一人呼んで話を聞くことになった。
バトラーにも話を聞くことになったので別室に話を聞くのはマコトたちだけになる。
事情聴取係はマリネットだ。騎士団でこういったことには慣れているのが理由だ。
「それでお聞きしたいこととは何でしょうか。先ほども申し上げたように事件について聞きたいのでしたらトラベに聞いた方がより実のある話を聞けると思います」
アリッサは淡々とした口調で話す。
表情や声色から王子が誘拐されたことに戸惑っている様子はない。
「実はこの屋敷の者が今回の事件の犯人に関わっている可能性があります。どなたか心当たりはありませんか?」
「・・・いえ、思い当たる人物はありません。イリウス殿下は人柄がよく、屋敷の者からは慕われていたと思います」
「そうですか。それでは誘拐されてるとしたらどういった理由だと思いますか?」
「身代金とかでしょうか。私はそのぐらいしか思いつきません」
そこから更に深い質問をしたり、全く関係ないような世間話したり十分ぐらい色々な話をした後アリッサは事情聴取を終えた。
そこから何人か話を聞いた後にトラベと呼ばれていたメイドが来た。
緊張しているせいかあちこちカクカクさせながら来ている。
「トラベです!よろしくお願いします!」
「マリネットです。そう緊張せずに覚えていることを話してくれればいいですよ」
マリネットはトラベの緊張をほぐすためか薄く微笑みながら話しかけている。
そのおかげか相手も肩の力が少し抜けているように見える。
「まずは発見時の状況を聞かせてくれる?」
「はい。えっと、十二時くらいに昼食を持って殿下のお部屋に行ったんです。それでお部屋の前でノックをして呼びかけたのですがお返事がなくて、それでお部屋に入ったんです。そしたら殿下はお部屋にはいなくて、そのことを執事のバトラーさんにお伝えしたら騎士団を呼んでいました」
「なぜ、バトラーさんにお伝えしたんですか?立場的にアリッサさんに先に伝えると思うんですが・・・」
「たまたまバトラーさんが通りかかったんです。それでお伝えしました」
「昼食はいつも部屋に持って行っているのですか?」
「はい、メイドが当番制で持っていきます。殿下は魔導書を読んだり魔道具をいじっていて、昼食の時間になっても食堂へ来ませんし呼んでもあと少しで行くと言ってから何時間も経ってしまうので昼食はお持ちすることになったんです」
「わかりました、他に何か気になったところとかはありませんか?」
「えっと・・・なんだか甘い匂いが部屋の中からしたぐらいです」
甘い匂い。おそらくマコトとティナ以外がしかめっ面していた匂いのことか。
魔法陣の副産物か、それとも魔道具によるものか、いったい何だろうか。
そこからは他の人のように質問したり談笑したりして終わった。
最後に話を聞くのは執事のバトラーだ。
「どうでしょうか?犯人らしき人物は見つかりましたか?」
「いえ、今のところ特に怪しい人物はいません」
「そうですか・・・」
目に見えてがっかりしている。
よほど王子のことが心配なのだろう。
「トラベさんからお聞きしたのですが騎士団を呼んだのはあなたなんですね」
「はい、殿下がいなかったのですぐに騎士団の人をお呼びしました」
「少し出かけただけとは思わなかったんですか?」
「勝手に出かけていくようなお方ではなかったので・・・」
最初にあった時よりも若干元気がないようだがそれでも挙動や回答には特に不自然なところは無い。
「犯人、もしくは犯人とつながりがありそうな人物には心当たりはありませんか?」
「いえ、残念ながら。ただ国王様に良い思いをしてない方はおりますので、何とも言えないところです」
「攫われる理由に心当たりは?」
「・・・特にございません」
こうして全員からの話を聞き終えた。
「マリネット、君から見て怪しい人物はいたか?」
「いえ、これといった人物はいませんでした」
「エリカ、君の目からどう見る?」
「私もマリネット様と同意見です」
二人の意見は同じようだ。
「マコトはどう?何かわかることはない?」
「俺も二人と同意見だな。今のところ怪しい人物はいない」
「王女様の魔法で犯人を見つけることは出来ないんですか?心を読んだりするみたいな」
「残念だけど闇魔法は基本的に攻撃系統の魔法しか使えないの。読心系の魔法だと風属性かな」
「シェリー王女は出来ないのか?あんたは風属性だろ?」
「・・・なぜ私の属性魔法を知っている」
「まぁ、俺には人には言えないような情報網があるんだよ」
『識別』で確認しただけだが嘘を言っているわけではない。
「私は基本的は探知や間合いを伸ばすことに使っているから読心などは出来ん」
「探知が得意なら王子を探すことは出来ないのか?」
「やってみたが私の探知の範囲にはいなかった」
「私は土属性なので、そもそもそんなことは出来ないですね」
「私は火属性です」
魔法での調査は諦めた方が良いようだ。
「これはいよいよ手詰まりのようだな」
シェリーの一言で皆の気分が少し下がった。




