五十九話
おうふ
夜も明けて、朝日が昇り、今日国賓が帰ると国民が見送りの為に軍港に集まっていた。式典を終えて船に乗り込んだ第一王子のショウケイ一行の使節団は港を離れる。潮風に吹かれて祖国を目指す航路に就いた使節団は祖国の何倍もある青の帝国を眺めながらこれまでの三ヶ月間を振りかえっていた。
『いいのか?』
『と、言いますと?』
『お前の御姫様の瞳は決壊寸前だぞ』
『ああぁ・・・』
『グスッ・・・』
船の縁にしがみ付くようにしてオリオス国王女ナギサは鼻を赤くして大粒の涙を流していた。
『ナギサ、そんなに悲しいかい?』
『グスッ・・・いえ、そのような事は・・・』
『嘘つけ』
『本当ですって・・・!』
遡って三十分前、秘密警察『B3』に守られながら港に到着した王女ナギサと従者スライルは一足先に船に乗らねばならなかった。国賓とはいえ密航者なのでなるべく人目につかない形を取った結果こうなったのである。続々と出港の準備が進む、ナギサは挨拶を済ませ『B3』の中でも一番気に入っていたチタンを呼び出していた。
「世話になったな」
「いえいえ、大した事も出来ず・・・」
「スライルを除けばお前に一番助けられた。この恩は一生かけてでも返したいと思っている」
「そんなこと言っていただけるなんて光栄の至りですね」
「時に・・・」
ナギサは顔を赤らめて言う。
「三ヶ月間青の帝国では様々な学問を学んだ、特に司法関係をな・・・。祖国には明記されていないが帝国では十八で法的に結婚な認められるそうだな・・・」
「え、まぁそうっすね」
「お前は今十六であろう?」
「あ、はい」
「軍人である以上この先様々な危険に見舞われるであろう。でも頼む、絶対に無事生き伸びてほしい。あと二年間無事生き伸びたら・・・」
「たら?」
無理なのは分かっている。身分の壁などと言う安い恋愛物の小説みたいとは言わないが紛れもない事実であった。一人の王女のせめてもの強がりであり、人生初の告白でもあった。
「もし十八歳になったら、王女の婿にしてやっても良いぞ?」
「へ?」
まるで見計らったように乗船の刻限になる。遠くのスライルに呼ばれて王女は逃げるように船に乗り込んだ。チタンはチタンで歯とが豆鉄砲喰らった様に呆然としていた。
舞台は変わって船上にもどる。
『それにしても王子の可愛い王女が惚れるくらいだからな。そのチタンとかいう武官はどのような男なのか・・・一度でいいから話してみたかったな』
『またいつか機会はありますよ』
『その日の為に我々は一層国務に励まねばな・・・』
『忙しくなりますな』
『その時はナギサ、頼りにしているぞ』
『グスッ・・・うん・・・』
『ほら、何時までも泣いてるんじゃない!笑え! 次に婚約者候補と会う時にもっと綺麗になって驚かせてやるんだ』
『・・・うん』
少なくともこの後にオリオス国が大きく政治方針を変えて急速な改革を進めた事によって苦難の道を歩み始めた事も、初めて惚れた男と離れ離れになって失意のどん底に落ちたナギサ個人の歩む道も楽な物ではない事は言うまでも無い。この時期を境にオリオス国は大きく成長を遂げることが後世の歴史書に記されるのはまだまだ先である。一人の王女と軍人たちの話はここで幕を下ろす。
オリオス国姫編・完・
おうほ




