五十六話
なんだ
『チタン殿・・・多勢に無勢を覚悟で立ち向かうとは、士の鑑だ・・・』
『スライル・・・大丈夫なのか・・・?』
『ご安心を、私目がこの命に変えてでも御守り致します』
部屋の外ではまだ怒号が鳴り響いている、武器と武器がぶつかり合う音、攻撃を喰らい痛みに苦しむ兵士の声がナギサの恐怖心を一層煽る。
「すいませんナギサ様スライルさん逃げて下さい! マジでヤバいです! 敵が多すぎてもうすぐ流れ込んできます!」
「なんだと・・・?」
頭髪も乱れて返り血にまみれたチタンが部屋に戻って来るや速攻で逃亡を勧められた。
「すいません、敵が多すぎて抑えるのは無理です、秘密警察が食い止めている間に公使館か練兵所へ逃げて下さい! 一刻を争います! お早く!」
「わ、分かった! 『スライル! 行くぞ!』」
『御意!』「チタン殿、御武運を!」
「無事でいて下さいよ」
かくして散り散りとなった面々は各々の使命を果たすべく懸命に走る。また喘息の発作が出てはいけないとナギサはスライルに負ぶわれて公使館を目指す。その前にこの屋敷の長い廊下を抜けねばならない。チタンの情報によれば既に賊が侵入しているはずだからスライルは遭遇した際には交戦も辞さない覚悟だった。もう一歩で屋敷を出られると言うところで敵と遭遇してしまった。
「いたぞ! 王女だ!」
『早速か・・・!』
『大丈夫か・・・?』
『勝ち抜いてみせましょう!』
「かかれえ!」
ナイフやらトンファーやらで武装した敵兵達が一斉に襲いかかって来る。主人を背負っている従者は必然的に足と片腕しか使えない、蹴りで最初こそ凌いだが多勢に無勢、反撃を許し刺され、殴られつい傷つきながらもスライルは囲みを突破した。
『はぁはぁはぁ・・・グッ・・・!』
『スライル! 大丈夫か!?』
『うぅっ・・・!』
ついに巨人は膝をついた。血を流し弱り切った姿にフールと戦った時の猛々しさの影は見当たらない。
『姫、どうやらさっきの戦闘で足を痛めたようです・・・! 戦いながら、あるいは姫を背負いながら歩くか、いずれも二人でいる事はもう無理です・・・ここは私が食い止めます、おひとりで逃げて下さい・・・!』
『そんな、諦めるな! オリオス国一の猛者が何を言う!』
『良くお聞きください! このままでは2人ともお終いです、現状この策が一番姫の身の安全を保障されているのです!』
『そんな・・・』
「お熱いとこ悪いが、ここいらで積みだなぁ? 御姫様?」
『!?』
声の方向へ振り替えるとスクレイパーズが二人を取り囲んでいた、完全に退路は断たれた。
「さぁ俺達と来てもらおうか、痛い目を見たく無ければな」
「ふざけるな・・・」
「あ?」
ナギサは今までに出した事のない様な声で怒鳴り付けた。
「貴様らの様な下賤な輩に王女は屈さない! スライルに指一本触れてみろ! 駄々ではおかんぞ!」
「ほぉ大した心構えだ、何時まで気丈に振る舞っていられるかな?」
「く・・・!」
ナギサはスライルを抱きしめて敵兵を睨みつける、敵はジリジリとにじり寄って来る、どうやら此処までらしい。最後の最後にナギサは聖母の様にほほ笑み従者に語りかけた。
『スライル・・・今まで守ってくれて、有難うな』
『ッ・・・!』
ああ?




