四十九話
おうふ
護衛一ヶ月目、流石に一か月も同じ事を続けていると何もかもが流れ作業にいなりかけていた。もはやそれが日常の一部と化していたチタンだったが今日は少しばかり違った。分けあって台所で料理をしている、しかしその真後ろにはナギサが凝視していると言う異質な光景だった。なにやら政治について学ぶうちに色々と考えたらしく庶民の暮らしについて知りたいと言い出し炊事当番のチタンに張り付いているのだ。
「おいチタン、今何を作っている?」
「え、あーチャーハンです、コレしか作れないもんで・・・」
「ふむ、我が祖国にも似た食べ物があるが・・・作り方が少し違うな」
「はぁ・・・しっかしまぁ、俺が台所に立つ光景なんて見てて楽しいですか?」
「楽しくはないが興味深い、祖国では調理工程なんて見られないしいつも毒見役が何人もいて冷めた食事しか食べられなかったから、帝国の食事は今まで食べた何よりも美味である」
「へえ、左様ですか」
などと他愛ない会話を繰り広げながらチタンは予め拵えておいたスープが入っている鍋を火見かける。時間が経つにつれて表面が泡立ち除々にぐつぐつと煮え始める。すると後ろの方でナギサが興味津津にこちらを見ているのが分かった。
「あの・・・俺の顔に何か付いてますか・・・?」
「ん、いや・・・何でも無い・・・」
少し考えてチタンの疑問はすぐに溶けた。
「あ、水が沸騰するのそんなに珍しいですか?」
「あ・・・いや・・・珍しいと言うか、実際に見るのは初めてで・・・」
「ふーん、あ、よければ近くで見ますか?」
「え」
チタンの申し入れにナギサの顔に若干嬉しさと混乱が入り混じった様な表情が灯った。
「ナギサ様が良ければですけど、そもそもこんな場所に王女様に来て頂いている事自体アレですけど・・・」
「いや見たい!」
「そーっすか」
やや興奮気味に席を立ち鍋に顔を近づけて観察しようとしたが何分身長が足りず困惑しているところにチタンは椅子を差し出した。
「・・・」
「いや、なんかスンません子供扱いしてる訳じゃ・・・」
「構わん、恩に着る・・・」
椅子に上り沸騰する様子を丸い瞳で観察する様は無邪気な子供のようにも見えたし、疑問を感じた課題を目の前にした学者の様にも見えどこかちぐはぐな印象だった。長いまつげの切れ長な目をパチクリさせながら何やらぶつぶつ言っている。
「ほぉ、理論上は知っていたが実際に目にするのは初めてだ、百聞は一見に如かずちは良く言ったものよ」
「御満足ですか?」
「うむ」
「それは良かった、おっとこのままじゃ煮え切って飲めねえや」
すぐさま火を止めて出来た料理をそれぞれ器に盛り食卓に並べる。普段ドグマの作る豪勢な上流階級向けの料理で無く紛れもない庶民の食事である。特に彩りも無い光景ながらソレを王女は観察する、舐めるように見た後にスプーンを手に取り料理を口に運ぶ、表情は別に変らなかった。しかし少なくとも以前の王に部屋に籠って勉強ばかりしていた時に比べたら少し表情の曇りが取れた様には思えた。者はついでとチタンはナギサに問いかけた。
「ナギサ様、他にお望みは?」
「へ」
「いや、俺、護衛ですけど何かお役に立てたらと思いまして」
「う、うむそうか・・・」
そうやって暫くナギサは考える。何か言いたげな風にするが口は固く閉ざされている。
「あ、無いと言うのでしたら無理やりには・・・」
「あ! いやあるぞ! あるからな!?」
「どのような?」
「その・・・」
暫く溜めて言った。
「そ、外を見てみたい・・・」
おうふ




