三十九話
おっほお
「うん、イイ感じじゃん」
「ウッス!」
数える事十分間ニシキとのスパーリングを終えたチタンはいよいよ近衛部隊のトウジンと拳を交える準備を整えた。向こうもベストコンディションらしい。肌寒い時期に上半身裸は少々冷えるのは普通だが温まっている二人は寧ろ心地よささえ感じていた。
「待たせたな・・・!、トウジン・・・!」
「それでいい、それでいいんだ人狼」
練兵場の武道場で二人は向かい合った。マスタングの合図で構えを取り互いの距離を測る。
「(俺の流儀は空手をベースにした足技が中心の徒手空拳・・・そして奴に体格で劣る俺よりも向こうのほうが射程は長い筈・・・)」
「(俺の流儀はジークンドー、腕の長さが勝っているからと言って技の射程は短い・・・)」
睨み合い、探り合う事約一分間。沈黙を破ったのはあの宴の時と同じくトウジンだった。一気に間合いを詰めて攻撃を仕掛けて来た。打撃と打撃の繋ぎ目の時間が無いに等しい強烈無比の速さに亀と成り下がったチタンは―――
「ッらぁ!!」
「甘い!」
打点の高い至近距離からのハイキックを繰り出すも先読みされてかわされる。恐らく向こうもチタンの事を色々と調べていたのだろう、つまり情報戦と言う観点からはチタンは遥かに差を付けられていた。
「その程度か!?」
「っ!?」
再びラッシュが繰り出され今度は防御が遅れモロに喰らう、一撃一撃が急所に吸い込まれるように入り流石のチタンも怯んでしまった。無造作に放った右ストレートでトウジンを追い払い体勢を立て直す。
「どうやら俺の優位は変わらんようだな、人狼!」
「はぁ・・・はぁ・・・うるせえ・・・!」
ここでチタンが取ったのは相撲で言う仕切りの構え、陸上で言うクラウチングスタートを取った。一禁に加速を付けて得意の蹴り技に移行する得意の流れだった。ギリギリまで脚に力を込めてスタートダッシュを切る。それに合わせてトウジンも迎撃の態勢で突っ込んで来る。
「ほほう、速さが売りか・・・」
「違ぇよばーか」
「え」
途中で減速しトウジンの懐に潜り込み寝技に移行した、アキレス腱を肘で締め付けて機動力を奪う。
「ちなみにこの技、ラン先輩に教えて貰ったんだわ。いやぁジュウドウってすげえな!」
「ほざけえええ!」
「ぶっ!?」
締めていなかった左足の蹴りがチタンの顔面を捉えた。クラッチの緩んだ好きにトウジンはエスケープに成功し右足をかばった構えで再び相対する。
「拮抗してますな」
「えぇ。トウジン君の並々ならぬ闘志には感服します」
立ち合いもそこそこに二人は技術も糞も無いと言わんばかりにぶん殴り合う。足を止めての殴り合いでは身長の高いトウジンが有利だった。まして手数でも劣るチタンはこのまま押されて敗北する事さえ十分にあり得た。
「どうした人狼! このままでは俺の勝利だぞ!」
「うるせええぇええ!!」
更に加速する二人を突き動かすのは名誉でも闘争本能でも無くただ一人の女の存在であった。核心は無かったが此処では『敗北=ランを失う』という等式が自然と頭の中で構築されており互いにランに並々ならぬ好意を寄せている為にソレを燃料に闘志を燃やしていた二人のエネルギーは凄まじい物が合った。
「ランちゃんはなぁ! どう考えても俺の事好きなんだよ! 何時も目合わせたら笑ってくれるし! 挨拶する時ボディータッチしてくれるし!」
「はぁ!?ソレ言ったら俺先輩と間接キスした事あるし! 頭撫でて貰った事あるし!」
「・・・」
「童貞の虚しい言いあいか・・・」
エネルギーの向け方が間違っているのはともかく、二人は思いつく限りのランとのエピソードを叫びあいぶん殴り合った。
ほほほお




