三十七話
ふふう
青の帝国での午後二十一時と言えば深夜に向けて大人達が酒屋に繰り出して呑みだす頃である。その時間にチタンはニシキと共に夜の繁華街に繰り出していた。最初こそ会話も無かったが適当に入った店でニシキがエールを軽く煽り始めたあたりから口数も増えていき両者は会話に花を咲かせた。一軒目ではあまり飲み食いもせずに出た。
「二件目ってさっきの店から決行は慣れているんスね」
「まぁな、そこそこ良い店だぞ」
「マジすか」
「あ、でもあんまり食べるなよ? 後に面倒だから」
「そんなに高いんですか・・・」
「それも有るけどな」
「え、どーいう事っスか?」
「ついてからのお楽しみ」
「えぇ・・・」
到着したのは普段自分が入るには敷居の高さを感じるいかにも極東の島国をモチーフにした高級店と言う感じだった。頼れる大人と一緒で無ければ絶対に入れない、と感じながらチタンはニシキと共に暖簾をくぐった。店に入るなり案内役に取れられて奥の方に連れて行かれ一つの部屋に通された。ここでチタンは有る事に気が付いた。
「あれ、隊長? この部屋って・・・」
「お、気が付いたか。気が回るようになったな」
襖の前には二人分の履物があった。一つは平均的な大きさだったがもう一つは明らかに常人よりも大きな三十センチは下らないサイズだった。この「大きい」というワードにチタンの頭に引っかかるものがあった。恐らくこの先にドグマが居ると言う事は考えにくい(ドグマの足のサイズは四十五センチだから)、だとすればこの先にいるのは自分が知る中でその次位にデカイ人物だろう。該当するのは―――
「あの・・・まさか」
「ん?」
「いや、自分が思うに、てか九割確証なんスけども多分曲がっている可能性が一割でもある以上はとりあえず確認しておこうかなぁ~って・・・」
「ははっ、多分お前の勘は当たってるよ」
「あれ? 自分ちょっとお腹が・・・」
「はい逃がさない」
逃げようとした瞬間ニシキにヘッドロックをかけられて部屋の中に散れ込まれた。その光景はチタンが想像していた物その物だった。
「ようっ、マスタングさん。待たせてスマねぇ」
「気にせんでくれ。まぁ座ってくれよ」
「・・・」
「・・・」
無言なのは言うまでも無くチタンとマスタングの連れである。トウジンの視線は明らかにチタンに注がれていた、まだパーティでマスタングに殴られた痣が痛々しい。恨みを通り越して殺意を抱いている事はその目が物語っていた。そんな二人を無視するかのように大人二人は和気藹藹と酒盛りを始めていた。
「さぁまずは一献」
「どうも、おいチタン早く席に付け」
「うっす・・・」
促されるがままに席に就くがよりにも寄ってトウジンの目の前だった、そんな状態で出された料理を口にしたところで味など感じる筈も無くただ無為な時間が一秒一秒過ぎて行くのをチタンは感じていた。どちらかと言えばチタンはトウジンに対して恨みは感じていなかった。ランに対して狼藉を働いた事を考えたら許せない節もあったら弱気になっていたここ数日で精神的に参っていた為にトウジンよりも出しゃばった自分が悪いのだと思っていたからだ。刺さる視線を受けとめながら端を置くチタンにニシキは言った。
「あ、そうだ二人とも。余り腹いっぱいにすんなよ? このあとメーンイベントが控えてるからよ」
「は?」
「チタン君、君は主役みたいなものなんだ。楽しみにしているぞ。ウチのトウジンも負けていないからな」
「え?」
そう言った二人は僅かに笑みを含んでいる様にも見えた。話かも分からず呆けけているチタンをはねのけるかのようにトウジンは急に立ち上がりマスタングの方を向いて言った。
「長官、俺は先に行って準備してます」
「そうか、体を冷やさんようにな」
「それでは」
トウジンが去る直前再びあの刺さるような視線が飛んで来た、それでもチタンは意味が分からない。
「いやはや、秘密警察のチタンは人狼ならば、トウジン君は餓狼と言ったところですな」
「まだまだですよ。素質と言う点ではチタン君には劣りますよ」
「(いやいや、だからアンタ等なんの話してんだよ・・・!)」
こうして少なくともチタンは先ほどよりかは料理の味を楽しめる余裕は出来た。
ははあ




