三十四話
うむ
人は生きている限り様々な人間との関わりを持つ、良い縁であれ悪い縁であれ、ソレを断ち切るのは容易な事では無いし終わらせたいと言うのであれば如何に小さな縁でも一度もった以上はどのような形であれ何かしらの方法で決着を付けるべきなのである。少なくとも今のチタンは何かもやもやした様な物が胸の中に蠢いておりもしも手元に愛刀『陣風』があったのならばソレを振り回したいような気分だった。
「なっ? いいだろ? もう危ない秘密警察なんて辞めてさ、俺の嫁になってよランちゃん?」
「んーそれはちょっと無理かなぁ・・・」
「は? なんでだよ? 自分で言うのもアレだけど俺ぶっちゃけ帝国近衛部隊の出世頭よ? 何処が不満な訳?」
「いや出世とかの問題じゃなくて・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
鬱陶しそうな前髪をくねらせたスーツ姿の男がランに絡んでいる、酒に酔った様子が無い当たりアレで素なのだろうが誰であろうと自分の憧れであるランを困らせるような行為を行っている輩をチタンは見逃せなかった。フールと別れた後に会場内を少しブラついていたらあんな光景を見つけてしまったのだ。考えるよりも先に足がランとその男との距離を縮めて行く。男の背後に立ち方を鷲頭掴みにしてチタンは低い声で唸るように言った。
「アンタ、何処の誰かは知らんがウチの先輩にちょっかい出すの止めて頂いてもよろしいっスかねぇ?」
「あ・・・?」
男は振り返ってチタンを睨みつけるようにして目を細めた。絶賛成長期中で『B3』に入隊してから順調に背が伸びて百六十四センチのチタンよりも男は大きかった、目測で百七十五センチ程の相手は口を開いた。
「ハハっ。こっちこそ何処の誰かと思えばランちゃんの後輩だったか。ちょっかいも何も客観的に見て俺が何かしているようには見えないと思うけど?」
「は? じゃあアンタ突然知り合いに結婚しようって言われて驚かない自信あんの? 俺もラン先輩も驚くのが普通って思うんだけど」
「おいおい突然肩を掴んで来たかと思えば、次は何だ? そっちこそ初対面の相手に無礼なんじゃないか?」
「あ? てめ・・・」
「はい、ストップ!」
感情に身を任せて根も葉もない罵詈雑言を吐きそうになった寸手の所でランが制止してくれた、一端二人を離して一呼吸置きランはチタンに説明の様な何かを始めた。
「待ってチタン。この人は別に悪気が合ってあんなこと言っていた訳じゃないの」
「はぁ・・・」
悪気じゃ無ければ何だと言うのか、軽いノリで結婚してくれなんて言うのだろうか。ランに対して並々ならぬ好意を寄せているチタンには理解できなかった、仮に理解できても納得は出来ないだろう。ランは続ける。
「えっと・・・この人は青の帝国近衛部隊小隊長のトウジン、私とは士官学校の同期生なの」
「はい」
「トウジンはこのパーティで久しぶりに私に会ってちょっとテンションが上がっていただけなの、だから、許して、ね?」
「ッ・・・!」
まさしく修羅場と形容に値するこの状況でチタンは正装で身を整えたランの事を可愛いと感じてしまった。たじろくチタンをよそ眼にトウジンはため息交じりに吐き捨てる様に言った。
「ったく・・・頼むぜランちゃん、後輩の教育くらいしっかりしておいてよね。」
「ごめんごめん・・・注意しておくから・・・」
「全く・・・ニシキさんも甘いよな元山賊の手綱くらいしっかり握っておけってんだ」
それがチタンが理性のあるうちに聞いた最後の言葉だった。
チタンぇ・・・




