二十九話
馬刺しおいしかった
「到着っとぉ! いやー遠かった。ん? へばったか、チープ」
「隊長・・・わ、私の体力で、はぁ・・・はぁ・・・帰れますかね・・・?」
隊の中では唯一の非戦闘員のチープは既に息も絶え絶えにへばっていた。
「安心しろ、帰りはチタンが背負ってくれるってよ」
「え」
青の帝国に敵対する北方騎馬民族連の盟主との交渉を進める使命を抱く秘密警察のニシキ、チープ、チタンの三人は件の軍勢の本陣を訪れていた。盟主マースイの計らいで見張りに気付かれたりすることも無く一つの天幕に到達する。入口には護衛らしき二人の人物が経っておりニシキのみが中へと通された。残された二人は話し合いが終わるまで立ちすくすしか無くなった。仕方なく無言になっていたチタンにチープが話しかけて来た。
「ねえチタン・・・」
「はい?」
「隊長はなんで私を選んだのかな?」
「え、そりゃあもしも敵襲にあい負傷しても治療してくれる役割を期待して・・・じゃないんですか?」
「でもさ、ドグマの言うとおり鬼強い隊長が簡単に傷を負うかな? チタンはまだ実戦経験が浅いからまだ分かるけど・・・それに体力に劣る私を連れたら約束の時間に遅れる事も有り得るのに・・・」
「あー・・・」
言われてみて初めて疑問が生まれて来た。もしもマースイが約束を反故にして道中の自分達に兵を差し向けて来ることも十分に考えられた。その事を考慮したらもっと実力に富むメンバーを連れてくるべきじゃないかと思えて来た。
「んまぁ隊長なら『俺がお前らをキチンと守ってやる』とか言いそうですねえ」
「ふふっ、確かに」
と、一笑に付したチープはチタンの頭にポンと手を置いて。
「んまっ隊長の事だから確実に何か考えがある筈なんだけどね」
「そーですよね」
いつの間にか夏を過ぎて冬になろうかと言うこの時分、辺りはやけに冷えていてもうそろそろ冬物の服が必要だなと考えるチタンは陣風の柄に親指をかけて気合いを入れる様な仕草をして再び仁王立ちに集中する事にした。
「お待たせぇ、マースイ君。前向きな返答を期待しているよ?」
「・・・ハイ・・・」
ニシキの問いかけにマースイは何処か晴れない表情で答える。ニシキを席へ促して自身も着席するとまず切り出した。
「未だに実感が沸きません、その・・・貴方が・・・」
「おっと」
ニシキは右手をかざして牽制する。
「それはダメだ。まずはこれを」
そう言って大尉ツァオが認めた降伏勧告の文章を取りだして見せ示す。マースイは黙々と読み込んでから口を開く。
「・・・貴方が父の元仲間である以上私個人、果ては北方騎馬民族連全軍は協力を惜しまない覚悟です。青の帝国に服従するのも良いでしょう、賊と見なされて一方的に故郷を蹂躙されるよりかは」
「うん。イイ返事だ、さすが名君。だが一つ頂けねえのは―――」
ニシキはマースイの肩を鷲掴みにしてグイッと手繰り寄せる。そして戦いの最中の如き鬼の様な表情を浮かべて静かに、厳かに言う。
「俺とカンスイが『元』仲間・・・? 違うだろう? 今も仲間だ、俺達は血より固い絆で結ばれた兄弟だ・・・! そこんとこ宜しく」
「は、はい・・・!」
「・・・すまん、熱くなっちまったよ」
ニシキの圧迫から解放された、マースイの顔に安堵の表情が灯る。再びにこの戦いの終結についての議論がなされる。
「さて・・・君達が青の帝国に降伏した後の君の所領の件だ。ざっくりとした案だが・・・」
ニシキが一切れの紙切れを差し出してマースイは無言でソレを受け取る。かくかくしかじか、二人の交渉は三時間に及び北方騎馬民族連の幹部や兵士にはマースイから説き伏せる事で青の帝国への降伏が決定した。両軍合わせて約三十万の軍勢はついに大きな戦場に見える事無く戦いを終えた。
ユッケも上手いよね




