二六話
おっひさしい
何処かスッキリ出来ない曇天の中で戦いの火ぶたは切って落とされた、帝国軍が先制攻撃を仕掛けたのだ。少数精鋭の奇襲部隊を結成し、敵に致命傷を与えて降伏させる短期決戦に持ち込む作戦だった。その奇襲部隊のリーダーには秘密警察『B3』のニシキが任命されていた。
ニシキは八千の兵力を二分して一方を直属の部下であるフィアーとラン、そしてチープに預けた、後方支援を頼み自身はドグマ、フール、チタンと残りの四千人を連れて世も明けぬうちから陣を出て敵陣の背後へ回った、此処でようやくニシキ達の今現在の時間に追い付く。
「相手は機動力で優れるお馬さんだからな、タイマンで挑まずに常に三、四人のグループを作って数に物を言わせて確実に仕留めなさい、歩兵でも同じね。最終的には敵の兵糧を焼き尽くして退却」
ニシキは直属の部下も含めた配下の者たちに作戦や細かい指示を与えていた。そろそろ終わると言う所に差し掛かった時点でチタンが挙手した。
「質問です隊長」
「ん? 何かな? チタン君」
ふと浮かんだ疑問をチタンは口にした。
「今さらって感じですけど、相手が騎馬なら俺達も騎馬を用いればよかったんじゃ・・・上回れなくても対等くらいの戦力になれてのでは・・・」
ニシキは葉巻に火を灯して答えた。
「うん、言いたい事は分かるよ? でもさ俺達が借りてるのは帝国一を誇る近代兵器を扱う部隊だからさ? 乗馬に優れる敵さんに無理してお馬さん使うよりも帝国軍にしか出来ない作戦で戦う方が被害も少なく済むと思ったからこの作戦に出たのね。おわかり?」
「はい、良く分かりました。有難うございました」
ニシキの煙混じりの返答にチタンが礼を言った所で最終的な作戦のチェックは終わる。まず先行して敵陣に四千人が攻撃を仕掛けていく、ニシキ達『B3』は一人ひとりが一騎当千の兵ぞろいと言う事で単独行動がレイから一任されている。余計な物は背負い込むなと言わんばかりにレイから与えられた兵士たちも是非暴れてくれ言ってくれた。秘密警察の戦力は隊長のニシキと、それに次いで一、二の実力者であるドグマとフール、そして新人有力株のチタンと盤石な布石と言えた。ニシキの掛け声とともに、男たちは戦地へと赴く。
「うおぉおおおおぉ!」
フールの雄叫びとともに断海崩山号は敵歩兵を一突きに伏せる、勢いのよい血飛沫と華麗な槍さばきと共にフールは敵陣へ更に深入りしてゆく。それにチタンも続く、敵の奇襲に騎馬で戦う準備の不十分だった騎馬民族連軍は本命では無い歩兵で戦わざる終えなく若干劣勢だった。少し進んだところで十人ばかりの敵兵に囲まれた、チタンはフールと背中を合わせて言う。
「いやー! 中々骨が折れますねぇ!」
「おいおい、もうバテたか!?」
「まさか!」
「まだイケるよな? チタン」
「当然です」
「ちゃっちゃと片付けちまおうぜ!」
フールの一言より先に切りかかって来た敵に向かって二人は向かってゆく、フールはまず敵の刀を薙ぎ払う様な動作で払いのけ真正面の敵の鳩尾に柄を突きだす、吸い込まれるように命中した柄出しでまずは一人討ち取る、ガラ空きの横を狙って来た敵には槍を通常の構えに戻す動作を利用して叩きつける様な攻撃で仕留め、その勢いで槍を突き出して、正確な数は把握できないがその直線上にいた兵士は貫いて全員仕留めた。一連の戦いを終えたフールの呼吸は極めて静かな物だった、これが戦い慣れしている先輩の余裕なのだろうとチタンはやっと一人仕留めてから思っていた。
本来、刀は一対一での戦いでこそ本領を発揮すると言ってもいいほど対多数の戦闘には不向きだった。無論こういった兵士の込み合う場での戦い方のレクチャーを受けているチタンだったが練習を本番は全然勝手が違うのは言うまでも無い。チタンは山賊討伐の作戦以降先輩指導の元で鍛錬に鍛錬を重ねていた。自分の短所は運動神経とセンスに頼り過ぎているという点と教わってからはドグマから剣術を、ランからは柔術を、フールからは格闘術を、時折チープから少し勉強も教えてもらった、以来着々と実力を付けて来たチタンだった。
しかしながら敵は今まで戦って来たゴロツキや山賊などでは無く本物の戦闘のプロ集団である。強さの質が全然違っている事が肌で感じられた。筋力で劣るチタンの武器はスピードに特化した戦闘スタイルである、長槍を携えた敵と対峙する、先手必勝と陣風を振りかざす、敵の脳天を目がけて振りかざした陣風は真横に構えられた槍に受け止められる、垂直に交わり十字が出来た。チタンは陣風を持ちかえて槍に沿って滑らせるように左に流す、刃を避けた敵の右手は槍から離れる運びとなり手放した瞬間を逃さず逆袈裟で仕留める。
「よっし! 二人ぃ!」
苦戦を強いられていただけに勝利の喜びは大きかった、ただし既に二十人以上の敵兵の死体の山を築いているフールの戦う様を見てぬかよろこびに終わったのだが。自分とフールがこうしている間に最初の戦闘の混乱ではぐれたニシキとドグマはどうしているだろうか、負けはしないだろうがどうなっているか気がかりなチタンだった。
「んー、強さはドグマといい勝負ってとこかな? まぁ腕力は俺の半分にも満たんが」
「いや。それって充分人間やめてんじゃねースか?・・・隊長」
「はは! それもそうか!」
なんて会話をしながらニシキとドグマはケタケタ笑って見せる。ここは陣の中心部に位置しており奇襲の騒ぎとは無縁な静けさを呈している
ニシキは上着を脱ぎ腕まくりしたシャツ姿である、所々返り血を浴びており戦闘の後の様な風体をしていた。事実二人は目的の人物と既に接触して目的を果たしていた、その人物は―――
「さて・・・まだ戦ってみるかい? マースイ君?」
ニシキの目線の先には一見して全身打撲は必至の地面に膝を付いている北方騎馬民族連の盟主マースイの姿が合った、左目が腫れ上がっている。マースイは答える。
「ハァ・・・ハァ・・・うっ・・・ここで降参したら・・・下々の連中に示しがつかないだろう・・・なぁ、隊長さん?」
「そうやって反抗する元気は残してやった意味を考えろよ?」
「・・・! うるせえ! 姉ちゃんを返してもらうぞ!」
マースイは特攻を仕掛けた方向にはドグマが居る、ドグマの右肩には気絶したヒスイが担がれていた。取り戻そうと必死になるマースイにニシキが立ちふさがりアッパーガットを決める。再び地に膝をついた男にニシキは問いかける。ちなみにこの展開は作戦会議には出ていないニシキがドグマにのみ明かしていた隠密作戦である。
「マースイ、これが最後だぜ? さっき俺が提示した提案を受けるか? 受けきゃ姉ちゃんは奪い去るぞ?」
「ぐッ・・・何故だ! お前たちの目的は俺の首では無いのか!? 俺を翻弄するほどの実力を持ってんなら最初からそうすればいいじゃねえか!」
「違う違う~コレは『目的』ではない『手段』だよ」
「は・・・?」
「な? お前が今日の深夜に秘密警察との話し合いの場を設けてくれるだけで万事解決なのよ?」
ニシキは意地悪な笑みを浮かべて、葉巻に火を灯した。懐から一つの文章を取りだしてソレをマースイに見せるや否や、マースイは態度を一変して地に伏してニシキの提案を受け入れる旨を伝えてこの事は内密にとヒスイを取り戻して両者は場を後にした。
うん




