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カラフル軍記  作者: ノイズa.k.a.天谷川
蕉海ウォー・タイプ海賊団編
20/65

二十話

男はトラブルを起こす。そして女はトラブルその物だ。

 「ダイダルさんっ! 突っ込んできます!」

 「ん? 船が?」

 「違います!」

 「じゃあ何!?」

 「ハイ――」

 


 シャチが報告し終える前に軍艦の甲板で砲台の装填をしていた海兵が数十人纏めてぶっ飛ばされた。突撃してきたハイルイの猛攻に成す術なく海兵たちは宙を舞う埃の様に吹き飛ばされた。いきなり敵の大将の侵入を許した甲板の雑踏にどよめきが起こる、いくら海賊相手に百戦錬磨の海軍の精鋭たちでも世界最強の海賊を眼前にして尻ごみを禁じ得な無かった。ハイルイは槍を杖代わりに立ち上がりダイダルの方を向いて言い放った。


 「いやぁ脆い船だねえ海軍きみたち

 「・・・ハイルイ・・・」



 憎たらしい笑みのハイルイにダイダルは無言で睨み返す。言わずもがな甲板は二人の独壇場になったのを周りは察した。互いの大将が無言で語らう様子に横やりを入れようなんて無粋な輩はいない。ダイダルはハイルイの事をどう絡め取ってやろうか、ハイルイはダイダルをどうぶちのめしてやろうかと嬉々として考えていた。



 「シャチちゃん。怪我人の保護と指揮をお願い。海賊ハイルイの相手は僕がしよう」

 「え!? あ、はい!」



 そうダイダルは副官のシャチに促して海兵に戦闘に集中するように促した。シャチは『ハイルイ』という単語にいまいち理解を示していなかったが即刻行動に移った。敵の大将が自分たちの陣地に居るのにダイダル全員が見向きもしないという奇妙な時間は始まった。



 「久しぶりだな海賊、今日こそ海の藻屑にしてやろう」

 「黙らっしゃい首輪に繋がれた役人イヌめ。ただの喧嘩に時間をかけるつもりはないぞ?」



 ハイルイの三白眼とダイダルの海賊と間違われるほどの鋭い眼のぶつかり合い、二人は物理的にぶつかり合った。




 「さぁてウォー・タイプもといハイルイ君は僕の策略を気に行ってくれるかな?」、と神虎シェン・フーは扇子を仰ぎながら呟く。言わずもがな神虎がダイダルに授けたのはウォー・タイプ連合と橙連邦の仲違いを図る離間の計である事は言うまでも無い。トウカン達に海賊をもてなさせといて出港すると帝国うちの海軍部隊が伏しており当然海賊どもは橙連邦と青の帝国が密かに通じており自分たちを陥れたと疑い同盟は破綻・・・それが神虎の目的だった。ハイルイも馬鹿では無いので策には気付きこそすれ一度生じた疑いは中々張れる事はない、雑草の根の様にしぶとく残るものである、この事を神虎は長年の軍師経験で培ってきた経験から深く周知だった。



 「ふふっ。やっぱり僕って意地悪なのかな? ツァオはそうでもないって言うけど・・・」



 今現在神虎が滞在しているのは両軍の戦場から数理離れた海上で、そこに碇泊している軍艦の個室であった。連日連夜ダイダルを呼び出しては作戦会議を繰り返し今日実行に移した作戦が上手くいくか・・・なんて事は最初はなから心配の範囲外であったが同僚の個々の事情を把握している十人の大将軍二番手の神虎にとって心配だったのはむしろ他の事柄だった。




 ダイダルとハイルイの間には他の者には相入れられぬ物が存在する事を知るのは限りなく少ない。もしかするとダイダルが敵に情けをかける事も考慮して今回の作戦に参加させる事を躊躇ったが悩める神虎にツァオの一声が決心に至らせた。『戦わせてやれよ、アイツ自身壁を乗り越えなきゃ進めない節もあるだろ』との鶴の一声がダイダルを任地へ赴かせたのだった。




 「何合打ちあった・・・!?」

 「さぁ、僕は嫁と違って計算が苦手なんだ」


 開戦して十余分。不安定な足場で曲芸のような動きで戦いを繰り広げる両名に疲労の色はまだ見えない。小手調べにと数合程海刀鯨芙と槍はぶつかり合った。本体と使い手にダメージは皆無だった、被害を受けているには寧ろ周りの軍艦や、海兵、海賊達だった。二人の戦いによって生じた波によって元々不安定だった足場はさらに不安定な物となり戦闘を展開していた各々の部下はバランスを崩してこけたりする。的を外した攻撃が軍艦や海賊船に穴をあけて使用不能になる、など二人の戦いによる被害と比べたら暴風雨などの災害が可愛く見えて来る両軍だった。



 素人目には振り回しているようにしか見えないダイダルとハイルイの戦いだったが実にコンマ単位での先読みと先取りが幾度も繰り返されていた。間合いで言えば槍を使うハイルイの方が有利であるが足場が安定しない甲板の上ではやはり片手で扱える海刀鯨芙サーベルが有利に物を言わせた。そして百八十九センチのハイルイと二百十五センチのダイダルとでは手足の長さがまるで違い槍特有のリーチの長さをじわじわと補っていた。久しく相まみえた強敵に両者の武者震いは止まらない。



 「腕を上げたなダイダル。事務仕事は相変わらず嫌いかっ?」

 「かく言うハイルイ、お前は掃除ばかりで腕が鈍ったと見えるな? 僕をからかっているのかい?」

 「ほざけっ。まだ全力では無いだけだ」

 「言い訳は上手になったようだ。そろそろ沈めてやる」

 「こちらの台詞セリフだ。俺が沈められたら可愛い部下が悲しむだろうが」

 「部下が可愛いのは僕も同じだ、全てを背負っているんだ」



 振り下ろされた海刀鯨芙が空を切って飛びかかる、難なく避けたハイルイの突きもあえなく捌かれて空振りに終わる。実力は拮抗している、互いの決定打は仲間である、彼らの命を背負っているからこそどんな強敵にも立ち向かい恐れずに戦える、これは互いに等しく所有していた。次に使命感、ダイダルは六将として、海軍司令長官として青の帝国を死守すると言う使命を、ハイルイには困窮する世の中を改革する連合軍として戦う使命を背負っていた、これも二人とも胸の内に宿していた。



 「如何に義理人情が売りの海賊おまえらでも所詮は社会の癌だろうが! 手前らがのさばっているだけでどれだけの悲しみが生まれると思っている!」

 「じゃあ青の帝国はどうだ!? 二十年前のクーデターの余波で地方への統治力が弱まったせいで賊が数多く生まれてその内の一つに俺の親父は殺された! それをお前たちは実力行使で有耶無耶にして傀儡の皇帝を据えて我が物顔で帝国を歩いてるってか!? 人の事を言えた義理か!」

 「誰かが正すべきだった! それをツァオの父親が行い今現在ツァオ本人が青の帝国を守っている! 人々がようやく手に入れた平安をお前たち賊が蝕んでいるんだ!」



 ただの力任せな二人の一撃が交わり合い、パッと水面の波紋の如く衝撃波が発せられて辺り周囲一帯を震わせた。並の兵士はコレに耐えられずに吹き飛ばされた。



 「ふううぅぅぅ・・・! お前は相変わらずだ、自分の道を行っている」

 「僕は一度も道を反れた覚えはない、この顔の様に傷を負っても戦い続けるのも、強くなったのも、海兵になったのも全ては世の安心の為にだ!」

 「よく言うぜ・・・いや良く言ったか? お前は―――」



 ハイルイは溜めて言い放った。



 「お前は所詮ッ! 元海賊の魂を背負い続けるんだよ! 十四代目ウォー・タイプ海賊団戦闘員ダイダルッッ!!」

 「ッ・・・・・・!」



跳躍したハイルイの投げやりな攻撃はダイダルの左肩を貫いた。元海賊と言う言葉に怯んだ海兵は不覚を取り重傷を負った。だらだらと鮮血が溢れて辺りの海が朱に染まった。ようやく攻撃を加えられたハイルイは気の抜けたようにその場に胡坐を掻いて倒れたダイダルに語りかけた。



 「この名前で呼ぶのはもっと久しぶりだな、ダイちゃん」

 「そのあだ名は・・・ヤメろや・・・二十年前のだぞ、おい・・・!」

 「年取ったなぁー、今年三十三だぜ?」

 「掃除しか能の無かったチビが今じゃ世界最強の海賊やっているとはな・・・方や僕は海軍司令長官・・・何があるか分からんなぁ・・・特に今みたいに肩を槍で刺されるとかさ・・・」

 「俺は相変わらず世の中の嫌われ者やってる。あの時お前と離れ離れになったから海賊に専念したわ」

 「本っ当・・・僕が海兵になったのは・・・本当はハイルイ・・・お前を助ける為だったんだぞ・・・?」

 「でしょうな」

 「同じく・・・海賊被害で家族を失った身の上どうしで仲良くなってさ・・・でも俺は嵐の日に海へ頬り出されて・・・海軍に保護されてそれ以降は海兵になった・・・」

 「いやぁー二十歳の時だったか? とある町で海賊と海軍で互いに出世した姿で出会ったときは」

 「驚いたよ・・・お前を助ける為に頑張ってたのに・・・僕は絶望したね・・・」



 二人の会話は先ほどまで本気の殺し合いをしていたとは思えない様な、昨日も出会って語り合い、今日再び再開した親友の様な温かさを含んだ会話だった。


 

 「世が世ならこんな殺し合いの後に会話することも無かったのかもな」

 「僕だって思うさ・・・・・・嫁にも友達として紹介してさ・・・酒でも飲みたいね・・・」

 「あぁ結婚してたなお前。少し前に風の噂で聞いた時は驚いたぞ? 『海の天災』に嫁が出来たなんて聞いて海賊達は混乱だったぞ?」

 「そりゃあどうも・・・可愛いぞッ・・・! 僕の自慢の嫁は・・・」 

 「フフッお前も丸くなったもんだ」



 などと会話をしていると海兵の一人が大将の負傷に気付き騒ぎ初めて何だ何だと続々海兵が集合してこちらを向いて何やら大声で騒いでいる。どうやら雑談は此処までだと察したハイルイは最後の言葉をかける。



 「お前の部下が何か騒がしいな。じゃあもう行く」

 「勝ち逃げはズルイな・・・おい・・・!」

 「そのまま死ななきゃいつかまた会うだろ? 次は本気の殺し合いだ」

 「ふん・・・」


 胡坐を崩して立ち上がるハイルイ。相変わらず出血多量で立ち上がる事もままならないダイダルの槍を抜き取って味方を合流すべく戻ろうとする去り際に―――



 「そうそう、これも風の噂だけどさ・・・」

 「あ・・・?」

 「メルさん? だっけお前の嫁。メルさん御懐妊だってな?」

 「あぁー・・・」


 

 この瀕死の重傷を負った危機にダイダルは危機感を微塵も感じさせない笑顔を見せた。二人の持つ決定打の中でダイダルにあってハイルイに無かった物、すなわち家族である。戦争の後に家に帰って温かく出迎えてくれる存在をダイダルは既に得ていたのだった。嫁の話を引き合いに出されて口もののニヤ付くダイダルは最後の気力を振り絞って答えてから意識を失った。その言葉は―――



 「あぁ、妊娠六カ月。男の子だぞ」





十人の大将軍六番手・ダイダル(33)

 215センチ

 119キログラム

(VC・KENN)

 好きな物・船、部下、釣り

 好きな食べ物・メルの手料理全般

  A型



 十人の大将軍の六番手兼青の帝国海軍司令長官。顔の右半分に傷を負った大男。海賊に間違われる見た目に反して性格や声は意外と爽やかで人付き合いが良い。幼い頃に家族を失い十四代目ウォー・タイプ海賊団に乗っておりハイルイと知り合い親友の間柄になり海賊として活動していたがある時船が嵐に襲われて遭難して行方不明になると海軍に保護されて海兵になる。他でもないハイルイを助ける為に鍛錬を重ねていたがハイルイは完全にカタギには戻れない立場となっており仲違して絶望の淵に沈んでいる時に現在の嫁と出会いお互いに惹かれ合うがままに結婚に至った。かなりの愛妻家で仕事も定時に上がり妻との時間を確保したいが為にスケジュール管理が得意。腕相撲は十将内で三番目に強い。戸籍を青の帝国に移しているが実際は領内中東の漁村出身。




いいですよねーダイダルさん。奥さんは後々登場します

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