表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カラフル軍記  作者: ノイズa.k.a.天谷川
秘密警察『B3』編
16/65

十六話

 鬱い

 「ちょっとぉ~! 痛いじゃない! 女の子には優しくしなさいって教わらなかったの!?」

 「俺は優しいぞ? 敵と見なしたら話は別だけれども・・・」

 「もぉ~・・・あの小さい子をボコボコにしたくて待っていたのに・・・」

 

 残念そうにシズカはため息交じりに呟く。一見してフールとシズカのダメージは五分と五部と言ったところである。何故チタンと因縁のあるシズカがフールと戦っているのかと言えばドグマと分かれて後に二人は建物内で二手に分かれてランを探す事に決めたのである。チタンは右に、フールは左へ、そしたらフールにの進んだ道には三人衆の一人であるシズカが待ち構えていたのだった。同僚ドグマの真似をして『チタンと戦いたかったら俺を倒してみな』と言ってみたは良いが自分の得物である長槍断海崩山号が狭い室内では思うように扱えずにどうしても身軽な敵に有利な状況を譲って攻撃を許してしまう。鍛えた筋肉の鎧と驚異的タフネスを誇る体力はそろそろ悲鳴を上げ始めていた。達人相手にコレ以上好きにさせてはやられるのはコッチである。


 「も~う! いい加減にしなさいよ! あんたもうボロボロじゃないの! 退きなさいよ、私があの小さい人狼をボコるんだからさ!」 

 「お前も十分小さいだろうが・・・」

 「あっ、お前今地雷踏んだな!? 今地雷踏んだぞ! この野郎ッ! 過去に私と戦った相手の中でも特に私を小さいって言った奴ほど嫌な死に方してんだかんな!!」

 「済まないが死ぬ気はサラサラないんでね! 今度の休暇に可愛い妹との食事の予定があるんでね」

 「えぇー・・・うーんと・・・死ねぇ!」


 シズカは壁を蹴ってフールの首を狙い蹴りを繰り出す。フールは右腕でガードして槍を突き出すもコレもかわされて距離を置かれる。右腕が痺れている、やはり狭い廊下では十分に実力を発揮出来ないが広い場所に移動しようにもこちらの考えを読まれているのかソレをさせまいとシズカは妨害して来る。すりむいた頬を撫でながらフールは考える、ドグマが負ける事は考えられないが自分よりもさらに大きい者が来てもこの廊下では今じょ状況をひっくり返すのは無理だろう。引いてだめならば押してみなという言葉が過ぎったのでそうする。

 


「おいチビ。口だけじゃねえってんならかかってこいや」

 


フールは槍を床に突き刺して手招きする。完成度の話としては格闘技に劣るものの十歳の頃からストリートチルドレンの抗争の中で磨いた喧嘩術と己の肉体に頼る作戦に出た。


 

 「あぁあ・・・!? 私を舐め腐らない方がいいよ・・・!」

 


一瞬にして純真無垢っぽかった少女の顔が残忍な殺人鬼の様な顔に豹変した。怒りに任せただけと思わしき突進をして来る。肉弾戦なら自分に少し利があると踏み込んだフールはシズカに踏み台にされてシャイニングウィザードを噛まされる。


 「アンタ・・・言いきった割には大したことないわね・・・」

 「へっ! 俺のスラム街で鍛えた喧嘩術はこんなもんじゃにゃい―――」

 「ぷっ・・・」


 シャイニングウィザードを噛まされて歯がグラついたのか呂律が回らずに支離滅裂な発音になる。殺し合いをしていた相手に嘲笑をされて流石のフールも赤面してヘタレ込みその場に顔を覆いしゃがんでしまう。何時の訓練だったか、恐らく士官学校からスカウトされて入隊したばかりの頃の話、ニシキに『お前って本番に弱いな』って言われた事を思い出した。傷だらけの巨漢が赤面してヘタレている姿なんて滅多に見られないとシズカもシズカで感心して眺めていた。


 「ひと思いに殺してくれ・・・」

 「お望み通り」


 シズカはつかつかと歩み寄り断海崩山号を引き抜きフールに突き立てるべく構える。狙いを定めて一気に刺しにかかると―――


 「よっしゃあ! 間合いだ!」

 「はぁ!?」


 突然回復したかのようにフールが飛び起きて全力右拳をシズカの顔面に叩きこんだ。確かな手ごたえと、先ほどまで愚弄され続けた恨みを晴らした爽快感を感じながら思いっきり振り切るとシズカは物理法則を無視して十五メートル先の廊下の曲がり角に凄まじい音を立てて激突する。人の枠を超えた握力と洗練された技術から繰り出されたパンチを受けて再起不能にならなかった者はチタンを含めて五人もいない。


 「うわーグロテスクだなぁ・・・卑怯なんて言うまいな」


 壁に飛散したシズカの鮮血と本人の無残な姿を見てフールは呟く。いくら軍人でも女相手に手加減する性格と甘く踏み込んだシズカの失策である。そもそも自分の受けた命に従いどんな形であれ殺すつもりだったのだが。



 フールは獲物を回収して次へ進もうかとした時―――ツンツンと肩を叩かれた。振り返りそこにいたのは他称性別不明の同僚チープだった。本来戦場に赴く事無い科学者がこの場にいると言う事は隊長から命令を受けて来たのかと思われる。背中に背負っている専用武器の毒霧ポイズン・コールが物々しさを語っていた。


 「え、なんで此処にいるの?」

 「・・・鬼畜」

 「いや勝つ為の立派な策だし」

 「・・・・・・下衆」

 「いやいや俺だって間際まで気は引けたよ?」

 「・・・・・・・・・変態」

 「もうさっきの戦い関係ないじゃん!?」

 「チタンは何処にいるの・・・? 私隊長に言われて来たんだけど」

 「じゃあ来た道を戻って右の道を行くんだな。二手に分かれたんだ」

 「・・・」

 「ん?」

 「歩くの疲れた・・・!」

 「おい!」



 調度先ほどの自分の様にその場にしゃがみ込んだチープは淡々と語る。


 「ドグマが敵にボコボコにやられて・・・歩くの疲れたし・・・毒霧ポイズン・コールは重たいし・・・」

 「俺の方が疲労は溜まってますよーチープ君?」



 眼鏡を拭きながら弱々しく、生まれたての子午の如く立ち上がるチープのスーツの襟を掴み立たせるとフールは照れながら言う。


 「ったくよ・・・ほらタンクの方持ってやっから・・・」

 「え」


 やや強引に毒霧ポイズン・コールの毒ガスが充填されているタンクを持ち自分が背負う。ライフルと似た形に改造された本体にも予備の毒ガスのマガジンが装てんされているのでタンク無しでも十分に戦える。チープはフールを見降ろしながらに言った。


 「ドグマに言ってほしかった・・・」

 「そこはありがとうだろうが! 悪かったなッ! ドグマじゃなくって!」

 「全くだよ」

 「てかこんな展開はフィアーの仕事だろ・・・」

 「よし一緒に行こうか」


 自分が身軽になったのを良い事に軽快なステップで廊下を進むチープ、重たい歩調でどんよりしながら歩くフール。まだまだ戦いは続く。






 廊下の分かれ道でフールと別れてからと言うモノ。途中でちょくちょく敵と交戦しながらチタンは走り続けている。五分は走っているがランが捕えられていると思わしき部屋には辿りつかない。ここで先ほどと同じような分かれ道にぶち当たった。五メートル前に右へ通じる道が、十メートル先には左に通じる道がある。



 「さっきは右に進んだから・・・」


 じゃあ左に行こうと走り出すと。


 「え」


 いきなり一歩踏み出した直後に何かが前方で壁にぶつかって飛び散る音がした。肉片の様な何かがビチャビチャと汁気のある音が暫く響いた後に誰かの影が出てくる。その姿にチタンは思わず安堵と驚嘆の声を漏らす。


 「先輩!」

 「ん? チタン? チタンか!」

 「そうです! ってチープ先輩も!」

 「フールもう疲れた。おんぶ」

 「てめーはもう少しガッツを覚えろ! それと身長差! お前の方が三センチ高いだろ!」


 急に『B3』の日常風景が始まったのもつかの間、チタンは何故ここにチープが居るのかと尋ねる。


 「なんでチープ先輩が此処に・・・」

 「ニシキ隊長の命令で参上した」


 ピースサインで答えるチープの目的は分かりかねるが味方がいる事が頼もしい事に違いはなかった。チタンはドグマのその後をチープの口から聞いて武者ぶるいに見舞われた。そんな壮絶な戦いを演じた猛者にも劣らぬ働きをしたいと覚悟を新たに三人で歩き始める。


 「ところでフール先輩。アレは何なんですか?」

 「気にするな! さぁランを助けよう!」

 「・・・」

 

 笑顔でごまかすフールの冷や汗をチタンとチープは見逃さなかった。





 「はぁはぁ・・・ベンケイとシズカは上手くやってくれただろうな・・・?」

 

 ホウスウは拷問部屋を出てから自分の寝室を目指して捕虜ラン連れて歩いていた。元々二点が離れている事もあるが歩みの遅い手負いのランを引っ提げている事が歩みを盛大に遅らせていた。自分をワザと逆上させて周りに気を向かわせなくしていた過去を鑑みるにコレもわざとやられているのではとさえ思う。

 

 「くそっ・・・此処までか?」


 一か月前に先代オシドリが秘密警察『B3』に殺されてから全てが下降線だった。傘下の山賊団は離反してゆき、領地や収入は減るばかりでかつては五百人いた一味は今や百人足らずの少数になってしまった。しかしその手下たちもこの捕虜の仲間に応戦している事でさらに数を減らしているだろう。



目の前には絶望の文字しか見えない。寝室の隠し通路を使えば何とか逃げ切れるだろう。これで部下も何もかもを失う事になるとすれば今自分の集中にあるのはこの役割を果たす事の無かった捕虜だけである。そんな風に考えていると何か凄まじいい音が遠くでした。これが交戦によるものである事は間違いないようだ。

 



ランは仲間を信じて待ち続けていたがようやくこの時が来たと内心沸いていた。三人衆は誰ぞが相手をして蹴散らしてくれるだろう。あとは自分が仲間が到着するまでどれだけの時間を稼げるかが勝負の合別れ目だった。ホウスウが隠し通路に辿りつけば山賊討伐の作戦は成功しても秘密警察なかまたちの目的は果たせないのだ、逆にそれまでに仲間の誰かが自分と出会えれば完全勝利である。そしてその思いは出会いと言う形で成就することとなる、歩き続ける自分たちの遥か後方から―――



 「―――――――・・・い!!」



 掠れていたが、その声に確かな聞きおぼえがあった。この良く通るテノールヴォイスは確かに後輩チタンのものだった。



 「っ! まさか追手が此処にまで・・・」

 「チタン・・・?」

 「せん―――・・・い!!」


 

 その声はさっき歩いてきた曲がり廊下から木霊しているらしい。声色は段々と現実味と大きさを満たしてゆく。



 「先輩ッッ!!」



 遂に後輩チタンが姿を見せた。何処か逞しく見えたのは気のせいなのかは分からない。二十五メートルほど離れているが耳元で話しかけられているような大声でチタンは叫ぶ。



 「秘密警察『B3』チタンッッ!! 先輩の事をッ助けに参上いたしましたッッ!!」

 「人狼屋テメェ! どう頑張ってもアジトの入り口から此処まで三十分はかかるぞ! どうやって・・・」

 「俺は五十メートル走が五秒台なんだよっ!」



 全身に傷を負っているようだ。だが自分を助けてくれるためだけに傷つく事を厭わずに此処まで来てくれた後輩の雄姿にランは素直に嬉しさを感じた。ホウスウを振り切ってランは返した。


 「チタンッ!」

 「先輩っ!」



 思い通りにはさせまいとホウスウに取り押さえられるランだったがあらん限りの声で叫んだ。


 

 「先輩命令だっ!! コイツをぶっ飛ばせッ!!」

 「ハイッ!!」


 チタンは陣風を抜刀して突進するのではなくその場にしゃがみ込み右足を後ろに下げて両手を地面につき陸上で言うクラウチングスタートの構えを取る。スタートダッシュを決める右足に力を溜めるのに三秒間、幾数もの血管が浮き出たのがスタートの合図である。床を大きく凹ませてチタンは走るを通り越して飛んでいた。一歩目スタートダッシュで二十五メートル中十メートルはこれで縮めた。二歩目で五メートルの跳躍、三歩目で五メートルの跳躍、そして最後の四歩目の五メートルの跳躍でチタンは得意のドロップキックの構えを空中で取り勢いに任せてホウスウの顔面に叩きこんだ。ホウスウは吹き飛んだ。


 「っふぅぅぅぅ!」

 「チタン・・・」


 ホウスウをブレーキに着地した後輩に何か言葉をかけようとした。しかし自分の予想をはるかに上回る攻撃にランは見とれていた。チタンは間髪いれずに陣風でランの縄を切り取って自分の靴を差し出して言う。


 「すいません、予想よりも時間がかかってしまったようで。あっ靴、俺のですけど足怪我されているようですので」

 「あっ、有難う・・・」

 「それにしても良かった、あのスタートダッシュが上手く決まって。まだ一日一回しか出来ませんがこの時の為に何度も練習してきたんですよね」

 「少し・・・大きくなった?」

 「いやこんな短期間じゃ背は伸びませんよ」

 「あの時はすいませんでした。俺にもう少し実力があれば・・・」



 チタンは自分の実力不足が招いたこの事実を悔いる様にランに謝罪した。だがランは構わないと言う風に後輩の頭を撫でながら普段通りの屈託ない笑顔を見せて答えた。


 「大丈夫だよ。これも軍人の常だから。負けもあれば勝ちもある、いくら凡人よりも強い化け物を集めた秘密警察わたしたちでも人間だからね。じゃないとおかしいから」

 「でも助け出せて良かったです」

 「フールとかドグマは? 外なの?」

 「そうだ、フール先輩が今こちらに向かっています。ドグマ先輩とフィアー先輩が外で敵を食い止めてくれたお陰で今俺は此処にいます。本当くどいようですが・・・無事でよかったです」

 「そう・・・」



 二人の再会を祝す会話もつかの間チタンのドロップキックに吹き飛ばされたホウスウが立ち上がり武器を携えてこちらへ向かって来たのだ。コイツさえ討伐すりゃ全て一件落着なのだとチタンは陣風を構える。ホウスウは如何にも死に物狂いと言った形相で刀を振り回す、しかしこの上なく冷静なチタンには掠りもしない。それどころか手を出していないチタンが追い詰めているかのようにも見えた。もうお遊びはお終いだと言わんばかりにチタンは陣風で二太刀浴びせる。一つはホウスウの胴を右斜めに捉え、もう一つはホウスウの左腕を斬り落とした。



 「くっそぉ! 畜生がぁぁあああ!」


 武器も左腕も失ったホウスウが取った行動はもう一度ランを人質にとり形勢逆転を図るものだった。なりふり構わずにランに襲いかかるも、ランの素手での戦闘力の高さを十分に周知のチタンはそれ以上の追撃を止めた。ランの鋭いボディブローが決まる。


 

 「ゲハアぁああ・・・!?」

 「気持ちぃ! やっぱ一方的な暴力は宜しくないよね」


 右手をぷらぷらさせてランは言う。ホウスウはしゃがみ込んで苦痛の声を漏らす。このまま投降してくれれば最良、抵抗するならば曲がりなりにも一族の長である尊厳の為にも潔く散らせてやるか、ホウスウに残された選択肢は戦うでもなく投降か自刃のいずれかだった。


 「あら? その程度で倒れるなんて、鍛え方が足りないんじゃない?」

 「ぐっ・・・テメ―・・・何処にそんな力が・・・散々に嬲ってやったのによぉ・・・!!」

 「ごめんなさい、アンタの蹴りなんて隊長の訓練に比べたら蚊に刺された様な物なの」

 「そんな・・・・・・」

 「今だから言えるけど。痛がっていたの全部演技だからね?」

 「うっうううぅうう・・・!」

 「どうする? 私の足でも舐めるか? 今までの屈辱を注いでやるのも手だが」

 「せっ先輩・・・!(俺が舐めたい)」

 「嘘だよ」



 ホウスウの顔には苦痛よりも全て終わったと言う終わりを迎えた哀れな男と言った表情がにじみ出ていた。一筋の涙を浮かべてランに嘆願する。


 「分かった・・・投降するよ・・・ランさん、部下は助けてほしい・・・俺は縛り首でも何でもイイから・・・部下の命だけは・・・!!」

 「無理だ。もう総攻撃始まっているんだ、私の力じゃあどうにも出来ないし、私の仲間と戦っている部下はもう・・・」

 「そんな・・・これで死んだら親父に顔向けが・・・ううっ・・・」

 

 敗北を喫した男の姿は哀れの一言では言いようのない悲壮感があった。ホウスウはいよいよ大声を上げて涙を流す。その涙は部下を守れなかった自分の不甲斐なさから来るものか、あるいは全てを失った一人の男としての物か。チタンは思いやってみるが分かりそうにはなかった。


 「ッ・・・! もうひと思いに・・・頼むよ・・・人狼、その刀でよぉ・・・!」

 「・・・先輩」

 「そうしてやれよ。せめてもの慈悲だよ」

 「ハイ」



 チタンはホウスウの傍に立ちホウスウは首を前に出して最後の言葉を残したいと願い出る、ソレを拒む理由はない。ソレを聞き届けたランはチタンには目で合図を送る。なるべく苦しませないようにとチタンはあらん限りの力を込めて陣風を振り降ろした。肉が断ち切られる鈍く嫌な音が響いて血が吹き出る。ホウスウの首がまるでサッカーボールの様に無造作に縦横無尽に転がる。

 

 嫌な話だけれども、これは中世ヨーロッパでの話であるが。とある男性の犯罪者が捕まりギロチンの刑に処せられた、その罪状の中には倫理の枠を大きく外れた物もあるがその男には病気の妻子がおり家族の為に犯罪を働いていたとの話だがそれで罪は軽くなったりはしない。犯罪は犯罪であるのだから、しかしそんな男にある科学者が取引を持ちかけたのだ。科学者曰く『私は人が首と胴体が離れても生きられるものなのか調べたい、君が刑に処せられた後に私の質問に答えてくれたのなら君の家族の身柄を引き受けよう』と。家族の身を案ずる男はその取引に応じた。

 


 そして刑の執行日。科学者の立ち合いで男は首を落とされた。周囲の怪奇な目も介さずに科学者は首に問いかける。『意識は有りますか?』瞬きが一回、YESなら一回、NOならば二回瞬きをしてくれとの生前の約束であった。『痛いですか?』二回、『目は見えますか?』反応はない。男は死んだのだ。詰まる所人間は首を落とされると暫く立つと大量の出血により血圧が下がり脳の酸素供給が停止して脳死に至る。つまりその短い間ならば意識があるのだ。今まさに状態であるホウスウがどんな事を考えているのかは分からない、少なくとも楽しい事は考えられる精神状態ではないのだろうとは思える。コレから死に行く者の心持などいくら考えても分かる筈などが無かった。始めて人を殺した時の事をチタンは思い出していた。この何とも言えないジワジワとした嫌な感じである。先輩を痛めつけた憎き相手の筈が最後の最後に仲間を思いやった立派な最期に一種の称賛と敬意を送りたくなったチタンだった。この首は見せしめとして青の帝国の大通りにでも晒される事だろう、いくら人徳があろうとも所詮は罪人の身分である、変わらぬ定めである。


 

 胸のあたりに割り切れない嫌な思いが残っている中遅れて来たフールとチープが到着する、ランが事情を説明すると分かったとだけ一言いいランはチープから治療を受ける、怪我をした状態で長時間不衛生な場所に放置されていた事を思いやってのニシキの命令だった。フールはチタンに『良くやった』とだけ言ってくれた。





 「はぁはぁ・・・フールの野郎!! お陰で死にかけたぞコラぁあ!!」

 

 最後の一人を倒したフィアーが勝鬨よりも同僚に対する不満を大声にして叫んだ。殿を務める事三十分間。約百二十人を相手に善戦してフィアーは勝利した、しかし大鎌に刃零れは無い。その場で座禅の様な姿勢で座りこむその姿を見るものがあった。三人衆のヨシツネだった。ホウスウに任せろと言ったのは良いけれども仲間が全滅しちゃあ何も出来ないと逃げ出したは良いが何故か秘密警察と思わしき男が居座っていて通るに通れない、此処は一丁一か八か仕掛けてみようかと悩んでいたところを。

 

 「お前さん、ヨシツネだな」

 「は?」


 ヨシツネが最後に見た物は大柄なモヒカンの男だった。首を折られて派手に転げる。その音に血みどろののフィアーが気が付きこちらに向かって来る。

 

 「隊長!!」

 「よぉフィアー。御苦労」

 「何時からいらしていたんですか!?」

 「えっと十五分くらい前だからチタンがランを助けた所から」

 「ランは助かったのか・・・良かった、じゃなくてっ!! 俺その時絶賛交戦中でしたよ!? それを傍観してたんですか!?」

 「いやあー子供の喧嘩に親は口出しちゃいけないって言うじゃん?」

 「そんな・・・」

 「それはそうと・・・」

 「終わったんですね・・・」

 「おう」



 ニシキの指さす方向にはランを抱えたフールたちの姿があった。賊を殲滅して仲間を助けて全て一件落着、終わり良ければ全て良し、と行きたいニシキだったが作戦外の行動を起こしたとして三日後に始末書処分となりしばらく姿を見た隊員はいなかった。






 山賊討伐作戦から一週間、ランは軍付属の病院で治療を受けるべく入院をしていた。完全個室の超VIP扱いだった。時々訓練終わりの同僚が見舞いに来てくれるのが唯一の楽しみだったが今日は思わぬ来客があった。その来客とは―――


 「失礼するぞ?」

 

 ノックの後に入って来た人物は。


 

 「あっ! お姉ちゃん!!」

 「おっすラン。元気して・・・られる体ではないよな」

 「えっ仕事の方は大丈夫なの!?」

 「ジゥの奴に押し付けてきたよ。妹の見舞いだぞ? 他人に口出しさせないっての」



 ランがお姉ちゃんと呼ぶ人物こそ、青軍の実質的主力と言われる十将の七番手、現世界最強の狙撃手スナイパーの七将レイだった。艶やかな黒髪を後頭部でまとめたその姿は紛れも無くプライベートの姿だった。レイは椅子に座りランの額に手を当てて顔をこれでもかと言う距離にまで近づける。


 

 「元気そうだな。今度の仕事は大変だっただろうな、ゆっくり休め」

 「ありがと」

 「故郷から手紙が来てたよ。母さんやザーマクルスキーが心配してた」

 「それは分かるけどお姉ちゃん。顔近い」

 「キスさせろ」

 「嫌だ」

 「汚らわしい山賊に汚されたんだろ? わたしが消毒してやる」 

 「いーやーだ!」

 


 レイは渋々距離を置く。そして再び話しだす。


 

 「秘密警察の仕事は何かと工作員的な仕事も多いからな。お前みたいな容姿に優れた女軍人は格好の駒だからな」

 「それも覚悟の上で私は軍人やってるの」

 「ニシキの野郎・・・可愛い妹をこんな目に遭わせやがって・・・軍法会議にかけてやる・・・!」

 「この後隊長が見舞いに来てくれる予定なんだけど・・・」

 「何? 調度良いぶっ殺してやろう・・・」

 「お姉ちゃん!?」

 「冗談だって・・・」


 軍の主力が本気で暴れたら病院なんて軽く崩壊するのは目に見えていた。ランはこんな姉を持った事を複雑に思いながらも何かと可愛がってくれるレイの事を心の中では好いていた。レイは腕時計を見て急に立ち上がる



 「スマン。コレ以上此処にいたらジゥにマジでどやされる」

 「行くの? 今日は有難う」

 「良いって。何時でも来てやるよじゃあな」


 

 レイの唇がランの頬に触れてレイは去り際に『続きは病院以外のベッドの上でな』とだけ言い残して退室して行った。何時も通りの姉の奇行に驚きつつもランには笑みがこぼれる。女どうしに気が無い訳ではなく何気ない日常に戻れた事に対する喜びである。布団を目深にかぶり瞼を閉じる。少しづつ意識が遠くなって行き―――



 「ラン、起きろ。隊長様のお見舞いだぜ」

 「!」

 


 目を覚ますとニシキの顔がありランは驚きで跳ね起きる、自分は何時から寝ていたんだと疑問符がいくつか浮かんできたがそれに構っている暇はない。


 

 「たっ隊長・・・」

 「良く寝てたな。その分ならすぐ良くなるだろ」

 「有難うございます・・・」

 「今回の戦いでは特にお前に苦労をかけたな・・・」

 「いえ。隊長のレクチャーのお陰で上手く行けましたよ」

 「これでチタンは本当に使える人材だと言う事が証明された訳だが・・・更なるレヴェルupが望める男だよ、アイツ」

 「今回と言い大分振り回されましたね、チタン」

 「ふっ。山賊なんかに殺されるんならそこまでの男だろ。そしてあいつは今回俺の計画した実践テストに上手く合格して万々歳。捕虜役になってくれたお前には感謝しているさ」

 「私処女っぽく振る舞えていましたかね?」

 「さぁな、それこそあの世に聞いてみないと」



 今回チタンが活躍した作戦。その実態こそニシキが用意したチタンの真のテストであった。わざとランと偵察に行かせて捕虜にしてソレを助ける口実を与えて実力を推し量る。全てはニシキの思惑通りだった。ちなみにランの処女はニシキが預かった。



 「フフッ」

 「ん?」

 「でも私、隊長に抱かれちゃってもう他の男じゃ駄目かも知れません」

 「おいおい。若者おまえが俺なんか好きになってどうする。チタンなんかどうだ?」

 「考えてみますね❤」



 チタンはランの事が好きになっていた、しかしランの心は『B3』に入隊した頃から人知れず決まっていた。



 秘密警察『B3』編・完・








 オシドリ山賊団・頭領・ホウスウ(20)

 180センチ

  77キログラム

  B型

 (VC・諏訪部順一)

 特技・鉛筆をナイフで完璧な形で削れる



・先代頭領オシドリの一人息子。知的な父親とは対照的に猪突猛進な性格だが父親には無い謎の人徳があり動物に優しいタイプの青年だが暴力的な面が幼いころから目立ち周囲の頭を悩ませていた。大人になってからは山賊の腹頭領として活動しており父親が死ぬと家督を継ぎ一味を率いて奮闘するが経験が浅くその成果は微々たるものであった。母親は生まれた頃に無くなっており女性に対する接し方がいまいちわかっておらず暴力的奇行に出る事が多いので彼女いない歴年齢の男、童貞ではないが性に興味が無い。

 


 



 暑い

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ