十一話
早く寝て、早く起きる。遅く寝て遅く起きるのは出来ない不思議。健康って素晴らしい
戦場に置いて情報はどんな武器や精鋭の兵士よりも重要な役割を果たす。如何に敵より早く正確な情報を掴み作戦を立てる事が勝利に近づくのだ、その為戦線で情報収集を担う兵士は責任重大である。
「にしても一斉に山賊を叩くって思い切った作戦ですよね」
「こないだの作戦で山賊どもは疲弊しきったと踏んでの作戦じゃないの?」
秘密警察『B3』の狙撃手ラン、そしてつい先日入隊が決まったばかりのまだ補欠の期待の新人チタンは二人で隊を組んで敵地視察に訪れていた。隊長ニシキの命で隊は現在ニシキとフィアー、ドグマとフールの合計三チームに視察をしている、遂に決行が明後日の作戦に備えて最終的な地形の確認も兼ねている。
「でも狙撃手で余り動くイメージの無い先輩も地形の確認って、俺なんか腑に落ちないんですよね」
「まぁ・・・。念のためじゃない?」
ランの腰には護身用の拳銃が二長ぶら下がっている。恐らく上着の内ポケットにも忍ばせているだろう、ランの狙撃の腕前は一度見せてもらった訓練でしか見た事がない、その腕前は素人目に見ても凄いと分かるものだった。その内容は三十分間ライフルを撃ち続けて一度も動く的を外さなかったという物だ、本人談によるとここ一、二年間的を外していないと言う。近接戦闘に慣れ親しんでいるチタンにとって銃での戦闘など予想も出来ない未知の物だったが恐らく自分の予想しているよりも遥かにハードなのだろう。
「本番では私は後方で皆の援護狙撃をしているしまぁ敵に位置バレしたら移動しなきゃいけないし、必要な事だよね」
岩場を乗り越えながら二人の会話は続く、チタンは不意に沸いた疑問をぶつけた。
「先輩は・・・」
「んん?」
「先輩はなんで狙撃手になろうと?」
その問いに少し考えた様な様子で腰にぶら下げた銃を撫でながら答えた。
「んー、お姉ちゃんが同じ事やっていたから、かなぁ」
「お姉さんも軍人なんですか?」
「うん、レイってんだぁ」
「え」
ランのその一言でチタンは岩場のひんやりした静寂と一体化した。暫くして再開する。
「まさか、七将の・・・狙撃部隊長のレイ将軍・・・!?」
「そだよ、お姉ちゃんなの」
チタンが入隊してある程度経った時期、ニシキから青の帝国直属部隊、すなわち青軍の構図を説明された時にその頂点に立つ十人の将軍、通称『十将』のメンバーの名前を聞かされ暗記したその名前であった。直接見た経験はないがかなりの実力者と聞いている、その人が先輩の姉、初耳だった。
「えっ初耳ですよ! 先輩方誰一人そんな事言っていなかったし・・・」
「聞かれなかったもんね」
「意外でした、凄いですね・・・先輩って」
「うん、まぁ私のお母さんの再婚相手の連れ子だから血は繋がっていないんだけどね」
「・・・」
当たり障りない反応をしたはずが思いのほかへヴィな事を言われた。
「ファーストキスもお姉ちゃんに奪われたしなぁ・・・」
「・・・・・・」
「舌入れられたし」
「えっと・・・何か済みませんでした・・・」
「いや、大丈夫だよ? 気にしなくても?」
「ハハっ・・・」
それから二人は職務に専念した。いかなる事態も想定した緻密なシュミレーションを各自繰り返していざ帰ろうと言う時―――
「ねぇチタン。私ね、先輩としてこの三週間出来るだけソレっぽく接したつもりなの・・・」
「ハイ(あの間接キスもか・・・?)」
「それじゃあ、狙撃手の新人に見せてあげる」
「えっ―――」
刹那、それまで静寂をキープしていた辺りに乾いた音が木霊する。チタンはそれが銃声と気が付くまでに少し時間がかかった。音から察するにどうやら自分の後ろにある木を撃ったらしい。
「出てこい、私たちを囲ってんのは分かってるぞ」
今までの知っているランのホンワカとした透明感のある声とはうって変わって凄みのある、またドスの利いた声が出てきた。
「バレちゃあ仕方ねぇな」
まるでタイミングを見計らっていたかのように木陰から男が現れる、それにつられて十人、二十人と続々人影が増える。
「初めまして、秘密警察『B3』狙撃手のランさん」
「あら、私って以外に有名なのね」
「そりゃあもう、貴方にやられた仲間も沢山知ってるぜ?」
男とランの問答の隙間を突きチタンは尋ねる。
「先輩、この状況って・・・!」
「うん、ヤバいアレだ」
「おやおや? その隣は・・・」
チタンの存在に気付いた男は何かを思い出そうとしている、やがて思い出した様な仕草でチタンに話しかける。
「お前さん、人狼だろう?」
「っ!」
人狼、その名を知る者はここいらに住む山賊、あるいは青の帝国の警備隊、最後に自分の過去を知る先輩一同位である、チタンもランと同様自分の知名度が高いのかと思ったが。
「お前さん、オシドリの名を知っているだろう?」
「・・・あぁ、俺の最初で最後の共闘相手だが?」
「やっぱりなぁ、お前が俺の親父の最後の商売仲間ね・・・」
「おや、ハァ!?」
「そーう、俺が息子のホウスウだよ」
男の口ぶりからはあのオシドリの息子、と言う事になる。あのオシドリに息子がいた、驚くべき事実であるがどう見ても出会いを祝うムードでも無い。考えられるのは。
「調度いいや! 親父の仇打ちと『B3』の捕虜ゲットが同時に出来るなんてよォ!」
目的は予想どおり仇打ち、チタンにはイイ迷惑だが今はそんな悠長なことは言っていられない。
「チタン、すること分かってる?」
「勿論!」
チタンとランは背中合わせに構えた、陣風の鍔に親指を掛けて両者睨み合う。
「全軍っ突撃ィィっ!」
先に沈黙を破ったのはホウスウの方だった。合図を皮切りに二十人の部下が突撃して来る。二人で十人づつの計算だ。
「行くよ!」
「ハイ!」
チタンが走り出すのとほぼ同時にランが一発撃ち放った、調度スタートの合図だった、どうやら一人仕留めたらしい。チタンは一気に加速して一番近い敵に寄る。
「でやぁあああ!」
「がっ・・・」
ドグマから習い新しく覚えた居合切りでまずは一人。しかし後続の兵士が続々襲い来る。鍔迫り合いに発展してからも一定の速さで斬激を繰り出し続ける、訓練が功を奏して一撃で二人目を仕留める。ちなみにこの間ランが放った弾は五発、百発百中の逸話通りならば開戦後もう六人仕留めた事になる、自分も負けられぬとチタンも奮戦する。
「うーむ、やるじゃねぇか・・・」
思いのほか善戦をする敵にホウスウは親指の爪を噛む、そして何か思い出したような顔で声を張り上げて誰かを呼ぶ。
「オイっ! ベンケイっ! ヨシツネ! シズカ! 出番だぞ!」 そうして三人の名を呼ぶと―――
「おーまーたーせぇー!」
突然チタンの後頭部に激しい感覚が走る、バランスを崩しながらも後ろを振り向きながら陣風を振り払う。かわされたが相手の姿を捉える事は出来た。
「誰だよ!」
「初めまして、ホウスウさんの女、じゃないっ、オシドリ山賊団傭兵のシズカでーす!」
背丈はそんなにチタンとは変わらない小柄な少女だった、先日自分がオシドリ、ヘラジカと手を組んだように新たな仲間を得たらしい。
「シズカ、ね。怪我しねえ内に投降した方が良いんじゃね?」
「うるさーい! お前らなんて私たちがブッ殺すんだから!」
天真爛漫な見た目とは真逆な言葉が出てきたがチタンはぶれない、敵は同年代の少女でも躊躇うつもりは毛頭ない。躊躇なく切り捨てるだけだ。
「参る!」
「切り捨て御免・・・」
シズカは素手だった、武器を持っていないと言う事はそれだけ自分の格闘術に自信があると言う事だろう。間合いで袈裟斬りを仕掛ける。
「ふっ!」
「遅ーい」
あっさりとかわされる、一気に距離を置かれた。どうやら向こうが上手の様だ。先ほどの頭への攻撃が利いてきたのか頭痛が増してゆく。これまで自分が如何に鍛えてきたとはいえ頭ばかりは勉強以外で鍛えようがないのだ。
「行くぞぉ―――」
乾いた音が。
「え?」
シズカの右の太股に穿たれた赤い斑点が段々流血の量を増やして大きさを増してゆく。
「うっうわああああ! 痛い!」
弾丸を放ったのはランである。
「先輩!」
「チタン! 油断しないで!」
「せんぱっ―――」
「おい、他人の心配してる場合か?」
「がはあっ!」
チタンが返す前にランが何者かに攻撃されて吹き飛ばされた、向こうも劣勢らしい。多分あのシズカの仲間だろう。ドグマには劣るがかなりの大柄な男だ。男はランの首を掴みながら叫んだ。
「シズカ! さっさと殺してしまえ!」
ヤバい、初めてフールと戦った時に抱いたのと同じあの感覚だ。率直に生命の危機を感じ取る。ここでチタンは動揺してしまっが先輩としてランは冷静な判断を下した。
「チタンッ! 走れ! この事実を隊長達に伝えて!」
このままでは情報収集を任務とした自分たちはその目的を果たせないばかりか最悪殉職という末路を辿ってしまう、此処はどちらかが犠牲になる必要がある、虐殺される可能性も過ぎったがさっきホウスウは『捕虜』と言う言葉を使ったので初めからランの事を捕えるつもりだったのだろう。ここで先輩の自分が捕まり後輩を逃がす。一先ずこれで解決である。
「先輩! 今助けに―――」
「バカか! 走れって言ってんだろ!」
その一言にチタンは押された、先輩の覚悟の言葉に自分の使命を感じっとった風で血相を変えて陣風を収めて踵を返した。戦闘ならともかく走りならばこの場にチタンに敵う者はいない、あっという間に背中は小さくなる、その光景をランは満足げな顔で見届けて大男ベンケイに地面に叩きつけられて気絶した。
十将・憲兵団団長兼三将・リュウセイ(32)
(VC・石田彰)
180センチ
99キログラム
B型
好きな食べ物・辛いモノ
嫌いなモノ・甘いモノ
・憲兵団団長、右目が黄色、左が黄緑色のオッドアイの中二臭い男。ホモ説の絶えないゲイ。ツァオとは士官学校で知り合った。幼いころから女にしかモテず好みの男には振り向かれずに中々彼氏が出来ない。一時期ツァオに説明しきれない気持ちを抱いていたが今は新たな恋に邁進している。腕相撲は十将内では五番目に強い。
馬鹿でなきゃダメ、突き詰めれば馬鹿になれなきゃダメ




