⑤
部屋に帰ってベッドに寝転がりながら、ルカスは魔法学校時代の自分の姿を思い出していた。
ルカスが生まれた村は、辺境のさらに辺境にあった。基本は自給自足で、たまに来る旅商人から狩った獲物の肉や皮、育てた農作物を日用品と交換して暮らしていた。日の出とともに起き、日の入りとともに眠る生活だったため、灯りはろうそくの火のみで賄えていたのだ。
だから、魔術具など存在すら知らない村人が大半だった。
そんな村にたまたま訪れた教師に魔力検査を受けてみろと言われ、人よりもかなり豊富な魔力を持っていることが分かった。そのままその教師に誘われるまま魔法学校に入り、初めて「魔術具」というものを知った。初めて触れた瞬間のあの感動は、今でも鮮明に覚えている。
魔力コントロールが絶望的だったため、魔導士の道は早々に諦め、ルカスは魔術具に夢中になった。
術式論の講義はかなり難解で、本当に基礎の基礎部分だけなんとか覚えて、そこからはその基礎を組み合わせてどうにかつなぎ合わせることで、動く魔術具を作ることができた。魔力だけは豊富にあったたため、どんなに自分の作った回路が稚拙でも、起動には困ったことなどなかった。
術式論の講義中、皆が必死にノートに文字をとっている横で、自分はいつも難しい理論などわからないからと新しい魔術具のアイデアを考えることに夢中になっていた。そして定期試験や課題の際には、友人や教師に泣きついて助けてもらっていた。教師に情けをかけてもらってなんとか卒業し、工房に入ってからも、新しい魔術具アイデアは出せるが、難しい回路設計については全くできないため、実用化までのプロセスは仲間に頼っていた。ガワの部分に至っては精密な作業が不器用すぎて取り上げられてしまう始末。「お前、本当に魔法学校でたのか?」と呆れられても、自分では特に気にしていなかった。いや、むしろ「俺もそう思います。」と笑って誤魔化せば、なんとなくその場が丸く収まる――そんな風に、ずっと生きてきたのだ。
「・・・あ、そうか。」
立ち止まった道端で、ルカスは自分の両手を見つめた。
今の今まで、自分は「魔術具を作っていた」つもりでいた。けれどそれはただ、思いついたことを目に見えるものにしただけ。
「誰のためのものなのか」も、「どのように使ってほしいのか」も
――使う人の顔など、思い浮かべてもいなかったのだ。
「・・・俺、ずっと甘えていたんだ。」
ただ「魔力の豊富さ」に任せ、周囲が差し伸べてくれる手を当然のように享受し、作りたいものだけを押し付けていた自分。
魔法が当たりまえじゃないなんて、知っていたはずなのに。
エリアスがなぜあれほどまでに怒ったのか、ようやく合点がいった。あれは、エリアスが一生懸命積み上げてきた「技術」と「誇り」を、無遠慮に踏み荒らしたからだ。
ルカスは顔が焼けるような恥ずかしさを感じた。基礎もままならないまま、自分しか起動できないような魔術具を作って満足していた自分。ただ思い付きのままに、その考え付いた機能を動かすためだけの魔術でつくった道具。
自分は便利な魔術具だと思って作った誰の為にもならないこの鉄鍋が、あの少年の、ひたむきな職人としての矜持を真っ向から汚していたのだ。
「ゴミと言われて当然かぁ・・・。」
ルカスは何気なくエリアスに投げつけられた教科書を開いた。
そこには几帳面な文字でびっしりメモが書かれている。秀才と言われ、幼い頃からエリート街道を邁進している彼でもこんなに努力をしている。
「もういっかい基礎からやってみようかな。」
ルカスは起き上がり、机に向かった。
逃げてきた魔術ともう一度向き合うために。




