③
それから10日後。意気揚々とやってきたルカスは再び工房の門を叩いた。
先日同様にハインツに応接室に通され、そこの机にドンッと作ってきた魔術具を置いた。
それは一見すると無骨な鉄の塊のようだった。大柄なルカスが両手で抱えるくらいの丸い塊。
恐らくエリアスでは持ち上げることすら出来なさそうだ。
「……何だ、このゴミは。どこで拾ってきた。」
エリアスが冷ややかな視線を投げると、ルカスはしょんぼりと肩を落としながらも、小さく反論した。
「ゴミじゃないですよぅ……。」
傍らに控えるハインツが「これはまた、随分と野性味あふれる造形ですねぇ」と肩をすくめて笑う。
エリアスは苛立たしげに腕を組み、鍋を顎でしゃくる。
「前置きはいい。……で、これなんの道具だ。どうやって使う。」
「あ、はい! これ、この中に材料を入れて魔力を流すと自動で最高に美味しい料理を作ってくれる鍋なんです! こうやって魔力を通したら、この通り!」
ルカスが自信満々に手をかざすと、鍋がゴゴゴっと耳障りな轟音を立てて起動した。
鍋が出していい音ではないが、確かに何らかの作用は働いているようだ。
フタを開けて中をのぞくと、確かに食材が切り刻まれ煮込まれ始めている。温度も調整されているようだ。
「・・・・・。」
エリアスは無言でその鍋の保護カバーを外し、魔術回路を確認した。
ピシっ。
彼の額に青筋が立つ音がハインツには聞こえた。
「なんだこの下手くそな回路は!」
本来ならば一つの魔術式内で完結するはずの「加熱」と「撹拌」を、わざわざ二つの独立した巨大回路で制御するあまりに稚拙な設計。魔術式の作用指示が何重にも重複し、動力を無駄に食い合う構造となってしまっていた。
「品性の欠片もないゴミ設計だな。これはまさしくゴミだ。」
あまりにも汚い設計にエリアスの毒が止まらない。「汚い、ひどすぎる。」と思いつく限りの罵詈雑言が口から洩れている。
「ご、ゴミじゃないです。」
もう一度反論するルカスの声は弱い。
「ゴミでなければ危険物だな。温度調整のために魔術式を組み、それとは別に熱検知の探知術式を置いて、さらに別系統で回転の動力を取るだと? おまけに使ってる古語も回りくどくて無駄に容量を食っている。お前、魔術式の基礎すら頭に入っていないのか? こんな非効率な回路、使い続ければ魔石への過負荷で回りの鉄ごと破裂するぞ。お前まさかクビになったというのは嘘で、この工房を爆破しに来たんじゃないだろうな。」
「ち、違いますよぅ。ちょっと変な音はしてますけどちゃんと動いてますし、試運転でもちゃんとおいしい料理は作れてました!」
衛兵を呼びかねないエリアスの勢いに、ルカスは慌てて弁解した。
しかし、その拙い弁解はエリアスの怒りの火に油を注いだだけだった。
「お前はお遊戯会でもしに来たのか!? こんな巨大で燃費が最悪な代物、誰が使うんだ! 学生が研究課題で作ったものの方がまだマシだ。初等部からやり直してこい!」
そうしてエリアスは有無を言わせずルカスを工房から叩き出し、扉を乱暴に閉めた。
あまりのエリアスの勢いに、しばらくされるがまま追い出され呆然と扉の外で立ち尽くすルカスに、エリアスは再び扉を少しだけ開け、その隙間から一冊の古い教科書を勢いよく投げつけた。
「……これでも見て勉強するんだな。二度とゴミを持ち込むな!」
ガチャン、と重い扉が閉ざされる。投げつけられた教科書は『魔術式論・初等部基礎』という表題だった。




