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「そこをなんとか!」
「いや、困ります。長にどんな奴だろうと売り込みは受けるなと言われてるんで。」
工房の一番奥まった場所にあるエリアスの作業部屋にまで、困り果てた工房の作業員たちの声と、見知らぬ男の懇願が届いていた。
作業部屋で一緒にその声を聞いていた従者のハインツにエリアスは短く命じた。
「早く帰らせろ。うちは新規の弟子も、売り込みも受け付けていない。」
本当に興味がないようで、作業机から顔を上げる様子すらない。
ハインツは一度様子を確認しようと、作業部屋を出て工房の入り口へ視線を向けた。そこには泣きすがり、作業員を困らせているボサボサ頭の青年の姿がある。簡単に引き下がるようには見えなかった。
ハインツは少し悩んだ後、作業部屋の扉を叩きながら中へ声をかける。
「……坊ちゃん。少々、騒ぎが大きくなっております。」
「聞こえなかったのか? 帰らせろと言ったんだ。」
エリアスから返ってくるのはつれない返答のみだ。きっと設計図から目線を上もしていないだろう。
ハインツは元々細い目をさらに細め、ふたたび入口へと意識を向けた。
困り果てた作業員たちが、限界という顔でハインツを見る。ハインツは肩をすくめると、もう一度作業部屋の扉を叩いた。
「まあまあ、そう仰らずに。あれほど必死な姿、近所の手前もございますし、一度だけ適性を見てさしあげてはいかがでしょう? それで見込みがなければ、きれいさっぱり追い返せばいいのですから。」
ハインツのとりなしに、エリアスはようやくペンを置いて、深く大きく溜息をついた。
「……はぁ。わかった。5分だけだ。」
折れたエリアスに作業員たちはほっと息をついて、ハインツに無言で感謝の礼をとった。
ハインツはそれに頷きで返し、戸惑う青年を促し、応接室へと通した。
「どうぞ、こちらへ。エリアス様を呼んでまいります。」
「あ、はい。あ、ありがとうございます。」
先ほどの勢いはどこへやら。立派なソファに座らされ、青年は身の置き場がないようにその大きな身体を縮こまらせた。
バンっ!
エリアスが扉を蹴やぶるように入り、対面のソファへ乱暴に座った。
続くハインツがやれやれといった表情で扉を閉め、続いて二人にお茶を出す。
「それで、お前は誰だ。何しにここに来た。」
「あ、お、おれ、ルカスって言います。半年前に王立魔法学校を卒業して、こことは別の、王都のはずれにある魔術工房に雇ってもらってたんですが、先日いきなりクビになってしまって・・・。ここで雇ってもらえないかと・・・。」
「ダメだ。帰れ。話がそれだけなら俺はもう戻る。」
しどろもどろになりながら、なんとか話し始めたルカスの要望を、エリアスは即座に却下した。
「そ、そんなぁ。もう田舎に帰るお金もないし、ここで雇ってもらえないと俺、路頭に迷っちゃうんです。」
「知らん。帰れ。」
「ざ、雑用でもいいので!俺、魔力だけは多いって言われてきたから、きっと何かの役に!」
「いらん!」
取り付く島もないエリアスと弱気な態度とは裏腹になかなか折れないルカス。
このままでは埒が明かないと、ハインツは主に対して耳打ちした。
「ここは一旦彼の技術を見せてもらってはいかがですか?あの王立魔法学校を卒業したというのであれば、魔術具製作の知識もあるのでは?現在魔術具の設計ができるのはエリアス様だけですし。」
工房自体が有名になり魔術具のガワを作る作業員は増えたが、中の魔術回路を含めた設計をする人間はまだエリアス一人のみで回していた。
作りたいものは山ほどある。ただ、手も頭も足りていない状況。
確かにハインツのいう通り人は必要ではある。彼が本当に魔法学校を卒業したのであれば。
クビになった理由は気になるが、試しにテストを受けさせてもいいかとエリアスは思い直した。
「仕方ない。どうしても雇ってほしいなら、自分の腕を見せてみろ。僕を納得させる魔術具を作れたら考えてやる。」
その言葉に、ルカスは、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「あ、ありがとうございます! 本当にありがとうございます!! 頑張って、絶対にエリアス様に認めてもらえるものを作ります!!」
彼は何度も頭を下げながら、大声で宣言した。エリアスはそんなルカスを冷ややかな目で見下ろし、「勝手にしろ」と吐き捨てて作業場へと戻っていった。




