第一章①
魔力はこの世界で空気の如く遍在するエネルギーだ。
時に魔石という鉱石に固められ、時に生き物の体内に備わった回路を通じて、それは火や風、水など便利な力へと姿を変える。
この世界では、複雑な古語(魔術語)を用いて魔力の作用を制御する技術体系が発展しており、その技術は魔術と呼ばれ、様々な形で利用されている。その中でも魔術具と言われる便利な道具は、魔術そのものの発展とともに開発が進み、今では貴族や商人だけでなく平民の日常の暮らしにも溶け込むようになった。
その魔術具の研究・開発分野において、名門と呼ばれる家があった。
フォン・ヴァルテンベルク子爵家である。
元は王都を拠点とした大規模な魔術具工房であったが、今から100年ほど前、初代当主であるガイウス・フォン・ヴァルテンベルクが、王都中で使われるようになった灯の魔術具を開発したことをきっかけに爵位を賜り子爵家となった。フォン・ヴァルテンベルク家は代々保有する魔力の質が高く、勤勉なものが多かったことから現代でも魔術具の第一線を走り続けている。
その名門フォン・ヴァルテンベルク家次男であるエリアスは、王立魔法学校を飛び級卒業した若き秀才として、社交界でも名の知れた存在だ。
ただ、エリアス本人は社交嫌いなため、次男であることをいいことに領地経営などは長男である兄に丸投げし工房に籠っていた。
学校を卒業してすぐ、当時まだ16歳であった彼は家業である魔術具工房の長に就任してから、それまでの高級魔術具に加え、平民でも手が出せる画期的な魔術具を次々と発表し工房の人気と売上を短期間で倍増させた。それから2年が経ち、18歳になった今では経営者としても手腕を振るっている。
そんな彼の工房が、にわかに騒がしくなったのはある日午後のことだった。




