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死獄ノ者  作者: マクラ・ノ・ソウシ
一章 無垢の器たち
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二話 白凪の布

ここ地獄に、まさしく地獄のような光景が広がっていた。

天に渦巻く白布は、その大きな身体をなびかせ地面へと叩きつけた。

途端に地面はえぐり取られ、破壊された建物が四方へ飛んでいく。


「じゃあ皆、お願いね」


ナインの言葉を合図に、部屋にいた全員が次々と窓から飛び立っていく。

すると白布もこちらに気づいたのか、今度はこちらに向け身体を振るってきた。

邪鬼はうまく身体へ飛び移り、天への道を走っていく。

今度は布の切れ端が突然、浮かんでいた自身の身体を裁ち、はらはらと布の欠片が舞う。

一体何を、そう思っていた邪鬼の考えはすぐさま覆される。

欠片は自我を持ったように動き始め、邪鬼の顔をかすめた。そこにはかまいたち現象に切り裂かれたかのような深い傷が残されていた。


「分身でこれとなると…まさか」


先程えぐり取られた地面をもう一度見下ろすと、そこも断面が凸凹(でこぼこ)ではなく綺麗に破壊された跡が残されていた。

その瞬間足場になっていた身体が揺れ、邪鬼を振り落とそうと激しく振り回す。

しかも先程の欠片が顔や腕を切りつけ、まるでノコギリで斬りつけられたように粗い傷と血が顔についていく。

ついには宙に投げ出され、落下の風圧に押し負けるがまま白布が邪鬼を捉える。

…それをすぐさま拾い上げたのは、先程の青髪の青年。背中からは鴉のような黒い翼が生えている。


「お前のこと正直始めっから馬鹿にしていたが今ので確信した…本当に特攻するやつがいるかアホ」


「初対面でそれって、人から嫌われるぞ」


戦いの最中にも関わらずお互いの皮肉がぶつかり合う。


「悪口なんて言ってても何もいいことない…うぉ!?」


急に邪鬼の視界は一回転し、一斉に体がひっくり返る。頬を風が撫で、景色は一瞬で変わっていく。移動により欠片さえも吹き飛び青年に傷はない。ジェットコースターのように視界が揺れながら、青年は近くの高いビルへと降り立った。


「…いきなり高速移動なんて、先に言ってくれ」


「しょうがねぇだろうが。避けろって言われて避けたら遅いんだぞ?」


いまだに空を支配する白布とその欠片。他の奴らも戦ってはいるが致命的な一打を与えることは誰も敵わない。邪鬼含むこの連中の致命的な欠点は、やはり協力ができないこと。今不器用ながらも相性がいい2人が状況を打破できる鍵になる。それは2人も理解していた。


「これで死んだら忘れるだけだ、名前だけ聞いておいてやる」


「そうだな、初対面の相手に名乗らないのも気が引ける」


両者は示し合わすように目を合わせ、名乗った。


「俺は邪鬼。そちらこそ死ぬなよ」


「俺は青鬼…それはこっちのセリフだ、邪鬼」


青鬼は邪鬼の手を掴むと、体を横抱きにして空へ舞い上がった。

次々襲い来る欠片を翼の動き一つで薙ぎ払い、吹き飛ばす。

地獄の空に一つの線を刻むように、黒い堕天使は上へ上へと昇っていく。


「…十分だ!邪鬼、飛ばすぞ」


刹那、青鬼は邪鬼を放し、その下へ回り込む。

まるでバレーのレシーブに似た腕の構えを見た邪鬼は、その手の先に足をのせた。

青鬼が勢いよく腕を振ると同時に、邪鬼は飛び上がる。

その高さはついに空の白布を越え、邪鬼は再びその身体へ降り立った。


足元から不気味な気配が立ち上り、常時寒気がする。

時折白布の間から風が吹き付け落ちそうになる。せっかく届けてくれた青鬼の努力を無駄にするわけにはいかないため必死で踏ん張って耐えた。

―すると、前方に強い光を放った赤い光弾があるのに気付いた。

それは近くで見ると黒さを持ったまるで琥珀のような球体。とぐろの中央にあるのがどうしても弱点に見えてしまう。予想するにここが致命的な一打になりえる。

邪鬼はナイフを逆手に持ち、大きく振り上げた勢いのまま球体へと突き刺した。


カキィーン……


金属音が耳に残るほどの、突き刺した物体の硬さ。何事かとよく見れば、いつの間にか白布が弱点を包み隠すように守っていた。固く結ばれた白布がほどけると、それは一斉に邪鬼へと斬りかかった。素早く襲いくるそれはだんだんと邪鬼を後退させ、とぐろの端へと追い込んでいく。

横薙ぎにふるわれた攻撃を咄嗟にナイフで受け止める―が、それは紙のようにいとも容易く切断されてゆき、白布が邪鬼の顔めがけて迫ってくる。


「…?」


目を閉じ、痛みを受け入れようとしていた邪鬼は不思議そうに目を開ける。

たった今、顔めがけて飛んできていた白布は眼前で動きを止めている。不思議な力にでも操られているかのように、白布さえも動かしたくも動かせなさそうな様子であった。


「―たった一人で突っ込んで死ぬとか、これ以上カッコ悪いことはありませんよ。邪鬼さん」


静かな声がした。反射的に声がしたほうを振り返る。

後ろには、細く黒光りする日本刀で白布を受け止めた酒呑童子の姿があった。原理はわからないが彼も空を飛び、こちらに気づき援護しに来たようだ。


「…助かった」


「言ってる暇はないですよ。早く中央へ!」


落ちそうになっていた体を起こし、中央へ走る。他の白布を酒呑童子が惹きつけてくれている間に。

だがあちらも黙ってはいない。束ねてあったすべての白布が解き放たれ、弧を描きながら邪鬼へと襲いくる。だが彼は動じなかった。向かってくる白布を飛び上がって避けると、そのまま下突きで全部を束ね上げた。身動きを取れなくなった白布を横目に邪鬼は中央へと向かい、その刃を再び突き立てた。



ぶわ、と風が髪を舞い上げ、その波動が地獄全体を覆う。

変化がなかった白布はしだいにぐずぐずと崩れ、灰となり空気へ帰していく。邪鬼の立つ足場も崩れ始め、ついには足を踏み外し落ち始めた。だがその体は横から青鬼に拾われる。


「…最後まで、助かった」


「不器用な奴だなお前、とにかく戻るぞ」


灰が降る中、黒き堕天使と鬼は天守へと向かっていった。

横抱きとはいわゆるお姫様抱っこです(需要どこ)

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