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婚約破棄で追放された悪役令嬢ですが、隣国で『魔道具ネット通販』を始めたら金貨スパチャが止まりません〜私を追い出した王国は経済崩壊しました〜  作者: はりねずみの肉球
第12章:世界経済のハッキングと「超巨大経済圏」の創世

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シーン4:【エピローグ】剣と魔法の終焉、そして『データ(星屑)』の玉座

帝都の夜風が、新世界本部のフラットな金属屋根(トタンの陸屋根)を心地よく撫でていく。

眼下に広がるロータスの池は、周囲に配置された竹編みの魔力ランプに照らされ、幻想的な幾何学模様を水面に揺らめかせていた。


私はミッドナイトブルーのドレスの裾を夜風に遊ばせながら、屋上の特設バルコニーから、光の海と化した帝都の街並みを見下ろしていた。


「……信じられない夜だ。街から、喧騒が消えた」


隣に立つガラン隊長が、眼下の景色を見つめたまま静かに呟いた。

かつて、帝都の夜といえば、酔っ払いの怒号や、馬車の車輪が石畳を軋ませる音、そして商人たちが小銭をじゃらじゃらと数える卑俗な音が響き渡るのが常だった。

しかし今、街を包んでいるのは、あの『432ヘルツ』の穏やかな魔力波長と、人々が手元の小型端末を操作する微かな電子音だけだ。


「喧騒が消えたのではないわ、ガラン隊長。すべてが『最適化』されたのよ」


私は手元のメインコンソール――全方位受注統括網『O.D.O.O』の管理者用インターフェースを指先で優雅になぞった。


たった今、セシリア商会の究極のスーパーアプリ『星屑の導き(セシリア・ポータル)』が、全世界で本稼働グランド・ローンチを迎えた。

帝国、旧アルフェン王国、南方大陸、そして西方教国。

身分証、手紙のやり取り、給与の受け取り、そして日々の買い物。あらゆる日常の行動が、この小さな端末一つに集約されたのだ。


「キュイッ!」

私の肩の上で、ウニが夜空に向かって得意げに鳴き声を上げた。


「……物理的な金貨のスパチャが降らなくなったのは、少し寂しい気もするがな」


背後の闇から、漆黒の軍服に身を包んだレオンハルト皇帝がゆっくりと歩み出てきた。

彼は、かつて私の倉庫で滝のように溢れ出していた黄金の間欠泉を懐かしむように、グラスのワインを揺らしている。


「あら、陛下。物理的な金貨なんて、重くてかさばるだけの時代遅れの遺物レガシーですよ」


私はフッ、と笑い、コンソールの画面を空中にホログラムとして投影した。


「見てください。この『光の河』を」


ホログラムの地球儀の上に、無数の青白い光の粒子が、まるで血液のように脈打ちながら世界中を駆け巡っている。

屋台での串焼き一本の決済から、南方の商人が発注する億単位のドロップシッピング契約まで。

世界中で行われている何千万という取引トランザクションのデータが、リアルタイムでこの屋上に集約されているのだ。


「金貨の雨は止みました。代わりに私は……世界中のすべての人々が、息をするように行う経済活動のすべてから、コンマ数パーセントの『手数料』を、永遠に、自動的に吸い上げ続ける巨大なパイプライン(インフラ)を手に入れたんです」


「……」


レオンハルトは、空中に浮かぶ莫大な『デジタル残高』の数字が、滝のような速度で増殖していく様を無言で見つめていた。

もはや、国家予算などという枠組みすら超越した、天文学的な数字。


「剣で世界を切り裂く時代は、今日、この瞬間をもって完全に終わりました。……これからの世界を支配するのは、武力でも魔法でもなく、圧倒的な『利便性システム』と『データ』です」


私は扇子をパチンと閉じ、夜空に向かって高らかに宣言した。


「人々は、自らの意志で私のシステムに依存し、喜んでデータを差し出し、私の商会が設定したルール(規約)の中で生きていく。……誰も血を流さず、誰もが幸せに消費活動を行う、完璧なエコシステム(経済圏)の完成です」


「……負けたよ、セシリア」


レオンハルトが、黄金の瞳を細め、心底からの敬意と呆れを込めて息を吐いた。


「俺は帝国の玉座に座っているが……この星の『真の玉座』に座っているのは、間違いなくお前だ。……世界経済を完全にハッキングした、史上最凶にして最も美しい悪役令嬢にな」


「皇帝陛下からの最大の賛辞、謹んでお受けいたしますわ」


私はミッドナイトブルーのドレスの裾をつまみ、この世界で最も優雅で、そして果てしなく傲慢なカーテシーを決めた。

ガラン隊長が、もはや神でも見るかのような目で深く頭を下げる。


「キュアアァァッ!」

ウニもまた、世界を統べる主人の横で、一丁前に胸を張って威嚇のポーズをとっていた。


見下ろす帝都の街には、商会の配送員たちが着る『赤い地に黄色い星』のユニフォームが、夜の帳の中でも誇らしげに駆け回っている。

物流の動脈と、データの静脈。

すべてが、私の掌の上で完璧なリズムを刻んでいる。


祖国を追放され、泥水をすすらされるはずだった私が、異世界の常識を現代ビジネスの論理で木っ端微塵に粉砕し、世界の頂点へと登り詰めた。


「さあ、明日はどんな新しい機能アップデートを実装して、この世界をもっと便利に、もっと私のものにしてやろうかしら?」


夜風に髪をなびかせながら、私の三日月型の笑みは、どこまでも深く、そして果てしなく強欲に、新世界の夜空へと溶け込んでいった。

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