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婚約破棄で追放された悪役令嬢ですが、隣国で『魔道具ネット通販』を始めたら金貨スパチャが止まりません〜私を追い出した王国は経済崩壊しました〜  作者: はりねずみの肉球
第12章:世界経済のハッキングと「超巨大経済圏」の創世

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シーン3:【エコシステムの完成】インドシナ風カフェと、赤き星の物流網、そして『BA』の採用面接

真新しい建材の香りと、挽きたての珈琲豆の芳醇な香りが混ざり合う。

帝都の郊外に堂々たる姿を現しつつあるセシリア商会の新世界本部グローバル・ヘッドクォーター。そのフラットなトタンの陸屋根の下、一階の広大なフロアには、すでに一部の施設が先行稼働していた。


「……素晴らしい。見事な空間設計だわ」


私はミッドナイトブルーのドレスの裾を揺らしながら、完成したばかりの社内併設カフェを見渡して満足げに頷いた。

ここはただの休憩所ではない。従業員と、VIP顧客を商会の敷地内に極限まで長く滞在リテンションさせるための、極上の罠だ。


内装のテーマは、西洋の優雅なフレンチコロニアル様式と、東方諸島の風土が完璧に融合した『インドシナ(インドキナ)スタイル』。

足元には幾何学模様の美しいレトロなタイルが敷き詰められ、アーチ状の窓からは、外に広がるロータスの池の水面がキラキラと光を反射している。ダークウォールナットの木製家具と、ラタンで編まれた椅子の素朴さが、空間に絶妙な温かみをもたらしていた。


「セシリア会頭! ご試食の準備が整いました!」


厨房から、コック帽を被った料理長が、湯気を立てる美しい皿を恭しく運んできた。


「本日のカフェの特別メニュー……南方大陸産の『竜のドラゴンフルーツ』をソースの隠し味に使った、極上の【ベジタリアン(精進)プレート】でございます」


皿の上には、肉や魚を一切使わず、新鮮な野菜と豆類、そして東方のスパイスだけで信じられないほどのコクと旨味を引き出した料理が美しく盛り付けられていた。


「ふむ……」

私は銀のフォークで一口すくい、ゆっくりと味わう。

「……美味しいわ。スパイスの香りが脳を覚醒させつつ、胃に全く負担がかからない。完璧ね」


「あ、ありがとうございます! しかし会頭、なぜ肉を出さないのですか? 重労働の従業員には、がっつりとした肉料理の方が喜ばれるかと……」


料理長が不思議そうに首を傾げる。私は口元をナプキンで拭い、フッ、と笑った。


「午後からの『生産性パフォーマンス』のためよ。重たい肉や脂っこい食事は、消化に膨大なエネルギーを使い、従業員に強烈な睡魔をもたらすわ。……この健康的なベジタリアン料理は、彼らの脳をクリアに保ち、夕方まで最高の効率で働かせるための『投資』なの」


すべては計算ずく。空間も、食事も、従業員の胃袋から健康状態まで、すべてを商会の利益を最大化するシステムに組み込んでいるのだ。


「キュプッ! シャクシャク……」

私の足元では、ウニがベジタリアンプレートに添えられた生野菜を、ものすごい勢いで平らげている。


「それにしても、窓からの眺めも壮観ですね、セシリア様」


私の背後に立つガラン隊長が、インドシナ風のアーチ窓から外の巨大な中庭――物流ターミナルのハブを指差した。

そこでは、何百台もの荷馬車と、商品を抱えて走り回る無数の配送員たちが、一糸乱れぬ動きで作業を行っている。


彼らが着ているのは、つい先日私がデザインを刷新した、商会公式の『配送用ユニフォーム(Tシャツ)』だ。

視認性を極限まで高めた【鮮やかな赤地】に、胸の中央に大きく【一つの黄色い星】がプリントされた、強烈なインパクトを放つデザイン。


「あの赤と黄色のコントラストは、一度見たら脳裏に焼き付いて離れません。……今や帝都のどこを見渡しても、あの赤いシャツを着た配送員たちが走り回っていますよ」


「それが狙いよ。あの赤いシャツは、歩く『広告塔』。街中にあの黄色い星が溢れれば溢れるほど、人々は無意識のうちに『セシリア商会なしでは生活できない』という圧倒的なブランドの刷り込み(マインドシェア)を受けるの」


私は冷めた珈琲を一口飲み、満足げに立ち上がった。


「さて。カフェの視察と物流のチェックは完了ね。……次は、商会の『頭脳』を拡張するための、重要なタスクが待っているわ。ガラン隊長、面接室へ」


◇◇◇


トタンの陸屋根に当たる微かな風の音だけが聞こえる、防音の効いた静かな面接室。

巨大なマホガニーの机を挟んで私の目の前に座っているのは、サイズの合わない安物のスーツを着た、ひどく緊張した様子の若い学生だった。


彼の手は膝の上でガタガタと震え、額には大粒の汗が浮かんでいる。


「ええと……帝都王立大学から参りました……。本日は、インターンシップの面接の機会をいただき、ありがとうございます……っ!」


裏返りそうな声で挨拶をする青年に、私はあえて愛想笑いを浮かべず、手元にある彼のエントリーシートに冷徹な視線を落とした。


「……募集要項は読んできましたね? 今回募集しているのは、ただの雑用係ではありません。私の中央統合システム『O.D.O.O』の拡張をサポートする、【ERPシステム・ビジネスアナリスト(BA)】のインターンです」


「は、はいっ! 大学では、情報論と商学を専攻しておりまして……」


「能書きは結構です。実戦ビジネスで使えるかどうか、手っ取り早くテストしましょう」


私はペンを置き、鋭い視線で彼を射抜いた。


「現在、商会では『ドロップシッピング(無在庫直送)』の機能に、新たな物流アルゴリズムを追加しようとしています。……あなた、この追加モジュールに関する『ビジネス要求仕様書(BRD)』の目次構成と、開発チームに渡すための『ユーザーストーリー』を、今ここで口頭で3つ即座に構築しなさい」


「えっ……!?」


隣に立っていたガラン隊長が「そんな無茶な」という顔をする。

まだ学生のインターン候補に、いきなり実務のシステム開発の最上流工程(要件定義)を丸投げするような、極悪な圧迫面接。

青年は一瞬パニックになりかけ、言葉に詰まった。


だが、数秒後。彼は必死に息を整え、震える声で口を開いた。


「……ま、まず、BRDの構成ですが……『現状の課題(As-Is)』と『目指す姿(To-Be)』の定義から始めます。無在庫直送における一番のボトルネックは、南方の販売員と帝都の倉庫間のタイムラグです。これを解消するための機能要件と、非機能要件を定義し……」


「ほう?」

私は少しだけ眉を上げる。


「ゆ、ユーザーストーリーに関しては……

一つ目。『南方の販売員ユーザーとして、私は、客がカタログから注文した瞬間に、帝都の倉庫の在庫引き当て状況をリアルタイムで確認したい。なぜなら、品切れのクレームを防ぐためだ』。

二つ目。『帝都の梱包担当者ユーザーとして、私は……』」


青年は噛みながらも、必死に『誰が・何を・なぜ必要としているか』というBAの基本フォーマットに則って、システムの要求を言語化していった。


「……以上です……っ!」


答え終えた青年は、完全に息も絶え絶えになり、肩で息をしている。

沈黙が、面接室に降りた。


私は無表情のまま彼を数秒見つめ――やがて、フッ、と優雅な笑みをこぼした。


「……合格(採用)よ」


「……えっ?」


「完璧な回答ではないけれど、パニックにならずに『要件定義』のロジックを組み立てようとしたその思考回路フレームワークは評価に値するわ。……明日から、私の直属のアシスタントとして『O.D.O.O』の保守運用チームに入りなさい。地獄のように忙しいけれど、お給料は大学の教授の三倍は出してあげるわ」


「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!! 一生懸命働きます!!」


青年が立ち上がり、涙ぐみながら深く頭を下げた。


彼が退出した後、ガラン隊長が感心したように息を吐いた。


「……セシリア様。あの若者、なかなか見どころがありましたね。しかし、なぜあのように高度な知識を学生に求めるのですか?」


「システムがどれだけ巨大になっても、それを管理し、アップデートを指示するのは結局『人間』なのよ。……私が世界中の経済をハッキングし続けるためには、優秀な『ビジネスの翻訳家(BA)』が何百人も必要になるの」


私は窓の外、青空にそびえ立つ建設中の世界本部を見上げた。


衣食住(空間と食事)を支配し。

物流(赤シャツと黄色い星の配送網)を支配し。

そして、それらを束ねる頭脳(優秀なBAとERPシステム)を独占する。


「さあ、ガラン隊長。エコシステム(経済圏)のピースはすべて揃ったわ。……いよいよ、この世界を丸ごと私色に塗り替える、最後の大舞台ローンチの幕開けよ!」


私の高らかな声に、足元のウニが「キュイイィィッ!」と力強く応えた。

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