スピンオフ:【真の黒幕は丸くてトゲトゲ】ウニの密かなるCEO業務と至高の菜食(ベジタリアン)おやつ
【鮮やかな赤地のシャツに、中央に大きな黄色い星】が一つプリントされた、ひどくシンプルで、しかし強烈なインパクトを放つデザインだった。
「キュプッ!(なるほど、これは売れるデザインだ!)」
セシリアが寝ている今、この注文を滞留させれば『顧客体験(UX)』を損なってしまう。
ウニは決意した。今日だけは、自分がこの巨大商会のCEO(あるいは優秀なビジネスアナリスト)なのだ、と。
「キュ、キュルル……ターンッ!」
ウニは背中のトゲを器用に一本だけ伸ばし、コンソールの『承認』ボタンを、セシリアそっくりな流れるような動作で叩き(エンター)込んだ。
シュガァァン!と水晶が青く輝き、帝国工房へのPOD印刷指示と、南の大陸への直行船便の手配が、コンマ一秒の遅れもなく全自動で完了する。
「キュフフッ(完璧な業務遂行だ)」
ウニは鼻高々に胸を張り、主水晶からふわりと飛び降りた。
一仕事終えれば、当然、最高のエグゼクティブには最高の『報酬』が必要だ。
ウニは執務室を抜け出し、トコトコと一階のインドシナ風カフェへと向かった。
幾何学模様のレトロなタイルの上を歩き、厨房のカウンターから顔を出す。
「おや、ウニ様。セシリア会頭はお休みですか?」
料理長が、コック帽を揺らして優しく微笑みかけてきた。
「キュプッ! キュイイッ!(一つ仕事をしてきた! いつもの、あれを頼む!)」
ウニが短い前足でメニューをバンバンと叩くと、料理長は「かしこまりました」と恭しく一礼した。
「ウニ様の大好物、南の大陸産『竜の鱗』をふんだんに使った、特製の【菜食プレート】ですね。お肉を一切使わず、大豆と東方のスパイスだけで仕上げた、午後からの生産性を極限まで高める至高の一皿です!」
数分後。
ロータス(蓮)の池が見渡せる特等席の籐の椅子で、ウニは顔の半分ほどもあるドラゴンフルーツの赤い果肉と、スパイスの効いたベジタリアン料理を夢中で頬張っていた。
「シャクシャク……キュプゥ〜〜(美味すぎる……疲れが吹き飛ぶ……)」
外の景色を見やれば、自分がさっき承認した『赤地に黄色い星』のシャツのデータが、物流ハブを通って世界の裏側へと発送されていくのが見える(ような気がした)。
剣と魔法の世界を裏で牛耳る悪役令嬢。
だが、その令嬢のシステムを密かに回し、世界経済の歯車に油を差している真の黒幕は……極上のベジタリアン料理に舌鼓を打つ、この丸くてトゲトゲの小さな魔獣なのかもしれない。
「キュプッ!(さあ、食べたらもう一仕事だ!)」
ウニは食後のハーブティー(器に顔を突っ込んで飲むスタイル)を堪能すると、再び世界をハッキングする主人の待つ執務室へと、誇らしげな足取りで戻っていくのだった。
――スピンオフ 完――




