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婚約破棄で追放された悪役令嬢ですが、隣国で『魔道具ネット通販』を始めたら金貨スパチャが止まりません〜私を追い出した王国は経済崩壊しました〜  作者: はりねずみの肉球
第11章:聖戦と資本主義の激突

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シーン1:【開戦の狼煙(のろし)】10万の十字軍と、兵站(サプライチェーン)の完全掌握

ビーーーッ! ビーーーッ! ビーーーッ!


帝都の中心、セシリア商会のドーム型倉庫内に、耳をつんざくようなけたたましい魔力警報が鳴り響いた。

普段は432ヘルツの優雅なBGMが流れる空間が、一瞬にして赤黒い警戒光に染め上げられる。

全方位受注統括網『O.D.O.Oオドゥー』の主水晶が、外部からの強烈な物理的脅威エラーを検知したサインだ。


「報告ッ!! 西方教国より、宣戦布告の急馬が到着!!」


バンッ!とコントロールルームの扉が弾け飛び、血相を変えたガラン隊長が転がり込んできた。

その手には、教国の黄金の紋章が蝋で封印された、仰々しい羊皮紙の巻物が握られている。


「教皇直々の『聖戦クルセイド』の発動です! 異端の魔女セシリア・アルフェンの引き渡しと、商会の全機能の即時停止を要求! さもなくば、十万の聖騎士団をもって帝都を火の海に沈めるとのことです!!」


ガラン隊長の絶叫に、コントロールルームの空気が凍りついた。

十万の聖騎士。それは単なる脅しではない。教国が周辺の信仰国からかき集めた、大陸最大規模の物理的暴力(軍隊)だ。

前回の電波ジャック(DDOSテロ)が完全に防がれ、あまつさえ商売のダシにされたことで、教国の老人たちは完全にメンツを潰され、ついに『盤外の力技』に出たのだ。


「……ふはっ、ははははっ!! ついに尻尾を出したか、カビの生えた狂信者どもめ!」


部屋の奥、革張りのソファから立ち上がったのは、漆黒の軍服に真紅のマントを羽織ったレオンハルト皇帝だ。

彼の黄金の瞳は、絶望どころか、待ちに待った獲物を見つけた猛獣のように爛々と輝いている。


「よかろう! 帝国の全軍に動員をかけろ! 奴らが帝都の土を踏む前に、国境の平原で迎え撃ち、その黄金の仮面ごと木っ端微塵に叩き割ってくれるわ!!」


レオンハルトが腰の宝剣の柄に手をかけ、圧倒的な覇気オーラを放つ。

皇帝直々の出陣命令。ガラン隊長も「はっ! 直ちに近衛騎士団を――」と踵を返しそうになる。


「――お待ちなさい、お二人とも。随分と血の気が多いですね」


俺は淹れたての紅茶アールグレイのカップをソーサーにコトリと置き、ミッドナイトブルーのドレスの袖を優雅に払いながら立ち上がった。


「セシリア。相手は商売敵ではない、本物の軍隊だぞ。お前のその通信機や帳簿で、十万の剣と魔法が防げるわけではない」

レオンハルトが、鋭い視線で俺を射抜く。


「ええ、物理的な剣は通信機では防げません。……ですが、陛下。戦争というのは、突き詰めればただの『超・大規模な消費イベント(プロジェクト)』に過ぎないのですよ」


俺は主水晶『O.D.O.O』の前に歩み寄り、指先でコンソールを弾いた。

空間に投影されていた南方大陸の光の網目が切り替わり、西方教国から帝国へ至る『進軍ルート』の巨大な立体地図ホログラムが浮かび上がる。


「相手の目的(要求仕様)は帝都の破壊。なら、彼らがどう動くか、ビジネス・アナリストとして『作業分解構成図(WBS)』に落とし込んで分析してみましょう」


俺は羽ペンを手に取り、空中のホログラムにスラスラと文字を書き込んでいく。


「十万の兵が、重たい甲冑を着て、何百キロも離れた帝都まで行軍する。……彼らには何が必要ですか?」


「……食料、だな。それに馬の飼葉かいば、武具の修繕道具、野営のためのテントや水だ」

ガラン隊長が、騎士の視点から即座に答える。


「正解です。軍隊というのは、信じられないほど非効率で、腹を空かせた巨大な『物流会社』のようなもの。……彼らは進軍しながら、ルート上にある中立の交易都市や村々で、莫大な物資リソースを現地調達(買い上げ)しなければ、三日と持たずに干上がります」


俺の唇に、三日月のような、とびきり邪悪で冷酷な笑みが張り付いた。


「剣を交えてこちらのコストを消費する必要なんてありません。……彼らが通るルート上のすべての都市の物資を、彼らが到着する前に、私の商会が【すべて現金で買い占めて(ショート・スクイーズ)】しまえばいいのです」


「……なっ!?」

ガラン隊長が息を呑む。


「買い占める、だと? 十万の軍を養えるほどの物資を、ルート上の全都市からか?」

レオンハルトも、俺の恐るべき『経済封鎖』のスケールに眉をひそめた。


「ええ。普通の商会なら、情報伝達と資金繰りに数ヶ月はかかります。……ですが、私にはこの『O.D.O.O』があります」


俺は主水晶を愛おしそうに撫でる。

ドロップシッピングと受注生産(POD)を完璧に処理し、帝国の財布から毎月莫大なサブスクリプション収入を吸い上げている、最強の中央統合システム。


「この水晶を使えば、教国の進軍ルート上にあるすべての交易都市の商人たちに、今この瞬間、コンマ一秒のタイムラグもなく【相場の三倍の価格での全在庫買い取り指令】を出すことができます。……彼らは狂喜して、パンの欠片一つ、蹄鉄の釘一本に至るまで、私に売り渡すでしょう」


「キュイッ!」

主水晶の上で、ウニが「ぽちっ」と前足で実行エンターボタンに触れる真似をした。


「……信じられん。お前は、十万の軍勢を、戦場に到着する前に『餓死』させる気か」


「餓死まではさせませんよ。私は慈悲深い商人ですから」


俺はクスクスと笑いながら、世界地図の『教国』の部分を扇子でトントンと叩く。


「彼らが空っぽの街に到着し、飢えと疲労で暴動寸前になった最高のタイミングで……私の商会のロゴマーク、あの『星と薔薇』の旗を掲げた馬車隊を登場させます」


「……まさか、買い占めた物資を、そこで敵軍に売りつけるというのか?」


「当然です。ただし、価格は【相場の十倍】。……教国の黄金の仮面が、自分の兵を維持するために、涙を流しながら国庫の底を叩いて私に金を払う姿。……想像するだけで、極上のエンターテインメント(利益)だと思いませんか?」


静寂。

コントロールルームを満たしていたのは、戦争への恐怖ではなく、一人の悪役令嬢が世界最大の宗教国家を『ただの巨大な財布カモ』として完全に手玉に取る、圧倒的な資本主義の暴力への戦慄だった。


「……ふはっ、あはははははっ!! 狂っている! お前の頭の中の算盤そろばんは、神の怒りすら利益マージンに変換するのか!!」


レオンハルトが、腹を抱えて狂ったように笑い転げた。

武力による聖戦を、情報と物流による『経済制裁(兵糧攻め)』で完封する。


「さあ、ガラン隊長! 全自動買い占めプログラム(スクリプト)、実行ランです! 教国の聖騎士様たちに、現代のサプライチェーンの恐ろしさを骨の髄まで叩き込んで差し上げなさい!」


カチャッ、タァンッ!

俺が最終承認コンファームのレバーを引き下ろした瞬間、主水晶から無数の光の矢が、大陸の西側に向けて一斉に放たれた。

聖戦と資本主義の激突。

その勝敗は、剣が交わるよりもずっと前、帳簿の上で無慈悲に決しようとしていた。

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