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婚約破棄で追放された悪役令嬢ですが、隣国で『魔道具ネット通販』を始めたら金貨スパチャが止まりません〜私を追い出した王国は経済崩壊しました〜  作者: はりねずみの肉球
第10章:教国との情報・電波戦

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シーン4:【無在庫と受注生産(POD)の魔法】稼働するO.D.O.Oと、海を越える黄金の雨

数週間後。

帝都のセシリア商会、ドーム型倉庫の最深部――全方位受注統括網『O.D.O.O』のメインコントロールルーム。


「……よし。これで南方大陸の販売員アフィリエイターたちに配る『ビジネス要求仕様書(BRD)』と、彼らが現場で行うべき『作業分解構成図(WBS)』の策定は完了ね」


俺はミッドナイトブルーのドレスの袖をまくり、羊皮紙の束をパサリと机に置いた。

無在庫直送ドロップシッピングは、在庫リスクを持たない代わりに「末端の販売員の質」がブランドの信用に直結する。だからこそ、彼らがどんな手順で客に営業し、どうやってシステムに注文を入力するかを、前世のビジネスアナリスト(BA)顔負けの緻密なマニュアル(仕様書)でガチガチに統制する必要があるのだ。


「キュプッ!」

机の隅で、俺が書き上げた分厚い仕様書の山を、ウニが誇らしげにポンポンと前足で叩いている。


「セシリア様! 南方大陸サウス・アフリカの主要交易都市群に到着した使節団から、魔力通信の接続要請が来ています!」


巨大な主水晶のコンソールに張り付いていたガラン隊長が、興奮を抑えきれない声で叫んだ。


「いよいよですね。……回線、繋ぎなさい」


俺の指示と同時、主水晶『O.D.O.O』の表面に、幾何学的な光の網目ネットワークが青白く浮かび上がる。

直後。


ピコンッ。

『南方大陸・第1都市より、新規注文データ受信。コンボ・セット3点。決済完了。帝国倉庫からの直送ドロップシッピング要請』


ピコン、ピコンッ。

『第2都市より、美容液5点。第4都市より、香水10点……』


ポポポポポポポンッ!!!!


主水晶から鳴り響く、軽快な電子音(魔力受信音)。

それは瞬く間に滝のような連続音へと変わり、暗いコントロールルームの壁一面に投影されたホログラムの地図に、南の海の向こうから無数の「光の矢(注文データ)」が飛来し始めた。


「こ、これは……っ! 凄まじい数です! 本当に、海の向こうの客たちが、カタログを見ただけで買っている!」


ガラン隊長が、信じられないものを見るように目を見開く。


「当たり前です。南の大陸の富裕層は、帝国の最新のトレンドに飢えているんですから。……そして、彼らからの注文データは『O.D.O.O』が瞬時に処理し、第一区画の物流チームに自動で梱包指示を出しています。私たちは、ここでただお茶を飲んで光の矢を見ているだけでいいんですよ」


俺は淹れたての紅茶を口に運び、優雅に微笑んだ。


「それに、南方の市場に向けて仕掛けたのは、無在庫直送だけじゃありませんよ」


俺はコンソールの画面を操作し、別の一覧表をガラン隊長に見せた。


「これは……『受注生産プリント・オン・デマンド』? また新しい呪文ですか?」


「POD(Print On Demand)戦略です。南方の貴族たちは、自分たちの部族や家門の紋章を入れた特注品を好みます。でも、それをいちいち作り置きしておくのは在庫の無駄でしょう? だから、彼らがカタログから『デザインと商品』を選んで注文してきた【その瞬間】にだけ、帝国の工房で紋章を刻印して発送するんです」


在庫を持たないドロップシッピングと、注文が入ってから作るオンデマンド生産の悪魔的融合。

売れ残りのリスクという概念そのものを、この世界から完全に消し去った絶対無敵のビジネスモデルだ。


「さらに、彼らが支払う代金の一部は、現地の特産品――私がショールームで提供しているあの幻の果実、『竜のドラゴンフルーツ』の現物支給で相殺する契約を結んでいます」


俺は机の上にあった赤い果実を指差す。

帝国の商品を売りつけながら、南方の貴重な資源を独占的なルートで確保し、それをまた帝国のショールームの『付加価値』として消費する。

価値の還流。富の永久機関。


「ふはっ、ははははっ! 痛快だ! 本当に痛快だぞ、セシリア!!」


部屋の奥のソファでその光景を眺めていたレオンハルト皇帝が、腹を抱えて大爆笑した。


「教国のカビの生えた狂信者どもが『電波ジャック』などという小賢しい真似で時間を無駄にしている間に、お前はすでに海の向こうの巨大な大陸の富を、その小さな水晶一つで完全に吸い上げ始めている! ……世界の覇権は、もはや武力ではなく、お前のその『システム』の手の中にあるということか!」


皇帝の言葉を肯定するように、ガラン隊長の手元の決済ゲートから、ジャララララララッ!!という、これまでで最も重厚で、圧倒的な質量を持った金貨の雨が降り注ぎ始めた。

帝国、旧アルフェン王国、そして南方大陸。

三つの巨大な市場マーケットが、俺という一個人の前に完全にひれ伏した瞬間だった。


「世界は、まだまだ広いですからね。……私の『美しい商売』で、この星を丸ごと染め上げて差し上げますわ」


俺はミッドナイトブルーのドレスの裾を翻し、天井知らずの野心と共に、降り注ぐ黄金の雨の中で妖しく、そして果てしなく強欲に微笑んだ。


◇◇◇


……同時刻。

帝国の遥か西、分厚い暗雲に覆われた西方教国の中心地、大聖堂の地下深く。


「……クロード司教が、失敗しただと?」


神聖なる白亜の円卓を囲む、教国の最高指導者たる十二人の枢機卿たち。

その沈痛な空気の中で、一人の枢機卿が忌々しげに机を叩いた。


「帝国の電波ジャックは完璧に防がれ、あまつさえ我々の波長が『防護結界』の販促に利用されたというのか! なんたる屈辱! なんたる冒涜か!」

「あのセシリア・アルフェンという女……もはや一介の商人ではない。あれは、神の秩序を根底から破壊する『完全なる異端アンチ・クライスト』だ」


円卓の最奥に座る、顔の上半分を黄金の仮面で覆った大教皇が、ゆっくりと立ち上がった。


「経済で帝国を操り、情報網で世界を狂わせる魔女。……もはや、小細工は無用」


大教皇の低い声が、地下室に不気味に響き渡る。


「教国の全武力、全魔力をもって、帝都のドーム型倉庫を物理的に灰燼に帰す。……『聖戦クルセイド』の準備を始めよ。あの女のシステムを、この星から完全に消し去るのだ」


……圧倒的な経済侵略を進めるセシリア商会に、ついに世界最大の宗教国家が「武力殲滅」という最終手段を切ろうとしていた。


黄金の雨が降り注ぐ帝都の夜明けに、血塗られた聖戦の足音が、静かに、そして確実に忍び寄っていた――。

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