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婚約破棄で追放された悪役令嬢ですが、隣国で『魔道具ネット通販』を始めたら金貨スパチャが止まりません〜私を追い出した王国は経済崩壊しました〜  作者: はりねずみの肉球
第10章:教国との情報・電波戦

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シーン3:【無在庫直送(ドロップシッピング)】南の大陸と、全方位受注統括網『O.D.O.O』

「……恐ろしいものだな。剣も魔法も使わず、ただ『安心』という概念を売るだけで、これほどの富が自動的に集まるとは」


会頭執務室の巨大なマホガニーの机。

その上に積み上げられた、羊皮紙の分厚い束――【プレミアム防護プラン】の新規契約者リストと、来月以降の予想収益のグラフを見下ろしながら、レオンハルト皇帝が深い感嘆の息を漏らした。

彼の黄金の瞳には、一国を平らげるほどの武功を立てた将軍を見るような、獰猛な称賛の色が浮かんでいる。


「皇帝陛下のお墨付きを頂けて光栄ですわ」


俺は淹れたての紅茶アールグレイのカップを傾け、優雅に微笑んだ。

教国の電波ジャック(DDOSテロ)騒動から数日が経過していた。帝都の貴族たちは「呪いから守られた」という絶対的な成功体験により、俺の商会への信仰をさらに深めている。

解約率は事実上のゼロ。

毎月何もしなくても、帝都中の館から金貨がチャリンチャリンと俺の口座に自動送金される、究極の不労所得システムが完成したのだ。


「キュプッ、シャクシャク……」


机の端では、今回のMVPである相棒のウニが、ご褒美として与えられた高級な『竜のドラゴンフルーツ』の赤い果肉に顔を突っ込み、夢中で頬張っている。

先日オープンしたジャパンディ・スタイルのショールームでも大好評を博した、南の大陸サウス・アフリカ原産の幻の果実だ。


「さて、セシリア。帝都の基盤は岩盤よりも強固になり、アルフェン王国という巨大な生産工場サプライチェーンも完全に手中に収めた」


レオンハルトが、手元のワイングラスを揺らしながら俺を見据える。


「次はどこへ向かう? 西の教国へ直接経済制裁ボイコットを仕掛けるか?」


「いえ。教国のような頭の固い老人たちの相手は、後回しで十分です」


俺は立ち上がり、壁に掛けられた巨大な世界地図の前へと歩み寄った。

そして、帝国の遥か南、広大な海を隔てた先にある巨大な大陸――熱砂と豊かな自然、そして無数の独立交易国家がひしめき合う『南方大陸』を指し示した。


「次なる市場ブルーオーシャンは、ここです」


「……南方大陸か」


控えていたガラン隊長が、腕を組んで険しい表情を浮かべる。


「確かに、香辛料や宝石、そしてウニ殿が食べているような珍しい果実が豊富に採れる、莫大な富が眠る大陸です。……ですがセシリア様、あそこは帝国からあまりにも遠すぎる。海路には凶悪な海竜シーサーペントが群れを成しており、物資を運ぶ船の遭難率は三割を超えます」


ガラン隊長が、軍事的な観点から物流の壁を指摘する。


「その通りだ」

レオンハルトも頷く。

「帝国の大商会ですら、あの大陸に巨大な倉庫ハブを建設し、在庫を抱えるリスクは冒せない。船が沈めば、莫大な商品(在庫)が海の藻屑だからな。魔力転送陣を繋ぐにしても、距離が遠すぎて魔力消費コストが割に合わん」


「ええ、お二人の懸念はもっともです。……『普通の商売』のやり方なら、ね」


俺は地図から振り返り、とびきり邪悪で、そして革新的な商人の笑みを浮かべた。


「船が沈むリスクがあるなら、最初から『在庫リスク』を抱えなければいいんですよ。……名付けて、【無在庫直送ドロップシッピング】モデルの展開です」


「むざいこ……ちょくそう……?」


ガラン隊長が、またしても俺の口から飛び出した未知の概念に目を白黒させる。


「ええ。南方大陸に倉庫を建てて商品を山積みにしておくから、沈んだ時に大赤字になるんです。だから、南の商人たちには『商品』を卸しません。……渡すのは、この美しいカタログ(青写真)と、通信用の小型魔道具だけです」


俺は机の上から、セシリア商会の美しき商品群が描かれたフルカラーのカタログを手に取った。


「南の現地の商人アフィリエイターたちに、このカタログを使って現地の富裕層へ営業をかけさせます。客がカタログを見て『これが欲しい』と注文し、代金を支払ったら……」


「支払ったら、どうするのだ?」

レオンハルトが身を乗り出す。


「現地の商人は、小型通信機で私の中央システムに『注文データ』と『代金(商人の取り分を差し引いた額)』だけを瞬時に送信します。……そして、注文を受けた私たちの帝国の倉庫から、そのお客様個人の元へ、直接ダイレクトに商品を発送するのです」


ピタリ、と。

執務室に静寂が落ちた。


「……な、なんと……!」


数秒後、その恐るべきビジネスモデルの構造を理解したガラン隊長が、震える声で叫んだ。


「それでは、南方の商人たちは……商品を一つも仕入れることなく(無在庫で)、ただカタログを見せて注文を取るだけで、利益マージンを得られるということですか!?」


「その通りです。売れ残るリスクはゼロ。倉庫代もゼロ。彼らにとって、これほど魅力的でノーリスクな商売はありません。……私が『このシステムを使わせてあげる』と言えば、南方中の商人たちが、こぞって私の商会の手足(営業マン)となって働き始めるでしょう」


前世における『ドロップシッピング』の極意。

在庫管理と発送の手間フルフィルメントはすべて大元(俺)が引き受け、末端の販売者たちには「集客と販売」のみに専念させる。これにより、俺自身は一歩も帝都を出ることなく、数千人規模の現地販売ネットワークを瞬時に構築できるのだ。


「……だが、セシリア」


レオンハルトが、鋭い指摘を飛ばす。


「数千人の商人から、バラバラに通信機で送られてくる注文データを、どうやって捌く? 『誰に』『何を』『どれだけ』売ったか。少しでも情報が錯綜すれば、誤配送の嵐で商会の信用は一瞬で崩壊するぞ」


「ふふっ。さすがは皇帝陛下。事業拡大における最大のボトルネック(課題)を正確に見抜いていらっしゃる」


俺はミッドナイトブルーのドレスの裾を揺らし、執務室の奥に設置された、あの巨大な主水晶メインサーバーを指し示した。


「アルフェン王国を吸収した際、私は【全拠点・中央統合管理網(ERP)】を構築しました。……今回は、そのERPを南方大陸のドロップシッピング用に、さらに劇的な進化アップデートを施します」


俺は指先をパチンと鳴らす。

主水晶の内部に、無数の光の線が幾何学的な模様を描き、巨大な一つの『網目ネットワーク』のホログラムが空間に投影された。


「新システムの名称は……全方位受注統括網『O.D.O.Oオドゥー』」


「お、おどぅー……?」


「Omni-Directional Order Orchestration(全方位・受注・統括・網)の略称です」


俺はホログラムの光の点を指先でなぞりながら説明を続ける。


「この『O.D.O.Oオドゥー』は、南方大陸の数千の商人からの注文データを自動で受信し、顧客の住所、決済状況、そして帝国の倉庫の在庫引き当てから、発送する船便のパッキングリスト作成までを、人間の手を一切介さずに【完全自動で統合処理】します」


「完全自動、だと……!?」


「ええ。このシステム(オドゥー)があれば、注文が一日百件だろうが、十万件だろうが、私の商会はコンマ一秒の遅れもなく、正確に荷物を出荷し続けることができます。……情報処理の渋滞パンクは、物理的に起こり得ません」


圧倒的なスケーラビリティ(拡張性)。

これこそが、現代ECが世界を支配するための最強の心臓部だ。

在庫を持たない身軽な現地の販売網ドロップシッピングと、それを裏で支える完璧なバックエンド・システム(オドゥー)。

この二つが揃った時、物理的な距離という壁は完全に意味を持たなくなる。


「……恐ろしい女だ」


レオンハルトが、腹の底から絞り出すように笑い声を上げた。


「軍隊を送るでもなく、商館を建てるでもなく……ただ『情報カタログ』と『仕組み(システム)』をばら撒くだけで、海の向こうの巨大な大陸の富を、根こそぎこの帝都に吸い上げる気か」


「私は商人ですから。血を流すより、汗をかかずにお金を稼ぐ方法を考えるのが仕事です」


俺はウニの頭を撫でながら、不敵に微笑む。


「ガラン隊長。至急、南方大陸の主要な交易都市へ送る『使節団』の編成を。……彼らに持たせるのは、剣ではありません。美しき商品のカタログと、『O.D.O.O』に接続するための通信端末。……それだけです」


「はっ! 直ちに手配いたします!」


ガラン隊長が、新たな歴史の幕開けに武者震いをするように、力強く踵を鳴らして敬礼した。


教国からの妨害を退け、足場を完全に固めたセシリア商会。

その強欲な牙は今、海を越え、未知なる巨大市場(南方大陸)へと向けられた。

無在庫直送ドロップシッピングと、最強の統合システム(O.D.O.O)を武器にした、前代未聞のグローバル経済侵略が、静かに、そして爆発的な速度で始まろうとしていた。

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