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婚約破棄で追放された悪役令嬢ですが、隣国で『魔道具ネット通販』を始めたら金貨スパチャが止まりません〜私を追い出した王国は経済崩壊しました〜  作者: はりねずみの肉球
第10章:教国との情報・電波戦

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シーン1:【恐怖マーケティング】緊急生放送と、月額金貨二枚の「盾」

帝都の空を覆う厚い雲の隙間から、午前十時の冷たい日差しが差し込んでいる。

教国の異端審問官クロードが突きつけてきた「タイムリミット(正午)」まで、残り二時間。

ドーム型倉庫の最奥、防音と魔力遮断が施された専用配信スタジオは、かつてないほどの異様な緊張感と、魔力回路がフル稼働する駆動音に包まれていた。


「セシリア様! 全転送陣の決済ゲート、および『自動継続契約サブスクリプション』の新規受付用の魔力回線、限界まで拡張完了しました!」


額に玉のような汗を浮かべたガラン隊長が、制御盤のメーターから顔を上げて叫ぶ。

歴戦の騎士である彼が、今は完全にセシリア商会の「システム・エンジニア」としてコンソールに張り付き、魔力配線のオーバーヒートを防ぐために冷却魔法をかけ続けている状態だ。


「ご苦労様です、ガラン隊長。……ウニの調子はどうですか?」


俺はミッドナイトブルーのドレスの裾を翻し、スタジオの中央に鎮座する巨大な『主水晶メインサーバー』へと歩み寄る。

その水晶の頂上には、特注の小さなベルベットの座布団が敷かれ、相棒のウニがちょこんと鎮座していた。


「キュイッ!」


ウニは俺の顔を見ると、力強く短い前足を上げて鳴いた。

その背中の針には、細い銀色の魔力伝導ワイヤーが何本も接続され、主水晶の回路へと直接繋がっている。

昨晩、彼が本能で記憶サンプリングした教国の『不協和の香』の波長。それを基に、主水晶の演算能力を使って『完全に逆の波長アクティブ・ノイズキャンセリング』を生成し、全ネットワークへ配信するための、最も重要なフィルター役だ。


「いい子ね。少しだけチクチクするかもしれないけれど、お昼まで頑張ってね」


俺がウニの鼻先を優しく撫でると、彼は「キュプッ」と頼もしく鼻を鳴らした。


「……セシリア様。本当に、あの教国の狂信者たちが流し込んでくる呪いの波長を、この魔獣一匹と『波の反転』という理屈だけで防ぎきれるのでしょうか?」


ガラン隊長が、やはり不安を拭いきれない様子で問いかけてくる。

無理もない。魔法という結果オカルトに頼ってきたこの世界の人間に、波の干渉という物理法則サイエンスを完全に信用しろというのは酷な話だ。


「防げますよ。光も音も魔力も、すべては『波』です。……それに、防げなかったら私の商売システムが完全に崩壊して一文無しになるんです。商人が、自分の財布を脅かすリスクに対して妥協すると思いますか?」


俺は極上の笑みを浮かべ、通信魔道具の送信レバーに手をかけた。


「さあ、防衛の準備は整いました。……ここからは、この『危機』を極上の利益マネタイズに変換する、最高に楽しい時間です」


ガコンッ!

俺がレバーを一番奥まで押し込んだ瞬間。

事前の告知など一切ない、完全な『緊急生放送ゲリラ・ライブ』であるにもかかわらず、帝都の受信機が一斉に強制起動し、同時接続数は瞬く間に5000を突破した。

画面の向こうの貴族たちが、「朝から何事だ!?」と慌てて通信機の前に集まってくる気配が、コメント欄の濁流となって現れる。


『おおっ、セシリア嬢! こんな朝早くから通信とは珍しい!』

『昨日のショールーム、最高だったぞ! 早く我が家の改装の順番を回してくれ!』

『緊急の新作発表か!? 財布なら用意してあるぞ!』


何も知らない、平和ボケした貴族たちの能天気なコメント。

俺はカメラのレンズに向かって、いつもの完璧な微笑み……ではなく、今にも泣き崩れそうな、深く、痛ましい憂いの表情(演技)を浮かべた。


「愛すべき帝国の皆様。……このような朝早くに、突然お騒がせしてしまい、本当に申し訳ございません」


俺の声は、微かに震え、悲痛な響きを帯びていた。

そのただならぬ雰囲気に、コメント欄の動きがピタリと停止する。


「本日は、皆様に新作をご案内するためではなく……皆様の『命』と『精神』に関わる、極めて重大で、恐ろしい危機をお知らせするために、緊急で通信を繋がせていただきました」


『き、危機……? 命に関わるだと?』

『どういうことだ、セシリア嬢! 何が起きている!』


俺は両手を胸の前で固く組み、カメラを真っ直ぐに見据える。


「昨晩、私のショールームの裏口に、西方教国の『異端審問官』を名乗る狂信者の集団が押し入ってまいりました。……彼らは、私の商会が帝国の皆様に愛されていることに嫉妬し、なんとこの『通信魔道具』のネットワークを通じて、帝都全域に【精神を破壊する呪いの波長】を流し込むと脅迫してきたのです」


『なっ……!?』

『西方教国だと!? あの狂信者どもが、我々の帝都に!?』

『通信機から呪いを流し込むだと!? そんな馬鹿な!!』


「馬鹿な話ではありません。彼らは『不協和の香』と呼ばれる、脳髄を直接破壊する魔道具を持っています。……タイムリミットは、本日の【正午】。あと二時間弱で、皆様の目の前にあるその通信機から、発狂するほどの呪いの音が鳴り響くことになります」


俺がはっきりと「正午」という時刻を突きつけた瞬間、コメント欄が完全にパニック状態に陥った。

恐怖フィアーマーケティングの第一段階、「圧倒的な脅威の提示」の完了だ。


『ひぃぃっ! 通信機を壊せ! 今すぐ電源を切れ!!』

『待て、電源を切ったらセシリア商会の買い物ができなくなるぞ!』

『どうすればいい! セシリア嬢、帝国の騎士団は何をしている!』


「ご安心ください!!」


俺はパニックになりかけたコメント欄を、凛とした、力強い声で一喝して引き止める。


「皆様を見捨てるような真似は、このセシリアが絶対にいたしません。……彼らの卑劣な予告を受けてからの一晩、私は商会の全魔力と技術を注ぎ込み、皆様を呪いから完全に守り抜くための【超・防護結界セキュリティ・アップデート】を開発いたしました!」


俺は背後の主水晶と、その上に乗っているウニ(なぜか誇らしげに胸を張っている)を手で示す。


「この主水晶から、教国の呪いを完全に相殺し、無効化する『浄化の波長』を、皆様の通信機へ直接お送りいたします。これさえあれば、正午になろうが、教国がどれだけ呪いを流し込もうが、皆様の耳には平穏な音楽しか届きません!」


『おおおおおっ!!』

『さすがセシリア嬢だ! 我々の女神!』

『早く、早くその浄化の波長とやらを私に送ってくれ!』


「はい。……ですが、皆様。大変心苦しいのですが、この浄化の波長を生成し、維持し続けるためには、途方もない量の魔力石ランニングコストが必要となるのです」


俺はわざとらしく目を伏せ、いかにも「心苦しい」という風を装って、最後の一撃キラーフレーズを放つ。


「そのため、この『浄化の波長』による防護網は、セシリア商会の【プレミアム防護プラン】にご加入いただいたお客様の通信機にのみ、適用させていただくこととなりました」


『ぷれみあむ……?』


「はい。お値段は、一ヶ月につき、わずか『金貨二枚』の自動継続契約サブスクリプションとなります。……月にたった二枚の金貨で、教国の呪いからご自身とご家族の精神を半永久的に守り抜くことができるのです」


俺はカメラに一歩近づき、画面越しの貴族たちの目を直接覗き込むように囁く。


「タイムリミットの正午まで、あと一時間半。……未加入のまま正午を迎えられた場合、皆様の精神がどうなってしまうのか、私には保証できかねます。どうか、ご自身の身を守るための『賢明な選択』をなさってください」


――ピロロロロロロロロロッ!!!!


俺が言い終わるか終わらないかのうちに、スタジオの決済ゲートが、かつて聞いたこともないような凄まじい警報音を鳴らして真っ赤に染まった。

化粧品や鏡の時のような「欲しい(欲求)」ではない。

これは「命を守らなければならない」という「恐怖(生存本能)」に直結した、完全に理性をすっ飛ばしたパニック買い(駆け込み契約)だ。


『加入する! 今すぐ加入させてくれ!!』

『金貨二枚など安いものだ! 十年分前払いするから、確実に私を守ってくれ!』

『波長が混み合って契約画面が進まん! 頼む、正午までに通してくれぇぇっ!』


「ああっ、ありがとうございます! ただいま、五百、千、二千件……凄まじい勢いで【プレミアム防護プラン】の契約が結ばれております! 皆様の安全は、私が責任を持って守り抜きます!」


俺は歓喜の声を上げながら、受信盤のメーターが跳ね上がっていくのを、底知れない狂気と強欲の笑みで見つめていた。


「……セシリア様。あなた、本当に恐ろしい人だ……」


背後で冷却魔法をかけ続けていたガラン隊長が、完全に血の気を失った顔で呟いた。

無理もない。

教国の異端審問官が仕掛けてきた「電波ジャック(テロ)」の脅威を、一銭のコストもかけずに無効化するどころか、それを口実に、全顧客から毎月「金貨二枚」を自動で吸い上げる永久機関(新たなサブスクリプション)を完成させてしまったのだ。

仮に5000人が契約すれば、毎月一万枚の金貨が、何もしなくても自動で俺の口座に転がり込んでくる。

現代のアンチウイルスソフト商法、ここに極まれり、だ。


「さあ、ガラン隊長! サーバー(魔力回路)を絶対に落とさないで! 正午のタイムリミットまでに、帝都の全貴族の財布の紐を完全に縛り上げますよ!」


「キュイイィィッ!!」


主水晶の上で、ウニも気合を入れるように鳴き声を上げる。

時計の針が、刻一刻と「正午」へと近づいていく。

教国が放つ絶望の不協和音が、俺の圧倒的なカウンター(ノイズキャンセリング)によって完璧な『無音』へと変換され、俺の完全勝利(ぼろ儲け)が証明される瞬間は、もう目の前まで迫っていた。

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