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婚約破棄で追放された悪役令嬢ですが、隣国で『魔道具ネット通販』を始めたら金貨スパチャが止まりません〜私を追い出した王国は経済崩壊しました〜  作者: はりねずみの肉球
第5章:帝国での大バズり! 新商品と金貨の雨

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シーン4:【敗者の末路と、狂乱の『ガチャ』決算】

ジャラララララララララララッ!!!!

ガキンッ! チャチャチャリンッ!!


鼓膜を容赦なく打ち据える、硬質で暴力的な金属音の連続。

ドーム型倉庫の二階バルコニーに設置された三つの『物質転送陣』は、今や完全に本来の用途を失い、異次元から無限に黄金を吐き出す間欠泉と化していた。

帝都中の貴族たちが、たった一つの『純銀ガラス鏡』を引き当てるために、あるいは次回の買い物で使える『ポイント』という名の甘い毒に踊らされ、理性をかなぐり捨てて金貨を投げ込み続けているのだ。


「キュ、キュアアァァッ!?」


凄まじい勢いで溢れ出す金貨の滝に、俺の肩の上に避難していたウニが目を丸くして身を乗り出す。

バルコニーの大理石の床は、瞬く間に黄金の絨毯で埋め尽くされていく。

足首まで浸かるほどの金貨の海。

その圧倒的な質量に、頑丈なはずの石造りのバルコニーが「ギシッ」と微かな悲鳴を上げたほどだ。


「おいおい、転送陣の冷却回路が焼け焦げそうだぞ! ガラン隊長、水魔法で陣の基部を冷やしてくれ! 火災が起きたら元も子もない!」


「はっ、はいっ! 『清らかなる水よ、熱を奪え』……っ!」


歴戦の近衛騎士であるはずのガラン隊長が、完全に俺の商会の『裏方スタッフ』として顔を青ざめさせながら、転送陣に必死で冷却魔法をかけ続けている。

ジュワァァァッ! という派手な音とともに白い水蒸気が立ち昇り、オゾンの匂いと混ざり合ってバルコニーを白く包み込む。


その水蒸気の向こう側、眼下の大通りでは、さらに凄惨で、かつ滑稽な地獄絵図が繰り広げられていた。


「おい、こっちにも転がってきたぞ! 金貨だ! 本物の帝国の金貨だ!」

「どけっ! それは俺が見つけたんだ! 触るな!」

「松明なんか持ってる場合か! 拾え、拾い集めろ!」


先ほどまで「魔女を引きずり出せ」と殺気を放っていた数百人の暴徒たちは、バルコニーの手すりの隙間からポロポロとこぼれ落ちる金貨の雨を前に、完全に戦意を喪失していた。

彼らが掲げていた松明は無造作に土の上に放り出され、ジュッと嫌な音を立てて消えていく。

武器であるはずの棍棒や剣を放り投げ、泥だらけの地面に四つん這いになり、我先にと黄金の硬貨に群がって泥まみれの取っ組み合いを始めているのだ。


暴力など、圧倒的な資本の前ではかくも無力で、安い。


「き、貴様らぁっ!! 何をしている! 拾うな! その扉を破壊しろと金を出したのはこの私だぞ!!」


群衆の最後尾で、商人ギルドの幹部である豚男が、顔を紫に染めて裏返った声で絶叫している。

だが、傭兵たちも貧民たちも、誰も彼の声など聞いていない。

「うるせえ! お前が払った日当の十倍が、今空から降ってきてるんだよ!」と、逆に傭兵の一人に突き飛ばされる始末だ。


ドンッ、と無様に尻餅をついた豚男は、信じられないものを見るような目で、バルコニーに立つ俺を見上げた。

俺は水蒸気の中から、ミッドナイトブルーのドレスの裾を翻し、冷酷な見下ろしの視線を彼に真っ直ぐに叩きつける。


「いかがですか、商人ギルドの幹部殿。これが、私の商会の『集客力』です」


俺の声は、魔道具の拡声機能を通さずとも、静まり返りつつある夜の空気を震わせて彼の鼓膜に届いたはずだ。


「あなたがたが何百人を金で雇い、物理的に私の店の扉を塞いだところで、何の意味もない。私の客は、この帝都のすべての館の奥深くに存在し、彼らの財布は、私の指先一つで開くのです」


豚男の唇が、ガクガクと小刻みに震え始める。

彼の目には、俺という存在が、理解の及ばない怪物か悪魔のように映っていることだろう。


「旧時代の常識にしがみつき、暴力で市場を独占できると思っていたあなたの完全な敗北です。……とっととその間抜けな面を下げて、ギルドの本部に逃げ帰りなさい。明日には、あなた方の店に閑古鳥が鳴くことになりますから」


「ひっ……! ば、化け物め……っ!」


豚男は這うようにして後ずさり、雇った傭兵たちを置き去りにして、暗い路地の奥へと無様な足取りで逃げ去っていった。

(これで、帝都の商人ギルドは完全に機能停止だ。明日からは、私の定めた価格とルールが、この帝国の絶対的な法律スタンダードになる)


俺は冷ややかに鼻を鳴らし、肩の上のウニを撫でながら、再び背後の『配信魔道具カメラ』へと向き直った。

眼下のノイズは処理した。あとは、この狂乱の『祭典』を最高の形で締めくくるだけだ。


カメラのレンズを覗き込むと、空中に浮かび上がるコメント欄は、先ほど以上の凄まじい速度で光の弾幕を形成していた。

俺が転送陣から次々と送り出している『星屑の福袋』が、すでに客の手元に届き、リアルタイムで『開封の儀』が行われているのだ。


『開けたぞ! 美容液と石鹸が二つずつ! これだけでも金貨二十枚以上の価値だ!』

『クソッ! 鏡は出なかった! 次だ、次の十袋をよこせ!』

『波長が混み合って決済が通らないぞ! 私の分を残しておいてくれ!』


そして、ついにその瞬間が訪れた。


ピロロロンッ!!!


ひときわ大きな電子音(魔力共鳴音)とともに、コメント欄の最上段に、巨大な金色の文字が固定表示された。

大当たりの報告だ。


『出たぁぁぁぁっ!!! 銀だ! 純銀の鏡が我が手元に転送されてきたぞ!!』

『うおおおおっ!? 青い百合の紋章の伯爵か! ふざけるな、羨ましい!』

『本当に出るのか! よし、私も絶対に引いてやる! 全財産を金庫から持ってこい!』


「おめでとうございます、青い百合の紋章の旦那様!」


俺はカメラに向かって、今日一番の輝くような笑顔を向けて拍手をする。

ウニも「キュイ、キュイッ!」と合いの手を入れるように鳴く。


「皆様、ご自身の目でご確認いただけたでしょう! 『星屑の福袋』には、本当に金貨五十枚の鏡が眠っているのです! ……ですが、大変心苦しいお知らせがございます」


俺はわざとらしく表情を曇らせ、両手を胸の前で合わせた。

客の熱狂を瞬時に『焦燥感』へと反転させる、魔のフレーズ。


「ご用意しておりました福袋、残りわずか『百袋』となってしまいました。これをご購入いただいた時点で、本日の祭典は完全に終了となります」


『なんだと!?』

『待て待て待て! まだ私は五十袋しか引いていないぞ!』

『全部私に売れ! 残りの百袋、金貨千枚で買い占める!』


「申し訳ございません。セシリア商会は常に公平を期しております。残りの百袋も、早い者勝ちでございます! ……さあ、最後の運試し、決済ゲートを開放いたします!」


俺がスイッチを弾いた直後、バルコニーの転送陣から、本日最大にして最後の『黄金の間欠泉』が天高く噴き上がった。

残りの百袋は、瞬きを三回する間に完全に蒸発し、俺の手元には、それを遥かに凌駕する暴力的なまでの金貨の山だけが残された。


「……はいっ! たった今、すべての福袋が完売いたしました!」


俺は深く、そして優雅にカーテシーを決める。


「鏡を引き当てた幸運な皆様、心よりお祝い申し上げます。そして、今回は惜しくも鏡を逃してしまった皆様。どうか落ち込まないでください。皆様の『星屑の会員証』には、本日お使いいただいた分のポイントが、しっかりと刻み込まれております」


コメント欄に、安堵と、そして次への期待の文字が浮かび上がる。


『そうか、ポイントがあるんだった!』

『これだけ買えば、次は美容液がタダでもらえるな』

『セシリア嬢! 明日は何を売るんだ! このポイントを使わせろ!』


「ふふっ。明日の夜も、皆様の美しさを一段階引き上げる『魔法』をご用意してお待ちしております。……それでは皆様、最高の夢と、真実の美しき鏡の横で、ごきげんよう」


ブツンッ。

俺は最高の余韻を残したまま、一切の未練なく通信の切断スイッチを押し込んだ。


パァン、と鳴っていた照明用魔石の光が消え、強烈な魔力駆動音が急速にフェードアウトしていく。

バルコニーを包み込んだのは、夜の冷たい風の音と、足元に敷き詰められた数万枚の金貨が、俺の足の動きに合わせてチャリンと立てる、乾いた金属音だけだった。


「……終わったな」


俺は大きく背伸びをし、凝り固まった肩をぐるぐると回す。

肺の奥深くまで冷たい夜気を吸い込むと、脳を焼くようなアドレナリンが少しずつ引いていき、代わりに圧倒的な『達成感』と『支配感』が全身の細胞を満たしていくのが分かる。


「キュイッ!」


ウニが俺の肩から黄金の海へとダイブし、背中の針を器用に使って金貨を何枚も串刺しにして遊んでいる。


「セシリア、様……」


背後から、ひどく掠れた、魂が抜けたような声が聞こえた。

振り返ると、近衛騎士ガラン隊長が、壁に手をついて辛うじて立っている状態だった。

彼の足元にも金貨がうず高く積もっている。

剣の腕では帝国でも五本の指に入る彼が、完全に俺の引き起こした『経済の狂乱』に呑まれ、精神的な疲労でフラフラになっているのだ。


「お疲れ様でした、ガラン隊長。素晴らしい冷却魔法のおかげで、転送陣は一つも壊れずに済みましたよ」


「……ははっ。帝国騎士の魔法を、あのような……いや、もはや何も申しますまい。私は今夜、一人の少女が、剣も魔法も使わずに数千の貴族を奴隷にし、帝都のギルドを壊滅させる瞬間を、この目に焼き付けました」


ガラン隊長は兜を脱ぎ、滝のような汗をぬぐいながら、俺に向かって深く、そして心からの敬意を込めて頭を下げる。


「皇帝陛下が、あなたを『特権商会』として保護した理由が、痛いほど分かりました。あなたは……帝国にとって、決して敵に回してはならない存在だ」


「買い被りすぎですよ。私はただの、追放されたか弱い令嬢にすぎません」


俺がクスクスと笑いながら扇子で口元を隠すと、ガラン隊長は「か弱い令嬢が、一晩で国家予算レベルの金貨を降らせるものですか」と呆れたようにため息をついた。


「さて。これで帝都の基盤は完全に固まりました。……明日からは、倉庫の拡張と、新たな人員の雇用、そして『ポイント』を消費させるための新商品の開発ラインを回さなければ」


俺はバルコニーから夜空を見上げる。

帝国の空は、商売の熱気に当てられたように微かに明るく、果てしなく高く澄み渡っていた。

だが、その視線の先――遠く東の空、俺を追放したアルフェン王国の方向には、重く、淀んだ暗雲が立ち込めているのが見えた気がした。


「……ガラン隊長。念のため確認ですが、アルフェン王国との国境は、現在どうなっていますか?」


俺の問いかけに、ガラン隊長は騎士の顔に戻り、真剣な表情で答える。


「完全に封鎖されています。陛下のご命令により、アルフェン王国からの難民、および商人の入国は一切禁じられております。……密偵の報告によれば、王都はすでに暴徒に占拠され、王城もいつ陥落してもおかしくない状況とのことです」


「そうですか」


俺は冷たい目で、東の空を見据える。

物流を止められ、市場から物が消え、餓えと恐怖に狂った民衆たち。

無能な王太子アルベルトと、欲望にまみれた宰相バルディスが、自らの手で招き寄せた必然の結末だ。


(アルベルト。お前は今頃、暗い執務室で玉座にすがりつきながら、私の名前を泣き叫んでいるのだろうな)


だが、どんなに泣き叫ぼうが、もう遅い。

俺の『通信』はすでにブロック済みだ。俺が彼らに救いの手を差し伸べることは、この宇宙がひっくり返っても絶対にあり得ない。


「私は止まりませんよ。彼らが絶望の底で息絶えるその瞬間まで、私はこの帝国の玉座から、最高のカタルシスを味わい尽くしてやる」


俺は足元の金貨をヒールで軽く蹴り飛ばし、バルコニーの扉へと背を向ける。

ウニが「キュイッ!」と鳴いて、再び俺の肩の上へと跳ね乗ってきた。


世界を熱狂させるECと配信の魔法。

その圧倒的な光が強ければ強いほど、俺を追放した祖国に落ちる影は、より深く、より残酷なものへと変わっていくのだ。

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