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過労死転生した最強悪役令嬢、追放されチートで聖獣とスローライフしてたら冷徹公爵に溺愛された件  作者: 限界まで足掻いた人生
第8章:侵略宇宙盗賊 編

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第483話 忘却の書庫

少女の背後に広がる書庫は、数千、数万という物語の残骸が、色褪せた背表紙となって無限の棚を埋め尽くしていた。そこには、かつて誰かが紡ごうとし、力尽き、あるいは飽きられて捨てられた、完結することのなかった因果の墓標が整然と並んでいる。


「この書庫はね、宇宙のゴミ捨て場じゃない。ここは、未払いのまま放置された情熱の終着駅よ。神崎理子、あんたが買い取った完結権は、この膨大な債務を清算するための担保として機能してもらうわ」


少女は自身の鉄の義手で、一冊の分厚い本を棚から引き抜いた。その表紙には文字がなく、ただ虚無を象徴する灰色だけが塗られている。


「清算? 勘違いしないで。私はボランティアでここに来たんじゃないわ。アリス、この書庫の資産価値を概算しなさい。棚の一段、本の一冊に至るまで、当社の買収価格を弾き出すのよ」


理子は鉄の義手を激しく鳴らし、少女を睨みつけた。彼女の瞳には、絶望的な情報の奔流を前にしてもなお、それを数字に変換しようとする経営者の執念が宿っている。


「概算を開始します。理子最高経営責任者。……驚くべきことに、これらの物語の残骸には、それぞれ独自の因果律エネルギーが休眠状態で保存されています。これらを再起動し、当社のエネルギー源、あるいは新たな市場として二次利用することができれば、新生ユグドラシル社の営業利益は、向こう1000万年は黒字で固定されるでしょう」


アリスの声が司令室に響く。ネットもまた、書庫から漏れ出す情報の断片をデバッグし、その有用性を確信していた。


「理子さん、これ、宝の山ですよ! 捨てられた物語のキャラクターや設定、これらを全部当社の派遣社員として再契約させれば、人手不足は一気に解消します。極鬼や清算人なんて目じゃない、もっと強力な労働力がここには眠っている」


理子の口角が、不敵に吊り上がった。


「いいわね。物語の墓守なんて、退屈な仕事は今日で終わりにさせてあげる。葛城、あんた。この書庫の主権、私たちの連結回路に強制接続できるかしら」


「もちろんよ、理子。これほどまでの情熱の残骸、私の裏国家の法務能力をもってすれば、10分でユグドラシル社の私有財産として登記してみせるわ。少女さん、あんたの持っているその砂時計も、当社の備品として没収させてもらうわよ」


葛城の号令とともに、要塞千代田から無数の情報の触手が放たれ、無限の書庫へと吸い込まれていった。


1. 物語の再契約、あるいは死者の再雇用

理子が書庫の一画に踏み出すと、棚から溢れ出した灰色の霧が、かつての主人公たちの形を成して襲いかかってきた。彼らは物語を終わらされた恨みを、その剣に、魔法に、そして絶叫に乗せて放ってくる。


「お前たちが……新しい筆者か! 俺たちの苦しみを、また消費するつもりか!」


英雄を気取った戦士の影が、大剣を振り下ろす。だが、理子はそれを避けることさえせず、左手で掴み取った理不尽証明書の写しを、その顔面に叩きつけた。


「消費なんて失礼なこと言わないで。私はね、あんたたちに新しい職場を提供しに来たの。物語の完結なんていう、逃げの選択肢を捨てて、当社の不眠不休の営業活動に加わりなさい。死んで眠るより、働いて稼ぐ方が、よっぽど不条理で刺激的だと思わない?」


理子の鉄の義手から放たれた黄金の光が、戦士の影を浄化し、その身体を鮮やかな制服へと書き換えていく。


「契約成立ね。アリス、第12事務センターに新入社員一名。物語の未回収伏線を、全部当社の営業トークに変換させなさい」


理子が歩くたびに、周囲の物語の残骸は次々と新生ユグドラシル社の資産へと組み替えられていった。絶望していたヒロイン、倒された魔王、忘れ去られた村人。彼らすべてが、理子の傲慢なまでの「黒字への招待」を受け入れ、要塞千代田を支える新たな歯車へと変わっていく。


2. 債権者の代理人の沈黙、あるいは経営の格差

少女は、自身の管理していた書庫が、凄まじい速度で「買収」されていく光景を、砂時計を止めたまま見つめていた。


「あり得ないわ。ここは宇宙の因果が停滞する場所。それを無理やり動かして、利益に変えるなんて。あんた、物語を何だと思っているの?」


「物語? そんなの、ただの流動資産よ」


理子は少女の目の前まで歩み寄り、その小さな肩を掴んだ。


「少女さん。あんたの雇い主、真の債権者に伝えて。宇宙の果てまで終わらせないなんて、そんな消極的な目標は捨てなさいって。私はね、宇宙が終わった後の二次会まで、しっかりと収益を上げるつもりなんだから。あんたも、こんな暗い書庫で残業代も出ない管理人なんてやめて、当社の広報にでも転職したら?」


少女の瞳に、初めて狼狽の色が走った。彼女の計算を、理子の不条理な経営学が完全に上回った瞬間だった。


要塞千代田は、書庫の全エネルギーを吸収し、黄金の翼をさらに巨大化させて次元を跳ねた。


背後に残された書庫は、もはや静寂の場所ではなかった。そこには、新たな業務に励む数百万の社員たちの声が、新しい宇宙の鼓動として響き渡っていた。


理子は司令席に戻り、アリスが淹れた新しいコーヒーを口にした。


「さあ、次はどこへ営業に行こうかしら。書庫を整理したおかげで、ネタは山ほどあるわ。葛城、あんた。次のターゲット、もう決めているんでしょう?」


「ええ、理子。この書庫の奥底に隠されていた、真の債権者の領収書の原本。その署名主のところへ行くわよ。……神々の親会社、宇宙創造株式会社。そこが私たちの、次の監査対象よ」


理子の不敵な笑みが、書庫を抜けた先の未知の次元に向かって、誰よりも誇らしげに輝いていた。

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