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聖女騒動~聴取の音声記録と調査官の日記  作者: マツモト和磨


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調査官 アリウーラ教会 司教 ニクラウスの日記~ブロックバルド暦821年3月20日

 王太子殿下はこんな軽率な方だったろうか?


 実直で公平、生真面目で正義感の強い慎重な方だったかと記憶していた

 ひとめぼれをしたフィール子爵令嬢と添い遂げたい一心で婚約者を排除しようと考える人ではなかった

 自分のお立場を十分理解していて、もし誰かにひとめぼれしたとしても自分の気持ちに蓋をしてなかったこととして生きていく覚悟を持った人だったはずだ

 それが、わざと騒ぎを起こして婚約の解消、廃嫡を狙い、立場を下げてフィール子爵令嬢を娶ろうと画策するとは…


 いつもは寡黙でクールな殿下が少し嬉しそうにフィール子爵令嬢との出会いから日常での逢瀬やらの話をしてくださった


 フィール子爵令嬢との出会いは、まだフィール子爵令嬢が高等学園に入学する前、つまり殿下が高等2学年生の頃だったそうだ

 夏季休暇中、コモンノルド公爵令息に付き合ってお忍びで出かけたフィール子爵領、その商店が並ぶ区画でお付きの騎士やコモンノルド公爵令息とはぐれて道に迷っている時に助けてくれたのがフィール子爵令嬢だったらしい

 その見た目と所作の美しさに眼を惹かれ、鈴を鳴らすような涼やかな声に心が震えた…らしい

 所作の美しさから同じくお忍びで遊びに来ている高位貴族の令嬢と思ったが、話していくうち、その領の領主であるフィール子爵家の養女であることを知った


 元平民のふたつ歳下の子爵令嬢


 身分の違いや、既にバスティア侯爵令嬢との婚約が決まっていたこともあり、旅先での一度だけの出会いと心の中でいい思い出として生きていく決意をしていた

 しかし、次春の入学式で新入生席に座る彼女を見つけ、これは運命だと思ったらしい


 運命も何も、この国の貴族は必ず王都の高等学園に通わねばならない決まりなので学園でいずれは出会うことは分っていたはずでは?と突っ込みたい気持ちも無きにしも非ずだが、まぁ、殿下はその事に運命を感じたらしい


 入学式の後、話しかける為、講堂を離れた彼女を追いかけようとしたが、バスティア侯爵令嬢に話しかけられたため、追うことができず仕方がないのでしばらく様子を見て話しかけるタイミングを計っていたそうだ

 幾度か声をかけられる機会があったが、婚約者がいる身なのであいさつ程度で我慢していたところにベルモンヌ子爵令息から彼女が『聖女』だという話を聞かされ、これはチャンスだと思ったのだとか


『聖女』を保護するという名目で彼女を側に置けるとそう考えた


 授業中は学年が違うので隣にいることは難しいが、授業以外の時間は常に彼女のそばにいた

 遠慮がちに自分を気遣う心の優しさに彼女と一緒になりたいという思いが日に日に大きくなっていったという

 或る日、ふと、『聖女』の婚姻の決まりを思い出し、殿下(じぶん)に婚約者がいるままでは彼女は婚約者のいない弟のエドワード王子と婚姻を結ぶことになるのでは?と気が付き、今のバスティア侯爵令嬢との婚約を何とか解消できないかと画策を始めたそうだ


 弟君にフィール子爵令嬢を奪われるのがどうしても我慢できなかったのだという


 そんな理由で何の咎もないバスティア侯爵令嬢を皆の前で貶めるとは


 ベルモンヌ子爵令息にしても、フィール子爵令嬢から口止めをお願いされていたというのにペラペラと他の者に話してしまうのは如何なものか…

 しかも、教会への報告の義務を忘れて…


 教会が先にフィール子爵令嬢を保護できていたら、今回の婚約破棄騒動は起きなかっただろう

 バスティア侯爵令嬢にも申し訳ないことをした

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