聴取記録:王太子アレクサンドル・エラ=ブロックバルド殿下~3月20日 午後1時 王城内聴取室
―ベルモンヌ子爵令息からフィール子爵令嬢を『聖女』と考えた出来事の話を伺いました。先に殿下からお聞きしていた話と相違ございませんでした―
当たり前だ、私たちは嘘などついていないのだから
―教会に連絡を入れる前にフィール子爵令嬢が『聖女』であると声明を出したのは殿下の案でいらっしゃいますか?―
ああ、そうだ。何か問題でも?
―問題しかないと思いますが?王族でいらっしゃるのですから『聖女』の判定は教会でしかできないことはご存じではありませんか―
どうせ聖女と認定されるのだから多少の前後はさほど問題あるまい
―問題があるからこうして聞き取りが行われているとは考えませんか?―
…
―殿下はベルモンヌ子爵令息から聞いた話だけでフィール子爵令嬢を『聖女』だと判断なさったのですか?―
リノリーの話を聞く少し前から予感の様なものを感じてはいたんだ
やたら動物に懐かれるところや彼女と話すと何故か胸が温かくなり気持ちが軽くなった気がするところだとか…そして、リノリーの腕を『復活』させた奇蹟で確信を持った
―『聖女』と発表なさる前からフィール子爵令嬢に入れ込んでいらしたという連絡も受けておりますが―
穿った見方をするな
慣れない貴族社会や学園生活で何か助けられることがあればと考えてのことだ
―それは婚約者であるエレオノーラ・バスティア侯爵令嬢を蔑ろにしてでも必要なことですか?―
アレがそう言ったのか?アレが何を言ったかは知らんが
―侯爵令嬢をアレ呼ばわりはおやめなさい。バスティア侯爵令嬢からはまだお話を伺ってはおりませんが、お噂はたくさん流れてきておりますので―
聖職者がくだらん噂話を本気にするとは…
―噂だけでなく一部の教会関係者が目撃しており、そちらからも報告を受けております―
何を見たかは知らんが、私は別にそんなことは…
―そうですか?肩や腰を引き寄せていらしたそうですが、婚約者でもない女性との距離とは思えませんがね―
…チッ
―舌打ちはおやめなさい。『聖女』の婚姻は王族又は王家の血を受け継ぐ高位貴族に限る。『聖女』が王家から生まれた場合は高位貴族家のいずれかに、高位貴族家のいずれかから生まれた場合は王家へ嫁ぐ。という決まりでしたね。貴方がバスティア侯爵令嬢と婚約したままだとフィール子爵令嬢が『聖女』と認定された場合、『聖女』と婚姻を結ばれる第一候補は第二王子のエドワード殿下になります―
…突然、何の話だ?
―だから貴方はバスティア侯爵令嬢と婚約を解消する必要があった。だけど、優秀なバスティア侯爵令嬢と婚約を解消するのは今のままでは到底難しい。なので、貴方は一連の嫌がらせをこれ幸いとバスティア侯爵令嬢の仕業に仕立て上げたのではありませんか?―
……
―この部屋の中では真実しか話せません。だから沈黙を守っていらっしゃるのですね?―
……
―そんなにお嫌だったのですか、弟君が『聖女』と結ばれるのが―
…『聖女』がエドと結ばれるのが嫌だったのではない
彼女がエドと一緒になることが嫌だったのだ
―他にもっとやり様があったのではありませんか?何もバスティア侯爵令嬢の心を傷つける様な真似をしなくても…―
私の事が好きだったとしてもアレはこんなことでは傷つかないよ
とても強い女だからな
それにアレがそんな、人に嫌がらせをしたり、命じたりする様な人間ではないことは、皆が知っている
無能な王太子に無実の罪で断罪された気の毒な侯爵令嬢という状況を作りたかったんだ
そうすれば、エレオノーラとの婚約は破棄されるだろう
もしかしたら廃嫡されるかもしれないが、婚約破棄することで『聖女』であるアリサと釣り合いの取れる『婚約者のいない王族』は私ということになる
『聖女』の婚姻相手の決まりを見るに、王籍から離脱されることはないだろう
―だから、侯爵令嬢をアレ呼ばわりはおやめなさい。しかし、何故、そこまで…?学園でただ出会っただけの子爵令嬢に…―
初めて出逢ったのは学園ではないんだ
―もっと前に面識があったと…?―
話すと長くなる…それでも良いか?
―ええ、話してください―
承知した…




