調査官 アリウーラ教会 司教 ニクラウスの日記~ブロックバルド暦821年3月19日
リノリー・ベルモンヌ子爵令息が言うにはこうである。
『将来魔法騎士団に入隊したいベルモンヌ子爵令息は自身の魔力貯蔵量の少なさを危惧しており、あらゆる訓練等を行って魔力貯蔵量を増やそうと努力していた。
だが、その努力はどれも実を結ばず、焦っていた令息はある魔術の本に載っていた禁呪に手を出してしまう。
或る日の放課後、学園裏の森の入り口近くで魔術書からの書き写しを見ながら禁呪を試してみたが、その扱いに苦戦し、うっかり学園内の木を数本破損してしまった
予想外の事に慌てたことでパニックに陥り、魔力暴走を引き起こし腕の一部(手首から肘にかけての上腕部)を深く抉ってしまった。
痛みで動けずにいたところに、たまたま近くにいたというフィール子爵令嬢が現れ、聖魔法で傷を治してくれた。
痛みで意識が朦朧とする中、フィール嬢が彼の腕を取り怪我の部分をやさしく撫でた瞬間、眩い光が手から発せられ眩しさに目を閉じ、次に目を開けた時には腕が元に戻っていた。』という
実際のところ、どこまで酷い怪我だったのかは不明だが、ベルモンヌ子爵令息の証言によると骨が見えるほど深く肉をそぎ落としたレベルの怪我だったようだ。
通常の水魔法による治癒でも怪我を治すことは可能だが、欠損した箇所を元の様に戻すことはできない。
令息がいうレベルの怪我の場合、治癒魔法でできることは止血と痛みの消去、後に行う外科手術のための応急処置のみである。
多少の切り傷程度なら治癒魔法で完治可能だが、肉がそぎ落とされた箇所を再生することは不可能である。
それが可能なのは聖魔法による『復活』だけだ。
しかし、王家の血を引く高位貴族の子女にしか聖魔法は現れない。
そして、フィール嬢は下位貴族の子爵籍で、ましてや元平民である。
ベルモンヌ子爵令息に怪我をしたという箇所を見せてもらったが傷痕ひとつない綺麗な腕だった。
令嬢が黒魔法の幻覚魔法を使用した可能性も捨てきれないが、そうするとベルモンヌ子爵令息が禁呪を使おうとしている早い段階からすぐそばで影を潜め幻覚魔法を使用していたことになる。
彼がそこで禁呪を使用すると知っていなければその作戦は成り立たない…
禁呪自体が仕込みだった場合は別として…
どうやら当日のアリサ・フィール子爵令嬢の動向調査も行わねばならないようだ




