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聖女騒動~聴取の音声記録と調査官の日記  作者: マツモト和磨


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運命の出逢い~初恋のはじまり~ブロックバルド暦819年7月

「どうかなさいましたか?」


 後の側近候補で現在友人で同じ生徒会役員でもある公爵家の嫡男、サミュエル・コモンノルドの夏期休暇の旅先に同行していたアレクサンドル・エラ=ブロックバルド王太子は王都で見たことのない野菜が市場で売られているのに気を取られ、余所見をしている内にサミュエルやお付きの騎士と逸れてしまい途方に暮れていた。

 これが王都の城下街ならばはぐれたとしても城を目掛けて歩けば良い。だが、ここは初めてくる片田舎の領で、ましてやまだ領主屋敷に到着する前の為、何処に向かえば良いかも判らない。


「どうするべきか…」

 こんな日に限って通信用の魔石を馬車の中に置いて来てしまった。

 お忍びでの来領である為、誰かに尋ねるにしても人を選ばなければ…と考えキョロキョロと周りを伺っていると後ろから澄んだ鈴の音の様な柔らかい声が聞こえた。

 振り返るとストロベリーブロンドの髪を靡かせた美しい少女が立っていた。

 その美しい立ち姿に思わず息を呑む。

「何かお探しでいらっしゃいますか?」

 自分よりも少し年下であろうその少女はアレクサンドルを上目遣いに見つめると小首を傾げ今度はそう尋ねた。

「ああ、ちょっと連れとはぐれてしまってね」

「そうなのですね、もし宜しければお連れ様の特徴をお伺いしてもよろしいですか?」

 アレクサンドルが突然の問いと申し出に少し警戒心をみせると、少女は優しく微笑み頭を下げた。

「差し出がましい事を口にした様で失礼致しました。右手に見える建物の横の道を入り3件程行った所に町の警邏隊の事務所がございます。そちらに行けばお連れ様を探して貰えるかと。それでは、私はこれで…」

「いや、あの、ちょっと待ってくれ、ない…か?」

 きびすを返して立ち去ろうとする少女を思わず呼び止める。

 その声に少女が驚いて立ち止まるが、驚いているのはアレクサンドルも同じだった。

 何故自分は呼び止めたのか分からず口を押さえていると、少女はゆっくり振り返りアレクサンドルを見上げ再び小首を傾げた。

「何かご用がおありですか?」

「えっと、あの、その警邏隊の事務所まで案内して貰えないか?」

 先ほど聞いた説明で簡単に迷わず行けるにも係わらず、そう申し出た自分に警戒しやしないだろうか?と心配気に見つめていると少女は

「よろしいですよ、ご案内致します」

 と小さく微笑んだ。

 アレクサンドルは少女と並んで歩きながら横目で少女の全身を観察した。


『質素なワンピースに白いレースのエプロンをつけていると言うことは町の中の何処かのお店の子供だろうか?その割には言葉遣いや所作が美しい…貴族に見初められる様にと親が教育を施したか?』等と考察していると少女がアレクサンドルを見上げて尋ねる。


「フィール領には、観光でいらしたのですか?お見受けしました所、高位の方でいらっしゃいますね。」

「友人の避暑についてきたんだ。到着してすぐにうっかりはぐれてしまったけどね」

「まぁ、ではまだ何処も見回っていらっしゃらないのですか?」

「ああ、野菜屋の屋台に置かれたモコモコした白いヤツに目を奪われていたら誰もいなくなっていたんだ」

「ふふ、花瓜ですね。あれはフィール領の特産品のお野菜でこちらだけで食べられていますから、領外の方は見慣れないですものね」

「どんな味がするんだい?」

「実はそのままだと何の味もしないんです」

「えっ?それって美味しいのか?」

 アレクサンドルの驚きに少女がくすくすと笑う。

「野菜自体に味がない分、お出汁やソースの味が良く染み込むんです。シチューとか煮物に入れると美味しいですよ」

「滞在中に一度食べてみるよ」

「ええ、ぜひ」

 話ながら歩いている内に警邏隊の事務所に到着してしまい、アレクサンドルは内心がっかりした。

 もう少し話をしていたかった。

 少女が事務所の扉を開けようとする手に手を伸ばした時、背後から

「アレックス、見つけた」

 と聞き慣れた声が聞こえ、声が聞こえた方に顔を向けると息を切らして駆けてくるサミュエルの姿があった。

 心の中で『タイムリミットか…』と呟き小さく息を吐くと、少女が駆けてくるサミュエルを見て

「サミュエル坊ちゃま?」

 と驚きの声をあげた。


「アリサ?どうして此処に?」

「もしかして、坊ちゃまのお連れ様でらっしゃいますか?」

「その『坊ちゃま』と言うのはやめてくれ。君に坊ちゃまと呼ばれたくないんだ、名前で呼んで」

「サミー、知り合いか?」

「お世話になるフィール領主の令嬢です。場所が場所なのでキチンとした挨拶は領主屋敷で」

「ああ、そうだな」

 サミュエルの言葉にアリサが小さく会釈する。

 そのアリサの手からカゴを取り上げるとサミュエルが周りをキョロキョロ伺いながら声をかける。

「アリサはひとりなのか?護衛は?」

「この町で私に悪いことをする人なんて誰もいないもの、ひとりで大丈夫」

 少し胸を張るアリサに笑いながらサミュエルがカゴの中を覗き込む。

「用事は何だったんだ、もう終わったのかい?」

「はい、今日の晩餐に出すお肉と野菜が少し足りなくて買い足しに来ていたんです」

「メイドの仕事だろう?」

「皆、朝からバタバタと忙しくしているから、少し暇だった私が」

「歩いてきたのか?」

「行きはお屋敷に配達に来てくれた卸し屋さんの馬車の荷台に乗せて貰ったんです」

「帰りはどうするつもりだったの?」

「あら、そういえばどうするつもりだったのかしら、私?」

「一緒に乗って帰ると良いよ。良いですよね、アレックス?」

 サミュエルと仲良く話すアリサの姿を伺い見ながらコロコロ変わる表情にアレクサンドルは密かに胸を弾ませる。

 アリサに見とれていると突然サミュエルに声をかけられ、アレクサンドルは少し動揺しながらサミュエルに返事をした。

「えっ?あ、ああ、良いとも」

「ありがとうございます」

 馬車の傍で待機していた護衛と合流すると3人は馬車で領主屋敷へと向かった。


 そうして、アレクサンドルはサミュエルとアリサと共に1週間程フィール領で過ごしたのだった

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