波乱の卒業式~ブロックバルド暦821年3月18日
「エレオノーラ・バスティア侯爵令嬢、その場に立ちたまえ」
卒業の儀式も滞りなく進み、最後の卒業生代表の挨拶を主席で卒業するこの国の王太子であるアレクサンドル・エラ=ブロックバルドが檀上で行っている最中、突然声を荒げて婚約者の名を呼んだことに壇下の椅子に座って王太子の姿を見上げていた生徒たちが驚いた表情で見上げた
卒業生の座る椅子から徐に2人の男子生徒が立ち上がる
それを見た在校生席の1人の男子生徒がすくっと立ち上がると軽やかな足取りでひとりの女生徒のほうに駆け寄った
「聞こえないのか?その場に立ち上がりたまえ」
その声に合わせたように立ち上がっていた在校生席の男子生徒が女生徒の腕を掴み立ち上がらせると壇上に向かって歩き出した
「リノリー様、待ってください」
「大丈夫です、聖女様。僕たちに任せてください」
軽く抵抗する女生徒をリノリー・ベルモンヌ子爵令息がぐいぐい引っ張りながら先に壇上に到着していた卒業生席から歩いてきた男子生徒2人のもとへと歩みを進める
女生徒をエスコートし壇上に上ると、リノリーは王太子にその女生徒の身柄を引き渡した
王太子が微笑みながら女生徒の腰を引き寄せると壇下からソレを咎める声が響いた
「アレクサンドル殿下、無暗に婚約者でない女性の身体に触れてはなりませんと以前にもお伝えしているはずですが、お忘れになられた様ですね」
すっと優雅に立ち上がったエレオノーラ・バスティア侯爵令嬢が呆れた様に息を吐く
「相変わらず生意気な物言いだな」
「お褒め頂き光栄にございます」
冷たく見下ろす王太子にエレオノーラが薄く微笑む
「それよりも、フィール嬢の腰に触れる御手をお離しなさいませ。彼女が困っておいでです」
「嫉妬か、みっともない」
「貴方様こそ、相変わらず人の話を聞きませんわね。嫉妬ではなく常識の話をしているのです」
「お前が私と懇意にしているアリサに嫉妬して取り巻きの女生徒を使って嫌がらせを行っているのを私は知っているのだぞ」
「わたくしではありません」
「しらばっくれるのはやめろ、お前以外誰がいるって言うんだ」
檀上に上り王太子の後ろに控えていた男子生徒、ビンセント・エルモア伯爵令息が声を荒げる
「エルモア伯爵令息、言葉に気をつけなさい。わたくしのほうが貴方の家よりも位が高いのですよ」
「ほら、そうやって爵位を振りかざして相手を脅して!最低です!」
リノリーがビシッとエレオノーラを指差して言い放つ
「ベルモンヌ子爵令息、人を指差してはいけないとご両親から教わりませんでしたか?」
「今度は僕の両親の悪口ですか?最低ですね」
「そうではありません、常識の話をしているのです」
再び呆れた様に息を吐くとエレオノーラは王太子に抱き寄せられているアリサのほうに目を向けた
真っ青な顔色で小さく震えているアリサにエレオノーラが同情の顔をみせる
「え、エレオノーラ様、わたくし…」
「大丈夫よ、アリサ」
「アリサを脅すのはよせ!」
「脅してなどおりません」
「とにかく、お前のこれまでの悪事は総て暴かれた。権力を使い人を迫害する様な人間は王妃には相応しくない。よって、この場でお前との婚約を破棄させて貰う」
王太子の言葉に、それまで呆然とこの状況を眺めていた生徒達がざわめき出す。
「そして、ここにいるアリサは聖女だ。聖女を迫害したお前には侮辱罪が適用される。罰として国外追放を命ずる!」
声高々に宣言した王太子にエレオノーラが片手で頭を押さえながら大きなため息を吐き出す。
ようやく大慌てて走り寄って来た学園の先生方によってその場は解散させられ、卒業式はお開きになった。
卒業式に参列していたアリウーラ教会の司教ニクラウスが王城の宰相室に呼び出され、今回の騒動に関わる一連の調査を命じられた。
「司教にはお手数をおかけする」
軽く頭をさげた宰相にニクラウスは「お気になさらず」と声をかけ、きびすを返す
「あの馬鹿息子は何故とめない…」
宰相が小さくぼやいた言葉を背に、檀上にいて最後まで何の言葉を発しなかったサミュエル・コモンノルド小公爵の姿を思い出しながらニクラウスは宰相室を後にした




