第三話 レンディル駐在所
王宮魔法警備隊のバッジを失くした僕の新しい職場は、レンディル駐在所という、ひどく古びた石造りの建物だった。窓硝子は汚れ、風が吹くたびに建付けの悪いドアがガタガタと鳴る。
「……あはは、想像以上にお手入れしがいがありそうな場所だね」
「あ, あの……アルトくん。わ、私、お掃除がんばります……っ」
隣で白い髪の隙間から覗く耳を真っ赤にしながら、アオイが僕の服の裾をぎゅっと掴んだ。
彼女はあの教会で呪いを解いて以来、僕の隣を片時も離れようとしない。
ただ、僕に見つめられるだけで知恵熱が出そうなほど顔を真っ赤にしてしまうくらい、とにかく内気で、僕のことが大好きな女の子だった。
「アオイ、掃除は僕も手伝うから、一緒にやろうね」
「は、はい……っ! アルトくんと一緒に……えへへ」
アオイは雑巾を胸に抱きしめてフニャフニャと蕩けた笑みを浮かべている。可愛いけれど、ちょっと心配だ。
掃除を始めてしばらくすると、駐在所の重い扉が開き、一人の青年が入ってきた。ボロボロの警備隊の制服を着て、酷い隈を浮かべた、現地採用の部下――ハンスくんだった。
「……あ。あなたが王都から左遷されてきた、新しい駐在騎士のアルトさんですか? 俺はハンスです。まぁ、見ての通り、この街にはもう守るべき治安なんて残ってないですけどね」
ハンスくんは諦めきった目でため息をついた。
彼から話を聞くと、このレンディルという街の悲惨な現状がよく分かった。
元々は豊かな魔鉱石が採れる炭鉱都市だったこの街は、数年前から急激に土地が枯れ、鉱山も閉鎖。
住民たちは国から「開発の損失補填」という理不尽な重税を課され、借金まみれにされて通行証なしでの外出を禁止されているのだという。
「みんな、ただ死ぬのを待ってるだけなんです。水も土も呪われていて、まともな農作物も育ちやしない。王都の上層部は、俺たちをここに閉じ込めて、干からびるのを観察してるんですよ」
ハンスくんの言葉通り、彼の魔力波形はひどく乱れていた。栄養失調と、この街に満ちる『不自然な魔力の枯渇』のせいで、慢性的な貧血状態にあるのだ。
「ハンスくん、そんなに気落ちしないで。……そうだ、長旅で僕もお腹が空いたし、まずは温かいお茶でも飲まないかい?」
「お茶、ですか? 悪いですが、この街の水は泥の臭いがして、飲むと頭が痛くなるような悪水だけですよ」
「大丈夫、ちょっとだけ僕に任せてみて」
僕はそう言って柔らかく笑い、駐在所の裏手にある古い井戸へと向かった。
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